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奴隷少年の建国譚  作者: にひけそい
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第一話 剣聖との出会い


 アルスが奴隷として、地下労働区に送られてから4日目の夜のことだった。

 地下労働区からの脱獄計画を考えるアルスの肩を誰かが叩いた。

 普通、劣悪な環境で長時間肉体労働を強いられた奴隷達は夜遅くまで起きてることは無いから、僅かな驚きと共に振り返る。

 すると、そこに居たのは昼間助けた老人だった。


 「ども、昼は助かったぜ。借り一つだ」

 「あんたは・・・」

 「俺っちの名前はアカツキってんだ。よろしくな、アルス」

 「・・・ああ、成る程、あんたが」

 「ん、知ってんのかい?俺っちの事」

 「当然だ、この国でアカツキ、しかも奴隷とくれば知らん奴は居ないだろう」

 

 アカツキ・シラヌイ、かつてこの国で剣聖と呼ばれた男だ。

 異邦人でありながら、己の腕一本でそこまで成り上がった彼だったが、アルスの父親に幼少期から剣を教えていたことが原因で捕らえられ、奴隷にまで落とされた。

 そんな彼はアルスの反応に感心したように戯けた様子で手を鳴らす。


 「成る程、それなら話は早い。お前さん、俺っちに剣を習う気は無いか?」


 アカツキの提案、父親に教えたのだからその息子にも、というのはそんなにおかしな物ではない。だが、場所が場所だ。


 「こんな場所でか?」


 アルスが尋ねると、アカツキは立ち上がり、剣を構える所作を行った。

 ただの動作、しかし、アルスには彼が剣を握っているのが分かる。

 一瞬とはいえ、卓越した剣気を見せた彼は疲れたように腰を下ろす。

 

 「剣を習うのに場所は関係ねえのよ。剣なんてのは所詮棒振りと変わんねえのさ」

 「確かに、良い物を見せてもらった。良いだろう。では、手始めに俺は何をすればいい?」

 「そうさな、取り敢えず、今日の所はゆっくり寝ましょうや。何をするにも、体力が必要だ。最近寝てないあんたじゃ駄目だね」




 

 翌日から労働の合間にアカツキの修行が加わる事になった。

 修行といっても肉体を鍛えるようなことはしない。毎日、まともな飯も無く、過酷な労働を強いられている為、それ以上の負荷を掛けたら肉体が壊れてしまうからだ。

 よって、修行の内容は基本的に口伝と1日二回までの素振り。素振りといっても剣は無い、己の意識の中にある剣のみを振るう


 

 修行開始から3日が経った。

 まず分かったこと、アカツキの教える技は全て片刃の剣を想定したものだった。我流であるため、正しい流派の名前は無いらしいが、一応アカツキ流と銘打っているようだ。

 また、アカツキ流は極限まで柔を極めた剣だという。恵まれた体格を持たなかったアカツキが勝ち続ける為に、考え出した技が多く、彼は力の流れや斬る物の弱点を見極める事こそがアカツキ流の基本にして奥義だと言った。




 一週間が経ち、七つの基本形全てを教えて貰った。

 基本形とはアカツキ流の根底を成す形であり、アカツキ流の技はこれらの基本形を応用し、組み合わせる事で出来るのだという。

 また、基本形を覚えた事で一日の終わりに二回の素振りが三回に変わり、アカツキの話はアカツキ流の理念から、実際にどのように技を使ったのかに変わった。

 そして、その中には父親の少年時代の話もあった。

 


 修行が始まってから二週間が経った頃、労働区内で事件が起きた。

 どうやら、労働区内に侵入者がいるらしい。捜索の為か、仕事中であったにも関わらず、全員に部屋へ戻るよう指示が出る。

 だが、その時ーー。


 「今から暴動が起きます。それに乗じて逃げて下さい」


 ポツリと、アルスにしか聞こえないように背後の何者かが呟いた。

 振り返る事はせず、周囲の気配に気を配る。

 すると、背後の人物が遠ざかるのと同時に労働区内のあちこちで火の手が上がった。


 「・・・悩む時間は無い、か」


 看守達が暴動の鎮圧に動き出す。

 この場に残っている看守は一人のみ、やるならば今しか無い。

 だが、十歳の、しかもこんなにも痩せ細った身体でどうやって武装した成人男性を制圧する?

 考えてる時間は無い、最初に思いついた案を直ぐに実行へ移す。

 探すのはあの老人の姿だ。

 

 「アカツキ、俺はお前に貸しがあったな。今、返して貰うぞ」

 



 

 

 



 


 

 

 

 

 


 

 

 

 


 

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