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奴隷少年の建国譚  作者: にひけそい
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第四話 従者の誓い


 夜を思わせる深い藍色の瞳が品定めするようにアルスを覗き込む。

 銃口を向けられたままだというのに、全く臆する気配の無い彼女は、無造作に伸ばされた甘い香りのする髪の毛の一本一本が見える程に近づいてくる。


 「ふむ、ふむふむふむ」

 「・・・近いぞ」


 アルスが鬱陶しそうに手を振ると、メイド姿の女性は踊るように下がりながら頭を下げる。


 「これは失礼しました。私はセーダと申す。この度は我が主君となるに相応しいお方を見つけたので、ここまで参った次第でありんす」

 

 やたらとぐちゃぐちゃな言葉だったが、大筋は伝わった。しかし、そのせいで逆に目の前の女性に不信感が募る。

 

 「雇主探しに労働区を?下僕を盗みに来た盗賊と言った方が真実味があるぞ」

 「確かにそうですね。ですが、これは真実である・・・っす」

 「む・・・」

 

 不信感は拭いきれなかったが、目の前の女性に敵意が無いのも事実、アルスは無理やり納得する事にして話を無理矢理切る事にした。今は時間が惜しい。


 「分かった。雇主探し、頑張ってくれ。それと通信機を破壊してくれた事、感謝する。アカツキ、ソフィア、行くぞ」

 

 しかし、歩き出そうとしたアルスの足を掴んだ者が居た。


 「ま、待て・・・貴様ら奴隷が外に出るなど」


 それは苦しそうに呻く男性の看守だった。

 

 「チッ」


 銃口を向けるが、彼が手を離す気配は無い。

 苦い顔をしながら、アルスが引き金に力を込めようとした瞬間ーー。


 「失礼」

 「ガッ・・・」


 男性の首筋に小さな針が刺さった。

 その直後、彼は全身の筋肉を弛緩させて意識を失う。針を投げたのはメイド姿の女性、セーダだ。


 「殺したく無いのであればそれを隠す必要などありますまい。手は綺麗である事に越した事は無いでしょう」

 「・・・人の心を勝手に捏造するな」


 銃を下ろしながら言うが、セーダは見透かすような眼差しでアルスを見つめるだけで、それ以上を語ろうとはしなかった。

 奇妙な沈黙がこの場に降りる。


 「アルス、そろそろ行こうぜ。看守に追いつかれたら面倒くさいしな」

 

 そんな沈黙を誤魔化すように、丁度よく挟み込まれたのはアカツキの言葉だった。

 アルスは彼の言葉に頷くと、セーダから視線を切り離す。

 そのまま階段へと向かうが、アルスの耳に自分のを含めて4つの足音が聞こえてきた。


 「・・・何故付いてくる」

 「はて?おかしい事があったでしょうか?」

 「お前、雇主を探すのは良いのか?」


 アルスに言われて思い出したようにセーダは手を合わせる。


 「ああ、そういえば言ってなかったっすな。もう、主人は見つけたですのよ」


 そう言いながら彼女はゆっくりと指を上げる。

 その指の先に居るのはーーアルスだ。


 「アルス、貴方こそが私の最初にして最後の主人」


 アルスは眉間にシワを寄せつつ、懐疑の視線を向けるが、セーダは全く気にせず近寄ってくる。


 「成る程、言葉では私の決意は伝わりませぬか・・・では、少々お手を失礼」

 「おい、何を」

 「直ぐに終わる・・・ます」


 セーダの細い手が傷だらけのアルスの手と重なった瞬間、二人の手の甲に紋章が浮かび上がった。

 白い光を放つ紋章は直ぐに消え去るが、お互いの手の甲には紋様がしっかりと残っており、消せそうにない。


 「ッ、何をしてる!これの意味を分かっているのか!」


 セーダの腕を振り払うが、彼女は慇懃に頭を下げるだけだ。


 「当然、言葉では足りないから行動で示したまでなり」


 セーダとアルスの間に交わされたのは『聖約』と呼ばれる、精霊を介しての契約だ。

 決して破る事のできない約束のようなもので、本来は二人の間の合意が無ければ結べないのだが、唯一の例外として結ぼうとする側が完全服従を誓う場合のみ、一方的に結ぶ事が出来る。

 そして、当然ながら先程の『聖約』に関してアルスは一切干渉していない。


 「教えてくれ、お前はどうして俺にそこまで尽くそうとする。悪いが、俺はお前の事など知らん」

 「当然だろうね。私が一方的に知っているだけですから。けど、貴方に私の全てを託すには十分な程、私は貴方を知っていますです」

 「意味が分からん・・・後でしっかりと理由を聞かせてもらうぞ」

 「ええ、勿論です」


 返事を聞いてから再び階段を登ろうとして、思い出したようにアルスは振り返る。


 「それと」

 「?」

 「下手な敬語は辞めろ、普通に話せ」

 「わかりま・・・わかったよ」



 

 僅かに残っていた看守達は全員、セーダにより無力化されていた為、一行は直ぐに昇降機へと乗ることが出来た。

 鎖の音が響く昇降機内では、しばらくの間、全員が無言だったが。


 「どうしたの?」

 「いや、何でもない」

 「そう?」


 ソフィアにジッと見られていたセーダが尋ねる。素っ気無いソフィアだったが、セーダがソフィアから視線を外すと、再びセーダの事を見始めた。


 「ソフィア、明らかに何かあるだろ」

 

 流石に気になってアルスが質問するが、彼女は首を振ると別の方に視線をやって、しばらくしてからまた、セーダに視線を戻す。


 「アカツキ、あいつが何をしているか分かるか?」

 「んー、警戒してんじゃねえの?俺っちも自分より強い奴見ると、何気なく観察するしな」

 「露骨なのは、経験の無さ故か」

 「かもな」


 そんな事を話している内に数字板が一階へと近づいていく。


 「無駄話も終わりだな。さあ、行くぞ」


 アルスが言うと、全員が戦闘態勢に入る。

 そして、昇降機の扉が開いた瞬間。


 「撃てぇえ!」

 

 眩い閃光と同時に無数の弾丸がアルス達を襲った。




 



 


 

 


 

 


 


 

 

 


 

 


 


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