チームメイト
所長さんと別れて、いったん俺は通信アプリを起動する。
「先輩、今大丈夫ですか?」
ログイン状態なのは確認できたので、声をかける。
「大丈夫だ。そっちの様子は?」
「アバターの設定は終りました。チュートリアル中ですが、実際のミッションをやる前に、先輩と合流したいのですが?」
「チュートリアルの、途中のなのに?」
「えぇ、想定外の出来事がおきています」
先輩に、これまでのいきさつを説明する。
「解った。あの人ならやりかねない」
「所長さんを知っているのですか?」
「おっ!っち、とにかく、一度こちらと合流しよう。指定する場所に来てくれ。頼まれた物も出来ている」
「了解しました」
先輩との通信が切れる。先輩と言うのは、先輩だった。いつも、そう名乗っている。狙撃大乱で、俺が困っていた時に、戦国大乱を進めてくれた恩人だった。
色々と、情報を教えてもらっている。一度だけ、リアルで会ったことがあるけど、何処かの企業のサラリーマンと名乗っていた。かなりのイケメンで、リア充な人だと思う。
ゲームに関しては、戦略系が得意で、軍師大乱と言う、大乱シリーズの一つの優勝者でもある。
戦国大乱の時、機神のデザインを手伝ってもらった事もある。デザイナーで、趣味で色々と書いているらしい。
「あそこかな・・・」
ガイドMAPを頼りに、指定された場所に到着する。
この街はネオシティ。火星開拓の拠点になっている。未来科学都市で、無人の交通システムが発展していて、移動が物凄く楽になっている。広さは、10キロ四方のドーム状の街になっている。
「お待たせしました」
「こっちも、色々と準備していたから、問題ない」
「・・・」
長身のイケメンが爽やかに、立っている。ただ、その後ろに隠れるように、可愛い女の子が隠れている。娘さんだろうか?
「ここでも、先輩ですか?」
「もちろん。私は電脳世界ではそう名乗ると決めているからね。君は?」
「ムラサメでお願いします」
「了解した」
「所で、そちらのお嬢さんは?」
「この子は、ちょっと訳ありで連れてきた」
「・・・」
ちょっと小さいけど、物凄くかわいい女の子だった。ただ、なんとなく、大きめ瞳が怯えた感じで俺を見ているのが気になる。
「先に。頼まれた物を渡しておこう」
そう言って、先輩がこちらにデータを送ってくる。各ゲームで優勝した人には、最初にチームフラッグを作る権利がもらえた。
本来なら、正式稼動してから、戦功を上げて、認められるものらしいけど、オープン前に作成できる権利が配られた。
俺は、正直デザインには自信がなかったので、駄目元で先輩に聞いてみた。その結果、先輩はプロなので仕事になると、報酬が発生してしまう。君の頼みなら、無償でもいいけどチームフラッグに関しては目立つので、流石にまずい。知り合いに、こういうのが上手な子がいるので。頼んでみる。
ということで、先輩の知り合いにお願いしたのだった。
「もしかして、この子がデザインを?」
「そう言うこと」
チームフラッグのデザインは、九尾の狐をモチーフにして欲しいとお願いしていた。確かに、九尾の狐だけど、これは俺の予想していた物とは正直、大きく離れている。
「ファンシーな狐さんだな・・・」
もっと、○面みたいなおどろおどろした物をイメージしていたけど、そこには、とてもファンシーな可愛らしい九尾の狐が書かれてた。
九尾の狐って、悪側のイメージなのに、なんでこんなにファンシーになったのだろう?
「狐、怖い・・・。あれは敵」
何かを思い出しながら、女の子が呟く。だったら、なんで?
「怖いのを、思い出したくないから、可愛くした。これなら、怖くない」
先輩に隠れながら、そのこは答える。
「えっと、はじめまして。俺の名前は、ムラサメ。君は?」
「私は、スイカ」
「果物みたいな名前だね」
「スイカは、野菜」
「どちらでも通用する、凄い存在だよ」
「それなら、良い」
なんだか、少し嬉しそう。
「所で、先輩との関係は?」
「この人は、おじさん」
「え?」
「私の、姉の子供なんだよ」
「そうなんだ。
「あと、はじめましてじゃない」
「そうなの?」
何処かの、ゲームですれ違ったかもしれない。この世界では、よくあることだった。
「にっくき、敵!」
そう言って、スイカは俺を睨む。
「敵?」
「そう。貴方のせいで、屈辱を味わった。俺ほどの屈辱は、産まれてはじめて。絶対に、許さない」
がるがるると、こちらを威嚇している。
「じゃぁ、何でチームフラッグを?」
「取引」
「?」
「魅力的な報酬を提示されたら、受け入れるしかない・・・」
今度は、もじもじと、顔を赤くして、照れている。凄く、かわいい。
「所で、ムラサメは、誰かとチームを組むのか?」
「今のところは、予定はありません。野良でプレイしながら、探すつもりです。ただ、先輩が誰かと組むのなら、そこに入れて欲しいとは思います」
「それを聞いて、一安心。こちらから、誘うつもりだった」
「本当ですか?」
「この子の保護者として、登録してあるから、この子も一緒だけど、いいかな?」
「えっと、このこの実力は?」
「ミリオンパズルの、世界ランカーの1人で、戦国大乱の2位でもある」
ミリオンパズルは、電脳世界の大人気パズルだ。100×100×100の空間を使って、色々なパズルの競技がある。その世界ランカーで、子供となると、該当する有名人が1人いた。スイカという名前が同じなので、同一人物だったみたいだ。ただ、未成年で保護フィルターがあったので、顔がわからない謎の存在だった。
「戦国で2位って、フルーティのパイロット?」
あのゲームは、基本機体名でしか解らない。2位と言うなら、フルーティだ。あの機体、パズル関係で能力凄かったけど、ミリオンパズルの世界ランカーなら、納得できる。
この火星大乱も、ミリオンパズルの要素が強いので、非常に協力な仲間になる。
「むーーーー」
俺がフルーティの名前を出すと、かなり不機嫌になった。
「負けたショックで、あんな事になったら、怒るわよね」
「お母さん!!」
突然、やって来た人がいる。それは先程まで話していた所長だった。その人を、お母さんと呼ぶこの子は、実は凄いお嬢様なのだろうか?
「姉さんも、そこのとは行っては駄目だと。可愛い姪が可哀想」
「それもそうね。ミッションの準備が出来たから、予備に着たけど、スイカも参加しなさい」
「姉さん、私達は3人でチームを組む予定です」
「それはいいけど、あんたは仕事しなさいよ」
「仕事は、ちょんとやってますよ。息抜きは、必要です」
「まぁ、直接このゲームにかかわってないから、ギリギリセーフにして置いてあげる」
「ありがとうございます」
大人二人が、謎な会話をしている間に、少し考えてみる。
スイカ態度、こちらに敵意がある理由。
先程の所長の言葉、尾根なの子を泣かした鬼畜。親子関係からして、泣かしたのはスイカということになる。
彼女が泣く理由?泣いた場面は?
恐らく、戦国大乱の決勝戦。電脳空間での出来事は、リアルに近い感覚となる。
最後の瞬間、こちらは最大火力で相手を木っ端微塵にした。直前に、コックピットにガドリングを打ち込んだ。
相手は、俺と同じような人物だと思っていたけど、この子だった・・・。
「もしかして、しっきっ!!!」
独り言は、これ以上言えなかっら。物凄区、恐ろしい目でスイカがこちらを睨んでいる。
こちらの予想が正しければ、うん、謝ろう。
今すぐは、ちょっと無理だけど、チームを組と言うのなら、そのうちチャンスはあるだろう。
ただ凄く可愛いのに、鋭い目でにらまれて、こっちも失禁しそうになったとは、恐ろしくて言えない。
1週間に2話のペースで更新予定です。