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ニコニコと無邪気な顔で、ほわんしゃらんな女性……いや、少女だろうか? どちらとも取れない彼女が、にこやかに二人に手を差し伸べる。
「……私達を案内してくれるのですか?」
珍しく空が丁寧口調で問う。
「くれる……んです……?」
明るい笑顔を浮かべているとはいえ、どうも胡散臭い。ふわふわとしたオーラを全身から放っているのに油断できないというか……どこか……そう、どこかがおかしい!
しかし、それを上手く形にすることは今の二人には出来そうにない。
それでも。なお。いずれにしろ。
ただただ、「とにかくこの女を信用できない」という予感が二人に襲いかかっていた。
「案内? しますよ! ギルドは慢性人手不足、なんたって入れ替わりが激しいですから!」
にぱっ! ブラックなジョークを口にして、彼女は楽しそうに微笑んでいる。
ほわほわとした髪は白をベースに桃のメッシュが入っており、ふわふわとした体つき、たわわわな胸。それを強調する服装だというのに、纏う雰囲気故か下品さは微塵もなく。
あまりに堂々としていて、うだうだと「たかが肉の塊」を気にしているこちらが逆に恥ずかしくなるような。
その上。所作も外見も何もかも、可愛らしさという点にかけてはとにかく一級だった。
「お名前は何ですか?」
「……クーです」
「巧牙です……。その、俺達はおねーさんを信用していいのかな……?」
「信用しないなら良いですよー。別に居てもいなくてもそんなに変わりませんしいー」
そう笑いながら彼女は二人の手を掴む。逃がさないと言わんばかりの力の込めよう。
「裏道が有るんですよー、そこ通りますよ! あんな大通りを通るとかお馬鹿さんのすることです。あとギルドは場所のことですよー聞いてて面白かったフフフ」
「い、良いのかなあ……あいてて、ごめんなさい握る手逆にしてください!」
門でのあれそれで手首の負傷が響いている巧牙が悲鳴をあげるも、少女は完全に無視。ふわふわと白と桃の髪を揺らし、るんるんと突き進んでいく。
まさか聞こえていないのか……? と巧牙が不安になる程の容赦のなさ。
「取り敢えず飛び込んでみよう? 話はそれからだよ、コーガ」
「その前に手が、いてて何気に足が速いぞこの人イテテテ痛いってば引っ張らないでって!」
少女は軽やかに駆けていく。
それに軽くついて行く空、引きずられて行く巧牙。
細い路地を幾度と曲がり、彼女はふわふわと走る。
暫くして、彼女は不意に二人の手を振り払い細道から飛び出して、石レンガ造りの建物の前で立ち止まった。
その建物の扉の隣には窓口らしき物が設置されていたが、今はその中も薄暗い。営業時間外、だ。
「ここがあなた達の行きたかったギルドですよ」と、その扉の前で振り向いた少女が可愛らしく笑う。
しかし、漸く手首を解放され涙目で息をつく巧牙はそんな笑顔も見ていない。
それを「あはは、勿体ないですう」と相変わらず笑い続け。少女はふわふわとした外見に合わず、豪快に扉を押し開けた。
……鈴の鳴る音が、派手にガランガランと響く。
しん、と静まるギルド内。老若男女を問わず、そこには人がみっちりと詰まっていた。
「……お、姉さんだ」
「あねさーん!」
「ギルドの姉さーん! お仕事ください!!」
数秒後、誰かの一言を皮切りにわあっ、と上がる歓声。びりびりと震える空気。
あまりの煩さに、呻きながら咄嗟に耳を塞ぐ空と巧牙の二人。
「はいはいお静かにっ! 依頼人は逃げてもお仕事は逃げませんよー」
二人の手を引いていた彼女は「ギルドの姉さん」らしかった。
ああそうか、あの違和感はギルド用の笑顔だったからか! と手を打ちたくなるほど、彼女の笑顔はこの異様な空間において似合っていた。
皆一様に貼り付けたような陽気さで雰囲気は明るく、しかし店内は酷く薄暗く。人々の顔はにこやかだが、仕事の競争相手への敵対心で殺伐としている。
そんなギルド内だからこそ彼女の笑顔は薄っぺらいのだ。ペラペラだ。
だから明るいとか暗いとか、好意とか敵意とか、裏も表も関係ない。何故って、それがあまりに薄すぎて裏側が透けて見える。
笑顔の向こう側にある感情、それは……。
「タダ働きじゃねえか!!」
「金目的じゃない奴がやるって。それはそーと! あーねさんっ依頼下さい!!」
それを見透かそうとしていた空は、再度の大声にぎゅうっと目を瞑った。
ああ、ここはなんて煩いんでしょう……!
「だからお静かに。まだ私はカウンターに立ってないので、ただの可愛いお姉さんですよ」
「キャー! 可愛いお姉さんー!! オレと一緒にワンワンカッコイミシンしよー!」
「そこ煩いですよー。あなたの今日の仕事は牧場犬の代わりですう。犬なので給料とかないですよ」
「まだカウンターに立ってないのに仕事を!? 世界一可愛いお姉さんお願い許してー!」
下らなすぎる発言に下品な爆笑が巻き起こる。コイツら箸が転がっても爆笑するんだろうな、と確信する巧牙。
彼女は軽やかな足取りで、薄暗いギルドの奥へと進んでいく。
柱を軸にくるりと回りながらカウンターへと飛び込み、それからとびっきりに薄っぺらな満面の笑みを浮かべた。
「ささっ、今度こそ開店でーす! 皆様お待ちかねー、そんな本日のお仕事はこちらっ!」
ようやく女性を出す事ができてとても嬉しいです。
お胸の大きいキャラを出すのは、私の中では結構珍しかったり。
そんな訳でどう彼女の胸を描写していけばいいのか分からない。そんなくらいに経験値がありません。なんてこったい。