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1-0

昔昔の、そのまた昔のこと。

世界に愛された男の子と、愛を知らない女の子がいました。


 美しい園を駆ける、美しい子供がいた。

 左肩を覆う膝までの白マントを風に踊らせ、高い位置でくくった金の髪をたなびかせ、そのまま流れるように拳を振り抜く。

 左腰に携えている剣の柄に手をかけることもなく、息を荒らげることもなく、怯むこともなく。


 使い込まれ、傷だらけで鈍く輝く胸当ては、この幼い影には不釣り合いな気もする。親から継いだものか、それとも、その胸当てに見合うような生まれついての戦闘狂なのか。

 そんな歴戦の戦士のような防具を身につけている癖に、視線を落とすと余りにも軽装な腹部が見える。

 防具らしきものは見えない。布一枚が腹部を隠しているだけ。


 ……いや。


 まるで「ここに一太刀を入れれば殺せますよ」と挑発するかのように、脇腹の辺りの素肌が晒されている。

 ……防具の隙がどうした、当たらなければ意味がないだろうと言わんばかりの身のこなしで「何か」を殴り飛ばしていく子供。


 鋭い一閃に体の一部を刈り取られ、どうと倒れる何か。

 ……それはもう、何かとしか形容の(すべ)がない。それは(もや)でもあるし、形を持っているように見えるし、その見える形は様々で捉えようがない。


 金色を纏う子供の打撃が効くのだから、ある程度の形はあるのだろう。


 しかし、その「何か」は本来、ただの人間には目視も出来ない高次元なもの。

 ……だと言うことを把握していれば、少しは「何か」への対応も違ったのだろうか。


 そうとも知らず幼い体は、軽く跳躍。そのまま容赦なく、美しい造形の細い足を振り上げ、叩き付ける。


 ヒュッと風を切る音が耳に届く頃には、「何か」は自立する力を失っていた。

 大切な何かを刈り取られた「何か」は地に伏したままに砂に形を変え、さらさらと消えて行く。ああ、この「何か」の元は土塊(つちくれ)なのかもしれない。


 襲い来る大量の「何か」を苦もなく薙ぎ倒し、当てもなく進むその影は、とうとう「何か」の数が増える方向へと舵を切った。

 きっと「何か」は何かを守っているんだろう。とその子供は当たりをつけたのだ。つけてしまった。


 ……だから、何があるのかは知らないけれど。大切なものだろうから、とにかく進んでみる。


 その小さな侵入者はそんな雑な思考で、混じり気のない殺意を振りかざす「何か」を悉く地に伏せては砂へと堕としていった。


 美しい金の長髪を掴み、振り回そうとする「何か」が居た。

 あまりにも小柄な体を自分の体で押し潰そうとする「何か」が居た。

 細い腕を捻り潰そうとする「何か」が居た。

 防具もない腹を狙う「何か」が居た。


 ……どれも、その子供の敵ではなかった。


 数分とせず。ようやく自分達の状況が劣勢と見た「何か」は退却を始める。

 けれど、余りにそれは遅すぎた。

 子供は奥地へ進むのと同じくらいに、その「何か」の殲滅にも興味を持ってしまったらしい。


 どの「何か」も美しい園を抜けることは出来なかった。十分ほどの事だった。


「……」

 侵入者は全てを狩り尽くし。疲れからか、呆れからか。どちらとも取れないため息を一つ吐く。


 幼い体躯が壮絶な殺戮を繰り広げた事を知る者は、もう本人以外にはない。


「……」

 子供は暫く「何か」の残骸を眺めていたが、早くも飽きたのか堂々と園の奥へ歩き出す。もう邪魔をするものは消えてしまっている、幼い故に短い足は淡々と地面を踏みしめて行く。


 ……やがて、その小さな歩みが止まった。

 計算され尽くした美しい園の中でも一際美しく、整い、開けた場所。


 その中心に、燻んだ赤の髪を持つ男性が横たわっていた。

 ……と言っても、単に数時間ほどの昼寝と言う訳では無さそうだった。


 男性の体には、まるで外部から彼を守るかのようにいくつもの蔦が巻き付いていた。

 彼の呼吸は異様な程に深く、長く。何十秒と注視して、漸く胸の上下に生きていると確信が持てる。


「……」

 静かで、暖かく、美しい園の中心で、それはそれは幸せそうに男性は眠っていた。


 一瞬、幼い侵入者はそれから目をそらす。

 それから、まるで男性に引け目でも感じたかのように俯いた。頭の上で結わえても尚、腰までの金髪を肩前に持ってきて。

 その髪に縋るように、外見の通りの幼子のように、艶やかなそれに力なく指を通す。


「……」


 ……本当にほんの数秒のことだった。

 それからキッパリと、艶やかな髪を後ろへと放る。


 今度こそ躊躇いもなく、今までの「何か」と同じように。金の糸を揺らして、先の動揺も嘘のように歩き出す。


 力強く伸ばされた手が、男性を覆う蔦を引き千切る。

 八つ当たりのようにぶちぶちと素手でちぎられた蔦は、あっという間にただの残骸と化してしまった。


 もう侵入者と男を遮るものはない。

 傷ひとつない細い指が、その静か過ぎる眠りに落ちている男性の頬を、形を確かめるようにゆっくりと撫で、数秒後。


 今までと同じように躊躇いなく。とにかく勢いよく。

 振り上げられた右の(てのひら)が、男の顔にお見舞いされた。

またコリもせず始めました。全く同じ素材で。

主要三人の性格はほとんど変わっていませんが設定がぼろぼろ変わっています。

前のものは肌に合わなかったと言う方も、是非もう一度目を通していただけるととても嬉しいです。


既に書いてあるように、土曜日の22時頃に投稿を目指しています。つまりは明日も投稿します。

今度こそはデータも飛ばさず失踪もせず書き上げたいです……!

まだまだ未熟者ですが感想やレビュー、分かりにくい点の指摘などをお待ちしております……。

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