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ヒニヒニ

影武者

自分の姿をした分身を作り出す。分身は一体までで、影武者がいると影がなくなる。


分裂

自分の身体から、自分が生えてくる。生み出された自分は、知能が低い。




2日目。


小町が陣の家に来てから2日目の夜、小町は帰宅しようとする空に質問した。

「ねぇ。なんで久田君は私を助けてくれるの?」

「なぜって、救済者見習いだし、クラスメイトだしね。」

「そんな理由?」小町は空を見つめる。とてもつまらなそうに。

こんな時、どこかのイケメンは助けるのに理由が必要か?そう切り返すのだろう。

残念ながら空はイケメンではない。聖人君子でもない。だから、個人を助けるのには理由がある。

「、、君だからだ。」小野 小町でなかったら、助けなかったかもしれない。

小町は、キョトンとした顔をしていた。空の言葉を脳内で咀嚼する。

「ださい。まぁ、10点か9点ね。」何点満点かは小町だけが知っている。



3日目。


「お化け屋敷行った事ないの?」小町は驚きと怖れを持って再確認する。

「学祭で入った事はあるよ。」

「ちゃんとしたところは、ほんとーに怖く出来てるから。」

「幽霊信じてないから、怖がれないと思うよ。」そもそも、あれを楽しもうとするには、どうしたら良いのだろうか。「どうだか。今度一緒に行ってみよーよ。」

お誘いを受けるが、怖がる練習くらいはしておいた方が良いのだろうか。勇ましい姿を見せた方が良いのだろうか。悩ましい。



4日目。


ラブ・ロマンス映画を見終わった直後だと弁明しておく。

「好きなんだよね。。。唐揚げがさ。」

空は心の底から、ズルいと思う。唐突に好きと言われたら、誰だって反応する。後付けの唐揚げなんて、ズルすぎる。自分と思ってしまっても不思議じゃない。空の反応を見て、クスクス笑う小町の姿があった。


もちろんこの間も救済者としての役割は十二分に行なっていたと、説明しておく。



5日目。


「あれ?陣さんは?」

「支部長に呼ばれたとかで、出かけてる。」


小町の何気ない質問から、何も感じ取れなかった空とは違い、フランは小町の手を握る。


「不安?ドッペルゲンガーだけなら、近くにいるのが、空だけも十分安心しても良いよ。それにね小町ちゃん、今はわたしがいるよ。万が一の危険もないからね。」

小町をぎゅっと胸で抱きしめる。


空は本当に、『羨ましい』と、そう思った。


フランは人の心を支える優しさを持った行動や言動を、自然にやってのける。

普段の態度は兎も角、空が今まで出会った中で、もっとも尊敬する人がフランだとは本人どころか誰にも言えない。


怖がっている事を見破られた小町は少し恥ずかしそうにしながらも、フランの胸に額を押し付ける。

大丈夫と顔を上げると、吹っ切れた様子であった。


「あのさ。空。全然お礼を言えてなかったから、言わせて。この前不良達から、助けてくれてありがと。ドッペルゲンガーの事、調べてくれて、ありがと。今も守ってくれて、ありがと。」


空の脳内では、最初の5文字だけを繰り返し確認していた。


女の子がファーストネームで呼ぶようになった理由について、考える。


「全然問題ない。こ、小町のドッペルゲンガーも早く解決しそうだし、良かった。だ、だよへ。」


クスクスと小町は笑う。

女子に免疫がないわけではない。が、緊張しないわけでもない。

フランのおかげで落ち着いた様子。小町の強がりではない笑顔を見て、空も安心する。


「小町ちゃんは、ドッペルゲンガーが解決した後、どうする?救済者になるか、ならないかの二択だけど。」

「具体的に、どういった事をするんですか?」

「悪い奴らを倒したり、偉い人を守ったり、小町ちゃんみたいに困っている人を助けたりだよ。」

「私に出来ますか?」

空は小町の中で、フランの株価が急上昇している事に焦りを感じる。

「小町ちゃんに全てが務まるかは、分からないよ。出来ない事もきっとある。でもね、出来る事もきっとたくさんあるんだよ。」

救済者とは、かくかくしかじか。フランは語った。

その語りを間に受けて、

「力が必要な事は出来なそうですけど、人助けならしたいです。空みたいに、不良を一蹴出来るとは思えないですし。」

「まだ、無理か分からないよ。ドッペルゲンガーって、人の数倍は力持ちらしいから、ドッペルゲンガーを上手く扱えるようになったら、空を超える事だって出来るよ。」


フランがレクレーションルームで組手を誘ってきた。

小町を安心させる為なのか、

自分が強い事を教えたいのか、

空が弱い事を示したいのか、

その理由は分からない。

とにかく、組手はやる事になった。



第2レクレーションルーム。


小学校の体育館サイズある第2レクレーションルームは、床一面と壁に畳が敷き詰めてあった。


主に組手をする場所で、空とフランは頻繁に使用する。

「陣は日本で一番強い救済者だよ。わたしも強い方。空はね。。。」


空は後でフランに『女の子に男の子を紹介する』時、悩んではいけないと教育する必要を感じた。

この後、褒めたとしても信憑性が薄れるからだ。


「まぁ、中間くらいかな。異罪の種類に助けられた感じかな。」

《訂正、『紹介する際は褒めなければならない』事から教えよう。》

空がツッコミを心の中で入れている合間にも話しは進む。

「異罪の中には、『舌をピリピリ』させるだけの異罪もあるんだよ。小町ちゃんのドッペルゲンガーは闘える方だと思うけどね。」


空達のやる組手は、15分組手し、5分休憩する。

組手中は、何をしても良いが、殺傷能力がある攻撃は禁止。

どちらかが、疲れたというまで続ける。



いつも通り、組手開始。



一つ一つの動きが、俊敏であり。


明らかにヒトの限界を超えていた。


簡単に言えば、TVを早送りで見ているのと同じだった。


小町の目から見て、攻めているのは空だが、フランに直撃はない。たぶん!

確信を持てないのは、2人の動きが一切止まらないからだ。


空の飛び蹴りに対して、足首を捕まえたフランが空を掴み畳に叩きつけると、畳が大きな音を立てて浮き上がる。


激動


波瀾に満ちた組手試合。


しばしの休憩。

「わたしに、出来るかな?」

小町は、不安になる。そんな思いを仰向けに寝転ぶ空に溢す。

「大丈夫だよ。陣がいる。フランもいる。それに、俺も。初めは見習いだから、小町が1人で依頼を受ける事は無いと思う。それに、もしも、闘うのが怖かったら、俺が守るから。」

さて、格好を付けてみたが反応がない。

空は不安になった。《SNSとかで、気持ち悪いこと言われたって書かれてたらショック死する。。》



リビング。晩御飯の時間。


「さて、今日のご飯は、私が作りました!小野家の特別メニュー『ぶっかけ鍋』と言います。」

エプロン姿が似合っているのは、着慣れているからか。

それとも美人は何でも似合うという世界の法則によるものか。空は後者だと考える。


小町の用意した鍋の中には、だし汁に浸かった椎茸やえのき、その他キノコとお豆腐と昆布。

つまり、見た目は「キノコ鍋じゃん。」


正直、鍋の中が少し寂しい。

一応、ネギや白菜、水菜などは置いてあるが、どちらかと言うと鍋の回りにあるマグロステーキや鳥と根菜の味噌煮、梅風味の蒸し野菜の方が美味そうだった。


「はーい。文句言う人は、食べなくても良いんだからねー!」


小町は、お椀の中にマグロステーキと野菜を放り込むと鍋の中の汁を入れた。


「食べ方は、こんな風にお皿から好きな具材を取って鍋の汁を入れるだけ。マグロステーキを入れると醤油ベース。味噌煮は、味噌。蒸し野菜は、梅。4種類の味で楽しんでね。」

お茶漬けに近い。ご飯が入っていたら、お茶漬けである。


食べてみるとネギや白菜、水菜は蒸してあるのか、程良いシャキシャキ感を残していた。

フランは、マグロステーキが気に入った様子で、食べ続けていた。


「私と母さんがね、猫舌なんだ。ぐつぐつしてるお鍋だと、冷めるまで待つんだけど。後の方になると野菜の種類によっては、歯応え無くなってるんだよね。味の染み込んだネギが嫌な訳じゃないけど、全部だと、ちょっとね。」


「しっかり煮えた野菜が好きだったり、食べたくなったらお鍋の中に放り込んで良いからね。」


「小町ちゃんは、お料理上手!ものすごーく美味しいよ!!」


小町は、嬉しそうに笑うと空を見つめていた。

感想を求められているのは分かる。見つめられると、美味しいご飯の味が分からなくなる。


「凄く美味い。とくに、味噌煮。」これは間違いない。

「ありがと。」表情が崩れそうになるのを我慢する。


小町は机の下で小さくガッツポーズをした。お鍋にするなら、味噌炒めで十分だったが、気合いを入れて味噌煮にした甲斐があった。

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