あっという間に、at home
バイロケーション
自分を出現させる異罪。
物理的に入れる場所でしか、バイロケを動かす事、出現させる事が出来ない。
バイロケとオリジナルはリンクしていて、バイロケが死ぬと、オリジナルも死ぬ。
幽体離脱
魂が身体から抜け出す。
魂の核には2g質量がある為、壁を貫通出来るのは、魂の一部だけである。
壁の反対側を覗く程度は可能。
また、魂と身体は、『尾』で繋がっていて、切れると死ぬ。
陣の家。
異罪、この手の問題の答えを知っている人物を、空は1人しか知らない。
『陣』
リビングの扉を開ける。
《頼りに、、、》
「すまないね、空くん。もうちょっとしたら、ご飯できるから。」
可愛い熊さんのエプロン姿でキッチンに立つ陣。
結婚していたら、妻から頼りにされるだろう。
だが!
「電話したよね?異罪関係かもしれない相談事があるって伝えたよね?その時なんて言ったか覚えてる?『異罪の可能性が高いから、詳しく聞きたい』そう言ったんだよ。」
なぜ、そんな姿で出迎える必要があったのか問いただしたい。
空は陣という人間を小町に話した時、数々の異罪を解決してきたスペシャリストをイメージして話した。
『シーフードサラダ』、
『ピーマンの肉詰め』、
『炊きたてご飯』、
『緑野菜たっぷりの野菜炒め』、
『山芋の味噌汁』
本日の晩御飯のメニュー。
フランはテレビを消して、今日のメニューを教えてくれた。
陣は椅子に座る事を勧めてくれた。
「わぁ、美味しそうだなぁ。じゃないわ!真面目な雰囲気が必要な時もあるだろ!TPO!Time、Place、Occasion。」そんな空を無視して、フランは小町に話し掛ける。人見知りのフランは、慣れるまで余所余所しい態度になる事が多い。
「それで?大丈夫?」
まともに答えようとする小町を空は止める。
「嫌いな食べ物があるか?という問いだと思う。」
「、、、大丈夫です。」フランはささっとサラダを小皿に取り分ける。
陣がテーブルに料理を並べると、みんなで『いただきます』を言って、食事を取り始める。
なんだよ、これ!と定番のノリ突っ込みを披露し終えると、気を取り直す。
「食事を取りながらで良いんだけど、まずは紹介するよ。『陣』、喫茶店で話した異罪に詳しい人だよ。自分も異罪から救われた。出だしは良くなかったけど、優秀だから安心していいよ。」
今、小野に伝わっているのは陣が料理人としての優秀さだけだろうなと思いながらも紹介する。
「よろしくお願いするよ。どうだろう?料理はお口に合うかな?少し薄味にしたから、必要だったら調味料使って欲しいな。」
お醤油、塩、ラー油、七味、柚子胡椒、諸々が小瓶に分けられてお盆に載っていた。
その他、言えば大抵の調味料は出せると言うのだから、準備がすごい。
小町は料理がどれも美味しい事と感謝を口にすると「気遣いも半端ないわね。」と呟いた。
「『フラン』。彼女も救済者。人見知りだから、仲良くはならなくても大丈夫。」
机の下で、フランは空の脛を狙って蹴った。
氷の脛当てに防がれたので、フランは二蹴り目で氷ごと砕いてやった。
フランが小町を追い掛ける人物と遭遇しなかった事を空と小町に伝えた。
空はフランと別れた後の様子を皆んなに話した。
小町は、病院の喫茶店で話した内容をもう一度話した。
「一週間前、父親の通夜があり、帰宅するのが遅かったので、翌日の学校を休みました。
17時頃、部屋でくつろいでいると玄関が開く音が聞こえました。
階段を上る音が母とは違っていたので、扉を見つめていました。
扉を開けた人物は、
『わたしと同じ背格好で、同じ顔をして、同じ声をして、同じ様に驚いているように思えました。』
もう1人のわたしは
「誰?」
と問いかけてきました。
もう1人のわたしは、何を思ったのか、逃げ出しました。
訳がわからずに、親が帰宅するまで、部屋に閉じ籠っていました。
そして翌日、学校から帰る通学路にもう1人のわたしがいました。
大剣を振り回して襲われて、必死に逃げました。
それが久田くんと出会うまでの話です。
警察に行きたくなかった理由は、父の通夜に来ていた警察が凄く嫌な感じがしてて。
直感なんだけど、関わりたくないって。
そう思ったんです。
少し距離があったので、違うかもしれませんが、見間違いでなければ、逃げる先で、そいつがいたんです。
私が襲われているのを見ていた、と思います。
陣は、何度か頷くと、警察官に関しても、調査すると約束した。
「異罪とは『心が具現化し、世界に影響を与える現象』と定義する人がいる。」諸説あるけど、真実は不明である。陣は、正しく言葉にした後で、簡単に言い換えてくれた。
「異罪を病とするなら、僕ら救済者は医者、君は患者だ。薬で治る病気もあれば、外科手術で治る病もある。」空は自分がどうやって救済されたかを聞いたが、生易しいものではなかった。
初めて聞かされる発現者の恐怖を煽っても仕方ないので、言わないが。
「私は何をすればいいんですか?」
「処置は、異罪の種類によって異なるよ。病も診断して、病名を判別するところから始めるよね?」
「病気=異罪とするなら、花粉症=君の罪名だ。」フランが割って入る。
「簡単に言うと、小町ちゃんの異罪は、『バイロケーション』か『幽体離脱』、『ドッペルゲンガー』辺りだよ。」フランは小野 小町をファーストネームで呼んだ。コミュニケーション能力は高くないのに、初対面の人に対して一気に間を詰める技術力は高い。空も頭の中で、小町と仲良くなるシュミレーションをしてみるが、変な目で睨まれそうな気がするので、やめておく事にする。
「小町ちゃんの異罪が『バイロケーション』や『幽体離脱』であるなら、瞑想しやすくする為の補助をするよ。『ドッペルゲンガー』なら、物理的な解決策もあるから、対応は容易い。もしも、この現象が他者によって引き起こされているのなら、小町ちゃんは何もする必要はないよ。私達が、そいつをBANしてお終いだからね。」フランと陣が自分よりも強い事を伝えると小野は、驚いていた。
「さて、明日からは小野くんの異罪を特定する為に行動する訳だけど。特定するまでは、常にこの3人の誰かが近くにいる。主にフランになるかな。」小町が驚いた表情をした。外ならともかく家の中まで、危険だと想定しているからだ。ボディーガードがフランなのは、女性だからだ。
「家の中も?」空から見ても、過保護な気がして、ついつい口を挟んでしまった。
フランは気の抜けている空を感情のない目で見ながら、言葉を口にする。
「『影武者』や『分裂』の異罪だった場合、いつ、どこでもう1人の小野 小町『アナザー』が現れるか予想できないんだよ。お風呂に入っている時、トイレに入った時、目を離した1分の隙に、小町ちゃんがBANされている事も考えられる。空は異罪を甘く見ているよ。そもそも次も小野 小町の姿で現れるとは限らないし。」
『あらゆる状況を考える。』
不条理で理不尽な異罪に対応する救済者ならば、必須の考え。
「無意味に怖がる必要はないよ。明日には、ある程度種類を絞れる。絞れれば、過剰に束縛する事はしないよ。」陣は引き締まった空気を緩和させる。実際、翌日には家中なら小町1人で行動しても安全と陣は言っていた。
「『歯ブラシセット(カップ有り)』、『タオル&バスタオル』、ここまでは、予備があるんだけど。」
フランは机の下から、パジャマを取り出した。
「私のだけど、もし良ければ使って。」
肌触りの気持ち良さそうな紺色のシルクパジャマ。
空はフランが、ちゃんとしたパジャマも持っている事に感心する。
「最短1日で解決するけど、7日分の着替えと生活用品を用意しようと思う。明日、フランと一緒に買い物に行ってくれるかな?」陣は小野に嫌いな食べ物やアレルギーなど、今後の生活を快適に過ごせるように、聞き込みをしていた。
空は、2人が『初めて彼氏が泊まりに来た女子のテンション並み』に、浮き足立っていないか心配になった。