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従魔の勇者

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 勇者が支配するアースグリット大陸に近い島国の内の一つ、ラグルー。

 主に塩を始めとした海産物やサトウキビから作った砂糖などを最も近いアースグリット大陸ではなく、連合軍に加盟した国々や、ブリタリア帝国を包囲する基地に売ることで経済を為しているこの地は、暴虐な勇者や帝国に逆らうことを決めた国の一つである。

 普段は連合軍の基地の一つ、スパルタクスの最も近い場所にあるこの島国だが、勇者というのは獣の如く凶暴で、醜悪なまでに欲望に正直な存在である。

 要は独断専行で帝国軍に意向に関係なく、単独、もしくは複数人で組んで他国に侵略することがよくあるのだ。

 そしてブリタリア帝国が規律を乱す独断行動を罰することはない。むしろ、それで占領できれば御の字である。

 

「いやああああああああっ!! お願い、止めてぇええええええええ!!」

「ヒ、ヒヒヒヒヒ……! お、大人しくしろ! ゆ、勇者様に身を捧げるんだ、ありがたく思え……!」


 皇帝より《従魔(じゅうま)》の異名を賜った勇者、イチカもそんな輩の内の一人。

 彼は生まれ得た高い魔力と、倒した魔物を服従させ、強く育てることが出来るスキルに目を付けられ、帝国の勇者候補生として迎えられ、後に勇者へと昇格した、帝国ではよくある経歴の持ち主だ。

 直接攻撃が出来るスキルでこそなかったが、高い魔力にものを言わせた高出力の魔力砲撃や身体強化といった魔術で魔物を倒し、その度に服従させては彼独自の軍事力を手にしてきた。

 そんな彼の主戦力となるのが、ゴブリンやオーガ、オークにトロルといった人型の魔物である。

 彼らは他の魔物と比べても総じて頭が良い。その上、姿形が人間とよく似ているので器用であり、教えれば道具の扱い方も会得するし、武器の扱いも達者となるのだ。

 そして何より、元々人型の魔物は略奪種族であることが多く、勇者たちは認めはしないが、本質がよく似ていることから扱いやすくもあった。

 従わせて指示を出し、結果を生むのならこれ以上の魔物はいない。そう思い至って配下を集め、その総数は千にも迫る勢いである。

 

『ま、まだだ! お、俺はただの勇者の更に先へ(・・・・)行ける男だ!』


 元々高い魔力があった事や結果を生み出したことで横柄な性格となっていたイチカだが、勇者の称号を得てからというもの、その欲望は更に加速した。

 功績を積めば更に出世できる。そして功績とは自ら手繰り寄せるものだ。そう思い至った彼は配下の魔物たちに剣や鎧といった装備を与え、ラグルーの港町へと攻め入った。

 逃げ惑う町民たちを、略奪種族たる魔物共と勇者が襲う。町の憲兵たちも必死に応戦したが、最弱のゴブリンはともかく、オーガやオーク、トロルといった強力な魔物の軍勢と、莫大な魔力を誇る勇者の魔力砲撃の前には敵わなかった。

 それでも……男である彼らの末路はまだマシだったかもしれない。ただ戦い、無残に殺されていった憲兵たちを偲べば不適切な言葉ではあるが、この世には生き地獄と呼ばれるものが存在するのだ。

 まず、重労働に耐えられない老人は皆殺しとなった。生き延びた男や子供は奴隷として牢に鎖で繋がれた。そして戦場での若い女の末路とは、慰み者となるのが相場で決まっている。

 

『わ、若い女は俺の前に連れてこい! き、気に入れば勇者である俺が寵愛を授けてやるぞ! ヒ、ヒヒヒヒヒヒ!』


 そうして連れてこられた女たちの中でも、容姿の優れた女は例外なくイチカに犯された。神に身を捧げた修道女も、好いた男がいる少女も、夫がいる妻も、将来を誓い合った男がいる娘も、全員だ。

 そして容姿が優れた訳ではない女、犯すだけ犯してイチカが飽きた女は全て配下の魔物に回された。そこからの彼女たちはまさに地獄を見たと言っても過言ではない。

 人間どころか魔物に犯され、仔を宿す苗床にされるか、ただ悪戯に甚振られ、まるで遊びか何かのように串刺しにされ、内臓を引きずり出され、火炙りにされて殺さるのだ。

 そうなるくらいならいっそ舌を噛み切ろうとした娘の口には、他の女の臓物が捻じ込まれ、その娘もまた体も尊厳も際限なく凌辱される。

 イチカはずっとそうしてきた。勇者候補生だった時から変わらず、他者を食い物としてそれが当然の権利であると暴虐を繰り返してきたのだ。


「へ、へへへへへへ! きょ、今日の俺はツイてる! まさか王女を手籠めに出来るなんてなぁ!」

「ひぃ……っ!」


 そしてイチカにとっては幸運なことに、ラグルー一国としては不幸なことに、襲われた港町には偶然、ラグルーの姫君が訪れていたのである。

 最後のお楽しみとして、町の女たちや付き従って同行した侍女や女騎士の後に慰み者になる姫君が、他の者たちと比べて幸か不幸かは分からない。

 ただ変わらない事実は、着ていたドレスをイチカの手で無残に破かれ、姫君はこれまで一度も男の前で晒したことのない肌を露にして、薄汚い男の象徴を乙女の純潔に貫かれるのを涙を流して受け入れることしかできないということ。


「ゆ、勇者になれてよかったぜぇ……! 前の時代なら不敬罪とかで殺されるようなことしても、好き放題出来るんだからなぁ!!」


 そう下卑た笑いを浮かべながら姫君に腰を押し付けようとした…………その時。


「な、何だ……? か、体が、痺れ……?」


 姫君が滞在していた屋敷の中に突如入り込んできた霧。それを吸い込んだ瞬間、勇者は自らを絶対的略奪者足らしめる強さを一時的に失った。




 港町に転がる住民の死体、死体、死体。

 魔物の汚濁液に塗れ虚ろな目を浮かべる女の肢体、肢体、肢体。

 それら全てを作り上げたゴブリン、オーガ、トロル、オーク。勇者の強さとスキルによって従えられた魔物どもは好き勝手に振舞いながらも、港町を警護するために町から外に出ることはなかった。

 そして、それが彼らの命を死へと向かわせる事となる。

 

「グギャギャギャギャギャ!?」

「ギャギャギャギャァア!?」


 先ほどまで人の悲鳴で溢れかえっていた港町に、今度は魔物たちの悲鳴と断末魔が響き渡る。

 ラグルーからの救援依頼を受けたアイゼンは、町の開放および魔物の掃討に出向いていた。目にも映らぬ速さで閃く黒刀は 敵の鎧や盾を空気のように切り裂き、僅かな血も付着させず、一度振るうごとに三も四もの命を刈り取っていく。

 

「これで五百七十三」


 それは、アイゼンがたった一人でこの町での掃討戦を開始してから僅か二十分足らずで殺害した魔物の数だった。

 軍勢といっても差し支えの無い数の敵を前にして、悠長に数を数えることが出来るほど冴えた意識でアイゼンは街に潜む魔物すら残さず探し出して、一刀のもとに絶命させる。

 

「ギャギャッ!!」

「ギャギャギャギャ!!」


 勿論、ただやられるのを待つだけであるほど、《従魔》の勇者が育てた鬼共は弱卒ではない。それは単に仲間を殺された怒りからではなく、勇者のスキルによって植え付けられた忠誠心によるものだけという訳ではない。他者を害することを好みながら、自らを害されることをとことん嫌う、それがゴブリンを筆頭とする人型の魔物の、勇者という人種によく似た本質なのだ。

 基本的に両手で、時折片手で振るわれる長大な大太刀でオーガやトロル、オークのような巨人を纏めて両断し、次の獲物へと斬りかかるアイゼンの背後を、三体のゴブリンが遠くの物陰から弓矢でそっと狙いを定める。

 鏃には数多の毒草や毒虫をすり潰し、自らの糞尿を混ぜ合わせた雑な毒液を塗り込んである。傷を一筋刻むだけでも体に不調を起こす矢を、ゴブリンはアイゼンの背後から射った。


「ギャ?」


 まっすぐに飛んで行った矢が無防備な背中に当たる。そう思った瞬間、アイゼンの姿が突如消え、矢を射った三体のゴブリンの首が纏めて宙を舞った。

 殺気のような気配の探知。地を蹴る初動から一気に最高速度に達することで間合いを操り、時に姿が消えたかのように見せる移動術、縮地。いずれも武術の極致ともいえる技法だが、強大なスキルの持ち主と戦うまでに練り上げられた護法一刀流の使い手にとっては基本的な技術だ。

 

「グオオオオオオオっ!!」

「ブヒヒヒッヒヒヒヒィィイイイッ!!」

「ギャギャギャギャギャギャア!!」


 だが幾ら人知を超えた技量を持つ武人でも、数の利には敵わない。そして長大な武器というのは、間合いの内側に入り込まれ過ぎるのが極端に弱い。

 それらを経験で知っている人型の魔物どもは数にものを言わせてアイゼンに一斉に襲い掛かる。近接戦特化の戦士が苦手とする多対一、それも四方八方からの包囲攻撃だ。

 

「なるほど。勇者に仕込まれているというだけはあるか」


 襲い掛かってくる敵は一刀のもとに纏めて撫で斬りにされる。あるいは目にも留まらぬ速さで翻る刃の餌食となる。しかし押し寄せる魔物たちが物言わぬ肉塊と成り果てていく中で、奇跡的に五体満足でアイゼンの間合いの内側に踏み込んだオーガが居た。

 刃の切れ味が完全に発揮できぬ超接近戦に持ち込んだオーガはアイゼンに手を伸ばす。勇者によって膂力が極まったオーガの握力で握り締めたものは、人の頭蓋骨だろうが鉄球だろうが容易く砕けるだろう。

 勝利とその後に続く略奪を確信したオーガは醜悪な笑みを浮かべるが――――


「グボゲェエアアアアッ!?」

「……ふん」


 アイゼンの素手による四本貫手が、オーガの手のひらを抉り飛ばし、そのまま頑丈な鎧ごと強靭で分厚い胸筋と堅牢な骨に守られた心臓を破壊して背中まで貫いた。

 護法一刀流、旋貫手(つむじぬきて)

 指先が触れる瞬間に加えられた捻りによって貫通力が増した、とても魔力もスキルも使っていないとは思えない破壊的な貫手が、魔物どもの希望を砕く。


「ギャギャ……ギャアアアアアアアアアアアッ!?」


 腕に付着した血液を払いながら再び両手で黒刀を握り直したアイゼンは、目に映る全ての魔物を余さず惨殺する。その姿を遠巻きで震えながら見ていたのは、一体のゴブリンだった。

小鬼(ゴブリン)大鬼(オーガ)豚鬼(オーク)巨鬼(トロル)と称された自分たちが可愛く見える、まさに悪鬼修羅とも称すべきアイゼンの姿に、ゴブリンは小便を撒き散らしながら背を向けて全力で逃げ出した。

 勇者という絶対者の庇護を得た略奪者たちを蟻のように殺して返り血を浴びるアイゼン。その余りにも恐ろしい姿にイチカのスキルの影響が解けたのだ。

 元より忠誠心や同族への情など無く、なまじ知能があるだけ悪質で自分勝手な種族。逃げ出すことへの躊躇いはなく、その逃げ足も速い。

 

「ゴギャッ!?」


 しかし、その命懸けの逃走も実を結ばなかった。二十メートル近くも離れていたアイゼンが一瞬でゴブリンの先に回り、その矮躯の頭を蹴り飛ばしたのだ。

 首骨が外れ、肉と皮を引き千切って飛んで行くゴブリンの頭は、まだ生き残っているトロルの頭蓋骨を粉砕する。

 

「これで六百三十一……次だ」

 

 潰れた頭から血を吹き出し、地鳴りと共に倒れるトロルを見て、その場にいた魔物共は、冷淡に呟くアイゼンに腰を抜かした。

 泣き真似をしながら必死に許しを請うゴブリンが居た。恐れ戦き逃げ出すオーガが居た。小便を漏らしながら身動きが取れないトロルが居た。ただひたすら泣き叫ぶトロルが居た。先ほどまで(わら)いながら人々を甚振り殺しておきながら、今度は自分たちの番となると無様を晒す魔物共がそこに居た。


「…………」

「ブゲェエッ!?」


 しかし、その姿がアイゼンの同情を誘うことはなかった。怒りも無く、どこまでも冷淡に、その命脈を等しく大太刀の一閃によって断ち切っていく。

 広い町から逃げ出した魔物もいるだろう。しかし、その命運も長くは続かない。ラグルーからの救援依頼を受け、先行したアイゼンたち(・・)の後に続く形で、連合軍や冒険者たちが既に港町を包囲殲滅に移行している手筈だ。

 戦闘開始から僅か四十分足らず。港町を占拠していた勇者が率いる軍勢千体は、一体残さず皆殺しとなった。




 一方その頃、姫君を迎えた館では異常事態が発生していた。

 勇者が強姦に耽る場所なだけあって、広大な館の内部には、イチカが特に強く育てた魔物……軍勢の中でも選りすぐりの怪物たちが警護に当たっていた。

 休憩がてらに勇者が飽きた女を弄ぶ個体もいたが、突如として館内部に充満した霧を吸い込んだ瞬間に、魔物も勇者も、館の内部に存在する全ての生物の筋肉が著しく弛緩する。

 

「にゃあ♪」


 どこか薄暗く、楽しそうに口角を三日月状に釣りあげるカグヤを除いて。

 外力系神技、毒空(こくう)(むしばみ)

 大気中の水分を毒に変え、館を包み込むように大量に流し込んだカグヤの殲滅戦法の一つだ。


「人質同然のが何人もいるなんて、面倒なことするにゃん」


 本来なら、致死性の猛毒を霧にして流し込めば一気に殲滅できたのだが、中には王女を含む十数人の生存者が居るとエリーから聞いた(・・・・・・・・)カグヤは比較的弱めの麻痺毒に変更、敵の弱体化を図った。

 

「弱った人質もいるから調整がむずいのよねぇ……ちょっと弱すぎちゃったにゃ」


 しかし、並のオーガやトロルならば指先一つ動かせなくなる麻痺毒でも、流石は勇者によって育成された精鋭といったところか。酷く動かしにくそうにしているものの、事態の原因であると思われるカグヤを睨みつけ、引き攣った喉を震わせながら襲い掛かる。


「オ、オォオ……ブグ、オオオオ……!」

「にゃははははは! 粗末なモノをぶら下げてよちよち歩いて来るんじゃないにゃん♪」


 もつれる足を必死に動かして、極上の美貌を持つ女を捕まえようとしたオークの顔面に溶解液の塊が浴びせられる。

 悲鳴にならない悲鳴が館に響く。一瞬にして首から上が白骨化したオークが倒れるや否や、周囲の魔物はカグヤを獲物ではなく、敵であるということを認識して襲い掛かる。

 しかしこの館の中は既にカグヤの術中。麻痺毒に犯されたその動きは酷く緩慢だ。


「アイゼンだったら全員百回は殺してるにゃ。……私でも五十回くらいは殺せるけどっ」


 四方八方から一斉に襲い掛かる魔物共を前にダラリとぶら下げられた両手の先。十の指先の一点から毒液が勢いよく噴出される。

 外力系神技、毒爪(こそう)十閃(じゅうせん)

 水は高圧力で噴出されれば金剛石すら断つという。それをカグヤのスキルで再現、改良を施された刃渡り十メートル以上にも及ぶ猛毒液の刃は爪で引っ掻くような傷跡を館に残しながら魔物どもを切り裂く。

 尋常ではない切断力を得た毒液で両断されれば即死するだけまだマシ(・・・・)。手足を斬り落とされただけだったり、かすり傷が付いただけで済んだ魔物は全身が青紫に染まり、顔の穴という穴から血を吹き出して苦しみながら絶命する。


(さぁて、粗方片付いたかしらん? ならそろそろ生存者の救助でもしましょうかね)


 身体強化の魔術を行使して、カグヤが生存者を一人ずつ、または二人纏めて運び出す。

 生存者はほぼほぼ年若い女だった。途中生き残った魔物共を殺しながら館の外へと運び出された彼女たちは、皆一様に魔物に犯され、虚ろな目をしている。少なくとも、命が助かったことを喜ぶ余裕が無いと察することが出来るくらいには。


「……ま、慰めの言葉なんて掛けられないけど、心底同情するにゃん」


 犠牲者たちの光の宿らぬ瞳から零れる涙をそっと拭い、カグヤは振り返らず再び館の中へと入る。女たちを抱えて外と中を往復すること三十分ほど経過した時。

 

「そ、そこまでだぁ!」

「うにゃ?」

 

 魔物を全て掃討し終え、王女らしき人物が見当たらないと考え始めた頃、港町で起こった惨劇を作り出した張本人、《従魔》の勇者イチカが姫君の首に片腕を回しながら、その顔にナイフを突きつけてカグヤを睨んでいた。


「お、お前だな!? お、俺をこんな目に遭わせた下手人は!?」

「その顔は確か……にゃるほど、あんたが《従魔》の勇者様ってわけにゃん?」

「お、俺の質問を質問で返すなぁ! ぶ、無礼極まりないぞぉっ!?」


 全裸の状態でドレスが破かれた姫を盾にするその姿はある意味滑稽極まりないが、勇者というだけあって、カグヤの弱めた毒霧の中とは言え、一般人並みに動くことは出来るようだ。


「こ、これが目に入らないのかぁ!? ラ、ラグルーの姫をぶち殺されたくなかったら、ふ、服を脱いで、お、俺に土下座して奴隷になると誓えぇっ!!」

「うわぁ。この状況でもまだそんなこと言えるの? 流石は勇者様(笑)、神経の図太さは世界一にゃ。ぷーくすくす」

「う、うるさいうるさいうるさぁあああああいっ!! お、俺を嘲笑うなぁあああっ!! は、早く全裸で土下座して奴隷になりぇえええええええっ!!」


 振袖で口元を隠しながら嘲笑うカグヤに、イチカは顔を真っ赤にしながら唾を飛ばしまくって激昂するが、傍から見れば不利なのはカグヤだ。

 姫を人質にとって良い気になっているのだろう。カグヤの容姿を舐めまわすように眺めたイチカは、目の前の猫獣人に服従を求めてきた。

 最もこの状況もカグヤ本人からすれば、勇者などと大層な称号を名乗っている小者が必死に喚いているのを面白おかしく眺めている愉悦に過ぎないのだが。


「まさか、人質を取ったくらい(・・・)で優位に立ったつもりなわけ?」

「ひ、ひぃいっ!?」


 カグヤが浮かべる凄惨な笑みに、イチカの表情が青褪める。

 スキルによって発生した、この館に充満する毒霧は全てカグヤの思いのままに変化する。カグヤは暗がりの中でも光る猫のような黄金の瞳孔をイチカの顔に向けた……その瞬間。


「カグヤ、町の方は終わったぞ」

「ぷぎゃああああっ!?」

「む?」

  

 天井を突き破って現れた黒刀担いだアイゼンが、ピンポイントにイチカの体を踏み潰した。突如勇者の拘束から解放されて倒れこむ姫君を空いている片腕で支え、自らの足元でピクピクと痙攣するイチカと見比べると、アイゼンは小首を傾げる。


「……何だこいつらは?」

「むー……もーっ!」


 ぽかぽかぽかと、アイゼンの胸板にカグヤの両拳が何度も叩きつけられる。全く痛くない猫パンチだ。


「なんだ? 痛くはないが、何をするカグヤ」

「あんなにカッコつけたのに横取りされたら、私がカッコ悪いみたいじゃにゃい! それに今回の勇者は私の獲物だって言ったのはそっちでしょ!? アイゼンったらホント……もー!」

「意味が分からんぞ」


 ぽかぽかぽかと、地獄のような光景の真ん中で、剣士と猫獣人の珍妙な雰囲気が醸し出されていた。


  

他のざまぁシリーズもよろしければどうぞ。

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