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引鉄を引く猫

「肉体言語と言うのかしら?」

 俺のボディーに、鋭く重い一撃が、喰いこんでいる。相手が小さくて、体重も軽いからそれほど威力が出ないはずなのに、一撃で俺の体力は限りなく0に近い。

「少しは、加減を・・・」

「それは、もっと早く私を助けないからです。ほら、次が来ますよ」

「ちょ、ちょっとまて!」

「えい!」

 瀕死の俺を襲う黒い影。腕にちくっと、小さい痛み。

「高濃度の栄養剤です。後2回はこれで耐えられるはずです」

 そうつぶやいたのは、幼女だった。俺に一撃を入れたのも幼女。精霊猫は、性別がなかったはずなのに、チームハウスで擬人化したのは全員幼女になっていた。せめても救いは、全員トレーニングウエア姿だと言う事だろう。

 ぴこぴこと、動く猫耳に唖然としていると、一瞬フリーズしたスイカが再起動して突進。

 全員をまとめで抱きしめると、ぎゅーとして逃がさなかった。

 あっという間の出来事なので、助ける事もできず、なすがままの状態が続き、何とか逃げてきた一人に、重い一撃を食らわされた。

「させるか」

 俺を殴るために、距離をとったが、すかさず距離を詰める。そして、頭を撫でる。耳の付け根辺りを重点に、ぐりぐりと撫でる、この子は、この辺りがお気に入りだった。

「ずるいです。クロにも」

「お前は、さっき俺を殴ってきたから駄目」

「私達を助けなかった主には、当然の罰です。でしが、可愛くなった私達を撫でるのは、主の当然の義務です」

「クロの言うとおりです」

 俺に撫でられている幼女が、うっとりとした表情でそう言う。

 なでているのは、白い髪のシロ。怒っているのは黒い髪のクロ。安直な名前だけど、名付け親は俺でないので文句は受け付けない。

「そろそろ、みんなを解放してくれないか?」

「仕方なし・・・」

 スイカは、ようやく残りの3匹も開放してくれた。と思ったら、一匹だけ膝の上に残っていた。

「ほっほっほ。わしがもう少しつきおうてやるのじゃ」

 金髪の幼女が膝の上で笑う。

「ミケなのか?」

「そうじゃ」

「流石に、三色の髪の色にはならないか」

 三毛猫のミケは、金髪になっていた。

「銀色は、タマで、ミミが茶色か」

 この5匹が、俺の所有する精霊猫と名付けられた子のはず。全員、幼女になっているが、猫だった。

「もしかして、このゲーム内ではずっとその姿なのか?」

「この形態を維持するのは、貢献Pと言うのが必要だそうです」

「どれくらい必要だ?」

「1日10貢献Pと聞いています」

 5匹の中のリーダーであるクロが返事をする。会話に関しては、この子が担当になる事が多い。

「それくらいなら、余裕だな」

「面倒だから、私は猫の姿のほうが良い」

「うにゃ」

 シロと、ミミが立て続けに猫になる。シロは雑種、ミミはスコティッシュフォールドになる。

 基本この子達は、のんびり寝ている。

「わしは、もう少しここにいるのじゃ」

 スイカの膝の上にいるのはミケ。名前の通り三毛猫。銀色の子がタマでマチカン、クロは雑種に分類される。

「うちの子が、騒がしくてもう沸けありません」

「私の姪こそ、猫さんたちに迷惑をかけて申し訳ない」

 先輩は、猫たちと微妙な距離をとっている。

「もしかして、猫が苦手ですか?」

「それはない!」

 力強い否定の言葉。

「逆に好きすぎて、かまいすぎてしまうんだ。それで猫に嫌われる事が多くてね。姉も同じ、だからかまいすぎても、こちらを嫌わない猫を作ってほしい。そう榎本博士に、お願いした事があるんだ」

「あぁ、あれは、所長さんたちだったのですね」

「この事を、知っているのかな?」

「詳しい事までは聞いていませんが、機嫌が悪かった時に少しだけ聞きました」

「お互いに、主張は平行線だったからね。妥協して、猫じゃない新しい電子ペットを作るとは思わなかったけど・・・」

「限りなく猫に近い、ねこっとの事ですね。ロボットと掛け合わせたと言っていました」

「こだわりのある人は、色々と難しい」

「仕方ないですよ。こだわりがあるからこそ、色々と造れると思います」

「そうかい?」

「あの親には、俺も色々と苦労しましたから。ねこっとの開発が忙しくなりすぎて、精霊猫の面倒を見れなくなって、俺に押し付けてくるぐらいですから。こいつら、開発に物凄く資金を投入したはずなのに・・・」

「主、それは部外秘です。それ以上は」

「そうだった」

 シロに、これ以上は言ってはいけないと釘を刺される。

「それでは、私はこれでログアウトしよう。ムラサメ、後でメールを送るから、確認しておいてくれ」

「お疲れ様でした」

 先輩は、そう言ってログアウトする。

「名残惜しいけど、私もそろそろログアウト」

 ミケを撫でながら、スイカがそう言う。

「お疲れ様」

「疲れは回復したけど、心残りが大きすぎる。でも、私は忙しい女。非常に辛い・・・」

「後で、この子達の写真でも送ろうか?」

「動画があるなら、それを希望。では、また明日かな?」

「3日後では?」

「少しでも、時間を作る。貴方がいなくても大丈夫。ここに、猫さえいれば良い」

「誰かを、常駐させておくよ」

「うむ」

 俺の返事を聞くと、満足そうに頷いて、スイカはログアウトした。


「さて、お前たちの目的は?」

「心外ですね、主様」

 こいつらは、全員俺の事をあるじと呼ぶ。

「アップデートはしたけど、人の姿になっていいとは、許可した覚えがない」

「我等精霊猫は、もとより人型に変化する予定だったのですよ」

「それは、聞いているけどまだ先の話だったよね?」

「それはそうですけど、待ちに待った変化ですよ?主の許可なんて、待てません」

「待っていたのか?」

「電脳ペットは、飼い主の役に立ちたいと言う基本情報があります。動物本来のイメージも大切ですが、我等にも、色々とあるのです」

「色々ねぇ・・・」

「折角人の形に慣れたのです、主ともっと一緒に遊びたい」

 一番長く接しいるシロが、そう言った。電子ペットは,AIで情報を蓄積して、色々と変化する。

「遊びたいって、このゲームに参加できるのか?」

「見てください」

 そう言って、シロは服装を変化させる。その姿は、俺と同じ戦闘強化服だった。

「何故?」

「母上からもらったお小遣いで、購入できました」

 嬉しそうなシロ。基本、あの人はこの子たちに甘い。

「銃とか撃てるの?」

「試してみます?」

「そうだな、一緒に遊べるなら、それはそれで、面白そうだ」

 色々と、問題おありそうだけど、面白そうと言う気持ちのほうが強い。

 幸い、チームハウスには訓練場もある。シロと、ミケの二匹が参加したいらしい。他の3匹は、まったりすごすといっている。タマは人型のまま、まったりしたいといっているので、そのままにしておく。


「どうです?」

 射撃訓練のやってみたけど、中々の腕前だった。ちなみに、タマは射撃は駄目だったけど、近接戦闘で優秀なスコアを出した。次々と、爪で的を切り裂く姿は、物凄く楽しそうだった。

「ステータスもあるのか?」

「当然です」


・シロ 

・兵科 戦闘歩兵(猫人)

・装備 戦闘強化服 猫人専用 EP 5000

・武装 猫人専用ハンドガン 猫人専用狙撃ライフル

・射撃 50

・近接 30

・命中 40

・幸運 100


・ミケ

・兵科 戦闘歩兵(猫人)

・装備 戦闘強化服 猫人専用 EP 5000

・武装 猫の爪

・射撃 30

・近接 200

・命中 100

・幸運 100


「加護と試練は?」

「それはまだ実装されていません。今後、電脳ペットの正式参入の後に実装されるみたいです」

「それは、決定事項?」

「はい」

「少しの間、ソロでやる予定だったのに・・・」

「駄目ですか?」

 少し泣きそうな顔で、こちらを見るシロ。プログラムの塊と頭でわかっていても、このあざとさには逆らえない。

「駄目じゃないよ・・・」

 シロとミケの頭の上に手を置いて、撫でる。この場合、シロだけを相手にするとミケは拗ねる。特にミケとの付き合いは長いので、扱いの難易度は高い。

「今日はまだ時間があるし、先輩からのメールを確認してから、一緒にミッションに行こう」

 俺がそう言うと二匹とも嬉しそうな顔になり、尻尾を俺の足に、絡ませてくる。この子達の最上級の嬉しさの表現と知っているから、この判断は良かったと思う。


 こうして、後に”引鉄を引く猫”と恐れられる、一匹の獣が解き放た。

 そして、爪は爪で、恐怖の対象になとは世の中色々恐ろしい。



 1週間に2話ぐらいのペースで更新予定です。


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