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一番下に何度か改行をしたのち、空と巧牙の「挿絵」が入っています。
微妙な絵を見たく無い人、イメージを固定したく無い人などなどに該当する方は、スクロールにお気をつけください。後書きは白紙ですのでお気になさらず。
私の中では彼らはこんなイメージです、という絵でした。
園を抜けた男二人は、森の中を何かに導かれるように進み。
とうとう人の明るさを感じられるような、賑やかな街へと到着することに成功した。
街へと入る門には見張りがいて、「街に入るならば名を名乗ってからにしろ」と呼びかけている。
「旅人さんかい? 名前は?」
背を超えるほどの大量の書類にひたすらサインしながらも話しかけてきたのは、柔らかい笑顔を浮かべる草臥れた壮年の男性だった。服はゆったりとしたつくりで、体格は分かりにくい。
緑色の髪は後ろで大雑把にまとめられて、ハネが酷いことから髪の手入れも苦手なように見える。
手入れしないのに何で髪長いんだこの人、という疑問を、「長髪はしっかり手入れする族」の巧牙は俯きつつゆっくりと飲み込んだ。
髪を目に入れてると口に出しちゃいそうだ……。
しかし。俯いた事で、同じく毎日櫛を通していそうな空の黒髪も目に入ってしまう。巧牙は目をつぶり無言で呻いた。悪手だったか。くそっ!
目の前の男性は、きっとここ以外に兵として向く仕事が無かったんだろうなと思えるような……とにかく強そうなオーラがない人だ。疲れ切ってしまい髪にかける気力がないのかもしれない。それなら髪が伸ばしっぱなしなのも納得がいく。
人生上手くいってないのかなあ。やっぱり大人ってやだなあ。
まるで子供な思考で途轍もなく失礼なことを考えながら、どこからどう見ても大人の巧牙は書類に文字を書き込んだ。
「俺は巧牙、こっちが空」
「コーガ…クー……へえ、もしかして異国の文字ですか? 遠くから来たのかなあ、見たことないや。御二方はどの方角から来たんです?」
「あ、あっちからです。森の向こうから……」
巧牙の指差した方角を呆然と見つめる男性。
数秒後。草臥れきった雰囲気とは正反対の大きく豪快な笑い声が上がる。
「ッハハハハ!! そりゃお前さん、バカ言っちゃいけねえよ! あっ。……いけねえですよ?」
「え、はい?」
巧牙が困惑の声を上げる頃には、もう豪快なそれは跡形もなく消え失せていた。
目の前に居るのは、草臥れきったおじ様だ。
……まさか幻でも見たのか? いや、でも他の人も目を丸くしてこっち見てるし、アレっ……?
更に困惑する巧牙に畳み掛けるように、緑髪の男性は細々と続ける。
「彼処は巷じゃ霧惑いの森って呼ばれてですね。そりゃ本当はもっとかっこいい名前なんですけど、霧惑いの森霧惑いの森って呼ぶから霧惑いの森なんですわ」
「惑いの……霧なんかありませんでしたけど……?」
「そりゃもっと有り得ない! ……ですよ? 老人をからかおうなんて酷いお人だねえ」
「いや、からかうとかそんなつもりは……」
必死に説明しようとする赤髪は、周りからの目が冷え切っていることに気がついていない。どうして信じてくれないんですか、と必死になればなるほど信じてもらえない事にすら、混乱しきってしまった頭は回らない。
長らく無言だった空が、その時素早く巧牙の右手首を掴んだ。
突然のことに言葉を切った巧牙に変わり、ギリギリと音がしそうな程に強く手首を掴んだまま空が口を開く。
「ゴメンナサイ、面白くもない冗談を聞かせてしまって。私達はあっちの方から来ました。霧惑いの森、風の噂に聞いたことがあります」
書類の乗せられている机にすら届かない背丈で、曖昧な笑みを浮かべて。
その健気さに免じてか、緑髪の担当者も柔らかく微笑み返した。
「およ、若いのにしっかりしてますねえ! いやいや、面白かったですよ。おにーさん久しぶりに笑っちゃった! ……この子のお父様ですか?」
「いえこの人は違」
「はいー! そうなんですー!! 自慢の子です可愛いでしょー!?」
「……ち」
「このほっぺとか最高に可愛いですよねッ!!」
「っ……」
半ばヤケな巧牙、察しはいいのに「父親」に関しては頑なに否定する空。
それに呆れ半分に、担当者は大きな笑い声を上げた。