獲物を待つだけのダンジョン経営者は飽きました。……そうだ。悪役令嬢になろう!
一歩先すら満足に視認できないような暗闇の中を、すたすたと私は歩く。ダークゾーンと言う奴だ。
そんな場所でも、私の目には昼間と同じように周囲が見渡せる。なぜなら、私がこの魔塔のダンジョン経営者だからだ。
ちなみに、サッカーボール大のもふもふした毛玉のお化けみたいなのが、私の足下を付いて来るが、彼の名前はバフォメットさんという。
何を隠そうバフォメットさんは高名な悪魔で、病気で死の淵にいた私に、ダンジョン経営者になるなら助けてやろうと言ってくれた、命の恩人なのである。
そして、現在私達は侵入者4名を排除すべく、作戦行動中なのだ。もちろん、不意打ちやトラップを駆使して闘う事になる。え? 配下の魔物はいないのかと?
――そんなもの、いるワケが無い。当然、戦うのは私自身だ。
どうやらこの魔塔はかなり辺鄙な場所にある様で、周りに村の一つも無い。その上、バフォメットさんが無駄に強い所為で、彼の放つ瘴気に怯え動物すら近寄らない。これでは人間や獣を魔塔に誘い込んで魔物にすることなど、無理と言うものである。
ホント、迷惑極まりない。
「いたっ! 何するのよ。咬んだでしょ!」
私の心を読んだらしい。
バフォメットさんが鼻息を荒くして私のふくらはぎに咬みついた。だって仕方ないじゃない? ダンジョン経営しろって言っておいて、誰も近寄らないとかどうしようもないじゃん。そりゃあ飽きも来る。――また咬まれた。
「――っ!」
涙目で痛みを堪えながら、通路の先を覗くと少女が一人で歩いてくるのが分かった。他の3人と離れ離れになったのだろう。チャンスだ。私は得物の釘バットを強く握りしめて息を潜めた。
そして、その少女が通り過ぎた瞬間を狙って釘バットを振り下ろす。
あっけないほど簡単にその少女は死んでしまった。よく見ると身なりもいい。なんでこんな少女がこんな魔塔にいるのか不思議でならない。
そんな事を考えていると、少女の記憶が流れ込んできた。彼女はどうやら高貴な生まれだったが、その素行が災いし、婚約破棄された挙句に、幾多の罪を贖う為、この魔塔に幽閉される予定だったらしい。
世に、悪役令嬢と言う奴だ。しかもその末路。
特に同情すべき点は見当たらないが、この時私の脳裏に一筋の光明が見えた。
この少女を利用しない手は無い。
「ねえ、バフォメットさん。私、悪役令嬢になる! そして、沢山の人間をこの魔塔に呼んで、世界一の魔塔にして見せるわ!」
痛い。また咬まれた。