羽毛ぶとん
武はふと空を見上げた。
遥か彼方上空、ジェット機が飛行機雲をひきながら、飛んでいた。
「あっ!」
刹那、身体の芯を電気が走った。
ーなんじゃ、これ、何なの、一体ー
体から力が抜けていく。
膝に力が入らない。地面に膝がつく。
ーオレ、死ぬのかな、、、死ぬって、こんな感じなんだー
ー多分、雷がオレを直撃したんだろう。あー、ついてなかったよー
ーせめて、小百合にさよなら、言いたかったなぁー
高校に入ってすぐ、武はクラスメイトの小百合に一目惚れした。おとこ友達の応援にも励まされ、告白し、OKをもらったばかりだった。
まだ、二回しかデートしていない。
映画と、何だっけかな、そう、美術館に行ったんだった。薄れ行く記憶。楽しかったデートを思い返していた。
映画は、、、そう、学園ギャンブルもの。ギャンブルに絶対負けない、女子生徒が生徒会長にまで上りつめる話し。コメディー。初デートで観る映画としては無難だった。
武の全身の力はさらに抜けていき、とうとう四つん這いになった。
ーもう、オレの最期は、角を曲がればすぐだー
武の呼吸は徐々に荒くなっていく。
ーこれって、即死なのかな?よく分からん。走馬灯とはよく言ったものだー
美術館。ゴッホ展。デレビでよく観る「ひまわり」。
テレビ画面からは分からない、油絵の具のもり上がり具合。凄い迫力。死ぬまえにみといてよかったよ。
息が切れてきた。呼吸が苦しい。
次はUJSに誘うつもりだった。水面を駆け抜け、上下左右にうねるジェットコースター。
キャー。大丈夫だ。俺につかまっとけ。
ちと、狙いが不純だったかなぁ。
そのバチかもな。
なんか、よう分からんが、もうオレはだめだ。今まで支えてくれた人たち、ありがとう。みなさん、お元気で。
と、肩を掴む何かがあった。
その何かが、自分を持ち上げる。上下にふる。
「おい、しっかりしろ」
ソフトボールのキャッチーをしてた、同級の山岡だ。
意識が蘇って来た。
「オレも悪いが、よそ見してたお前もお前だ。投げた瞬間、空見上げんだもんなぁ」
寸前のところで助けられた気がする。
下半身の血管がドクドク。そっと触れる、パンパンに腫れ上がっている。
山岡の言う事ももっともだが、急に怒りが込み上げてきた。
「お前、二倍になってるよ、二倍、二倍」
「このまま、二倍が続くんだったら、羽毛ぶとん、プレゼントするよ、まったく」
ーおわりー