出会った順番
小野 小町/東川高校2年
校内で有名の美人。愛想が悪い事で有名。つむじ曲がりな性格をしている。
異罪を発現させて、救済者見習いとなる。
フラン・リィーシャー/13歳
救済者
外見は20歳に見えるが、13歳。見た目は大人、中身は子供。日本で有名な名探偵の逆パターン。
人を選ぶが、すぐに仲良くなる。
異罪の根本的な事柄に関して、かなり詳しく知っている。
空とフランは、揃って街中を歩いていた。
賑わう街中、大道芸人が街行く人々を笑わせる。『今日よりも明日へ!』より良い明日への展望を語る国会議員。ついつい食べたくなってしまうクレープ屋さん。そんな目を引く光景を差し置いて、街行く人達が空を見るのには理由がある。空が両手いっぱいに荷物を抱えているからではない。
万が一にも勘違いしている人がいると困るので、否定しておくと、空がついつい振り返って見てしまう程のイケメンだからではない。美人なのは、フランである。
端から見れば、空は釣り合わない美人の荷物持ちに見えるだろう。
演説している女性議員が、男女平等を訴える。
「なぁ、一つくらい持ってくれても良いんじゃないか?」
良くテレビなどで、男女平等と訴えている女性を目にする。
実際は『女性にとって不利な箇所を無くそう活動』ではないかと思う。
「議員さんも男女平等って言ってますよー。フランさん?聞いてます?」
振り返る姿も様になっている。外に出た時のフランは、大人っぽ過ぎて困る。
「聞いてるよう。もぉー空は力がないなぁ。」
フランが半分持とうとするのを空は慌てて止めた。
「一個で良いんだよ。」フランはめんどくさそうな表情を露骨に表す。
「だから、最初に半分持つよって言ったんだよ。それなのに空は、女の子に持たせるのは、見てくれが良くないって、断ったんだからね?!見てくれよりも大事な事は、あるんだよー。。。そこで少し休憩する?」
面目無いとは思っている。フランはベンチに腰を降ろした。
空は自動販売機で『ほっとミルクティー』を2つ買った。
フランは感謝を伝えると、白い息を吐いた。
「平等は、大事だけど。だからと言って、同じ物を2つ買ってくるのは、ちょっとどうかと思うんだ。」
フランは呆れ顔をした後で、ミルクティーの蓋を開けて、一口飲んだ。
「ミルクティー大好きだけど。」と繋げた。
ミルクティー談義に花を咲かせる最中に、フランは言う。
「至高の飲み物であるミルクティー。この飲み物に付き物の議題がある。それは、『ミルクティーを作る際、ミルクが先か、ティーが先か。』。空はどっちを先に入れたら、良いと思う?」
「しかし、今飲んでいるミルクティーを作る際に、どちらを先に入れたかなど、分かっていない。わたしはミルクティー好きを名乗っていいのだろうか?」
「どっちが先かよりも、茶葉の種類やお湯の量とか、もっと大切な事があると思うし。」
フランは満足そうに頷く。「そうだよね。」と同意する。
「ちなみに、俺はミルクが先派ね。」
「、、、何故?」
「飲んで初めて美味しいと思ったミルクティーが、先にミルクを入れてたから。」
過去に何があったのか、わたしと出会う前のそれは分からない。知らない上で、それでもわたしが知っている空を見て、わたしは口にする。
『自分の想いと感情を、信じるべきだ。』
「空は悪じゃないよ。わたしは空を信じてる。」
「いや、待て。話が繋がってない。ミルク先派は悪なの?」
フランの柔らかい声と真っ直ぐな眼差しに危うく騙されるところだった。
「違うよ、でもね、決めちゃいけない事もあるんだよ!」
紅茶談義は、しばらく続いた。フランは、話を変える。
「異罪の力を人前で使用してはならない。陣にはそう教わったのでしょ?」
「混乱を招くから、と聞いたけど。嘘なのか?」わざわざ話に持ち出すくらいだから、裏があるのだろう。
「嘘ではないよ。だけど、異罪を使ったかどうか、誰がどうやって判断する?」悪戯っ子の笑みを浮かべて、ミルクティーの缶を持ち上げる。
「気がつかれなければ、一切問題はないんだよ。」
冷くなっていたはずのミルクティーから湯気が出ていた。
異罪を使えるなら、帰りの荷物持ちは、楽ができそうだ。
2人は立ち上がり、帰り道を歩き始めた。
一瞬、見慣れた制服が一つ裏の路地を駆け抜ける。
可愛い女の子の姿を脳内で録画し、再生する機能は、思春期の男子が身につける最も有意義な技の一つ。
今も通り過ぎた制服の映像がスローで再生される。
そこで、足が止まる。
黒い長髪をなびかせながら、走る女の子。
《小野 小町?》
一度も話したことがないけど、噂話を良く聞く学校内の有名人。
涙を流していた。ふくらはぎから、血が出ていた。
明らかな異常事態。
気になって、路地裏まで歩みを戻す。
光の差し込む路地裏に小野 小町の姿はなかった。異常に気がついていないフランは当然文句を言う。
「クラスメイトが足から血を流して走ってた。誰かに追われてそうな雰囲気あった。」
その言葉を聞いて、フランは少し考える。
「追っ手の姿は見たのかな?」追っ手の姿は見ていない。フランに示せる証拠は何もない。
「空は、そのクラスメイトを追うと良い。」フランとは別行動。
「私の異罪は、空の異罪と比べると、役に立たない時が多いからなぁ。だから、その子を追う役目は空に譲る。足止めは任せて欲しいんだよ。」
他人から100%の信頼を受けると、小っ恥ずかしい。フランは仁王立ちで路地を塞ぐ。その背中に感謝の言葉も言えずに、顔を赤らめて空はクラスメイトを追い掛けた。
フランは、一向に現れない敵を5分間も待ち続けた後に、重たい荷物を両手一杯に持って帰路についた。
何もない空間で五分。
やる気に満ち溢れた表情で、突っ立ていただけの自分の姿は、きっと馬鹿っぽく見えたに違いない。
フランは少し涙目になっていた。