春の月、土曜日、本日の天気は晴天。
異罪管理本部
異罪の専門組織。
世界各国に支部を作れるだけの強いパイプを各国に持つ。
東京支部
日本には北海道支部、九州支部、東京支部がある。
各人個別に活動する救済者を繋げるパイプ役。
主な役割は、救済者のフォローである。異罪の情報管理。
各研究施設や政界、警察との繋がりがある。
支部長は、宇佐美。
高校2年の春の月、土曜日、陣の家。
いつもの3人『陣、フラン、そして空』は、陣の家でティーパーティーを楽しんでいた。
なぜティーパーティーか?という質問には、『紅茶が好きだから』としか言えない。
「にっぽん、さいこー。茶っ葉、さいこー、にっぽん人は優しいし、アニマルクッキー美味しいしー。100点!」
いつものように、フランは元気だ。微笑ましい。
しかし、《その茶葉は、インド産だ。》空は心の中で、ツッコミをいれた。
意地悪な事は言わない。
紅茶の美味しさは、その場の雰囲気で左右される。
場の景観、外気温、一緒に飲む人物、供えてあるお菓子。
今日のティーパーティは、陣家の庭で行われている。
一面芝生の庭に、白いパラソルの刺せる机とキャンプで使うアウトドアチェアを出した。
座り心地は最高である。陣は、たまに業者を呼んで庭を整えている。
名前は知らないが、春の花々が見事に咲いている。
陽当たりは良く、風はない。
初めてティーパーティを開いた時に、いい日にやれたと口にすると、陣は「風が強く吹かない様に、配置したからね。」と教えてくれた。
気温に関しては、4月のポカポカ陽気である。
「フランって、どこの国出身?何人?あと、何歳?それに身長と体重。」
明るい栗毛に、黒茶の瞳。日本人とどこかの国のハーフ?だろう。
空は昨日テレビでみた海外の城を生で見てみたいと思った。しかしわ一度も国外に出た事がないので、出来ればフランと一緒に行きたいと思う。
フランは救済者の仕事で海外に良く行くので、慣れているはずだからだ。
「にっぽん人は、優しいけど。空はデリカシーないなぁ。13歳!168センチに55キロ!それ以上はレディの秘密!秘密は秘密にしておくものだぞ!」
フランは、わざわざ机の上に立ち見下ろしてきた。
空はフランを見上げる。
『レディの秘密』の定義に関して、空の知っている定義に当てはめるなら、年齢や体重を公言し、出身地を秘密にするフランをレディに含めてはならない。
ちなみにフランの見た目から、空は20歳と予測していた。13という数字をにわかに信じて良いのか悩んでいる。
13歳は成長期に当たる。つまり、空と比べて少し低い程度のフランの身長は、さらに伸びる可能性があると予想できる。
《まさか、巨大化の異罪?!》
ちなみに『巨大化』は、先日、空が関わって死にかけた異罪だった。
そんな冗談を考えつつ《外国人は、大人びて見えるのだろうか。》と、疑う。
空は当てずっぽうにいくつかの国を言うが、陣に止められる。
「フランの過去は、質問NGだよ。質問NGという事もNGくらいにね。念の為付け加えるのなら、異罪管理本部にも秘密の話だ。解るかな?」
異罪管理本部にも秘密の内容。本気のヤバいやつだと、理解する。
フランは頬を染めながら言う。
「お互い様だね♡3人だけの・秘・密!」
バレれば死。
秘密の共有を押し付けるなら、タイミングを見計らって欲しいものだ。
あとフランは、机の上に立った事を陣に怒られた。
「そうそう聞きたい事があるんだ。『異罪管理本部』があるって事は、『支部』は?」
まだ陣に出会ってから3ヶ月程しか経っていない。つまり、異罪に関わったのも3ヶ月。
知らない事は山程ある。
陣は、不用意に口外しない事を条件に教えてくれた。
「本部は中国とパキスタンの国境付近にある。日本にある支部は、三箇所。北海道、東京、九州。」
救済者は、自宅勤務が多い。
今流行りの働き方改革であるテレワークに数十年も前から取り組んでいるようだ。
しかも、副業OK。お給料も陣を見れば期待して良いと感じる。かなりのホワイト企業と言える。
この時は、異罪管理本部をブラック企業だ!と、後で文句を言う事になると考えてはいなかった。
「東京支部は、優秀。異罪を救済するスピードが早いし、被害を最小限に抑えてる。空も氷鬼になる前、異罪を知らなかったでしょ。情報操作も、かなり優秀。それに陣と私の2人を見てれば、空でもその優秀さを理解できるでしょ?いえ、猿でも理解出来る事でしょ!」
どうやら、日本語下手くそのフリは終わったらしい。
フランは日本人よりも、日本語に詳しい。
今度は、机ではなく、椅子の上に立ち、空を見下す。
アニマルクッキーを持ち、猿の頭を勢いよく噛み砕く。
《えっ?!その猿は何を意味してるの?》
美味しそうに食べるフランを見ながら、空は困惑する。ちょっと付いていけない時がある。
「フランはね。空くんに先輩面したいんだよ。同世代もなかなかいないしね。」
フランの考えがなんで解るのか、陣は読心術でも出来るのかと疑いたくなる。
それにしても、中学生と高校生を同世代と呼んでいいのかは怪しい。
良く良く思い出していくと、フランの言動や行動は、13歳が背伸びしているようにも思える。
今のように慌てる姿も、たまに見せる子供っぽい行動も、あれが素なのかもしれない。
《あれ?!まじで13歳か?!》
この後、フランが東京支部について教えてくれた。
「東京支部の中でも、個々人に担当地区というのがあります。もちろん、担当地区以外でも異罪を見つけたら救済するのが当たり前です。
あっ、今話しているのは、東京支部なので、他の支部ではまた違うから注意が必要です。
異罪を発見した場合は、速やかに支部への報告が必要です。支部が証拠隠滅や情報操作に動いてくれます。これを怠ると、後でめっちゃ怒られます。2度3度と忘れる度に厳しくなります。もう二度と忘れないと思います。」
空は、哀憐の気持ちで《フランは何度怒られたのか。》
フランは優しさから《空は弱いから。きっと怒られたら泣いちゃう。》
2人は《しっかりと教育しないと!》と思った。
「救済者が異罪発現者を救える確率は、3割程度と言われてます。理由は様々で、既に手遅れな状態だったり、未知の異罪だったり。発生数も多くはないから、知識として異罪の内容を理解していても、実際に見るのは初めてという異罪が9割9分9厘9毛くらいだからね。」
フランはこの後も一生懸命説明してくれて、茶葉が尽きても、まだまだ話し足りないようだった。