女騎士「勉強も案外面白いものだな」
「よし、なら次の問題。『トンネルでは、前照灯や車幅灯、方向指示器などを点灯させながら走行するべきである』」
「方向指示器……? ウィンカーのことか? そんなものを点灯してでも明かりをともす必要はあるのか? たぶん×だ」
「そうだな。じゃあ『原動付き自転車のエンジンを切った状態なら歩道を歩いてよい』。〇か×か」
「〇だ」
「……正解」
凄いですねぇ。
レヴィさんがテキストを与えられてから3日が経ちました。彼女は道雄が仕事で留守にしている時間をいっぱい使ってマジメに勉強をしていたようです。今では、信号機すら知らなかった彼女はいません。標識も、ある程度の見分けは付くようになっています。
「『原付がけん引するときの重量制限は150kg以下である』」
「……わからん。一応、×……か?」
「じゃあ、正確にはいくつだ?」
「……勉強しなおします」
道雄は調子が良かったレヴィさんが面白くなかったのか、少し意地悪なことをしました。ちなみに、けん引の重量制限は120kg以下で、×と答えたレヴィさんは間違っていません。
しかし、レヴィさんはまじめな性格。再びテキストを開き、ノートに原付の積載に関するポイントをノートにまとめ始めました。
「……と、まぁこんな感じだよ」
「ヤバいね。これ、普通に合格しても可笑しくなくない?」
タブレットの中から、めぐりが焦った様子でレヴィさんの姿を見ています。道雄はタバコをふかしつつ、めぐりの疑問に答えます。
「最初の時点で、模擬テストを受け、低くて30~40点代。今日受けたら、87点あったかな」
「ひゃーぅ! サイヤ人なみに成長してるぅ!」
「……ちなみに、めぐりは免許持ってたよな。さっきの問題、答えれたか?」
「……」
「なんか言えよ」
「……」
「『横断歩道では、歩行者がいなくても必ず一時停止をしなければならない』」
「あーあーあー! 聞こえナーイ!」
「横断歩道では人がいた場合に必ず一時停止! いない場合はその限りではない!」
レヴィさん、会話を少し聞こえたのか、威勢よく答えました。
「……だ、そうだ」
「……ぶっちゃけ、人がいてもみんな無視して走り抜けるじゃん」
「そうだけどな」
はい。
本当は止まらないといけないのですが、実際はみんな止まりません。
というか、筆者は止まるようにしていますが、たまに後続車がクラクションを鳴らして威嚇しますし、最悪の場合、なんで止まったかも考えずに追い越しをする馬鹿もいます。危険ですね。
でも、どこで警察がパトロールしているかわかりませんし、みんな止まりましょうね。
「ちなみに、テキストの問題にそろそろ飽きてきたらしく、ネットの模擬テストにも手を出し始めてる」
ネットを探せば、模擬テストがたくさん見つかります。もちろん、無償のサイトです。もしかしたら、テキストを買う必要すらなく、ネットで見つけたサイトで勉強することもありかもしれませんね。
「なんだよぉー。わりとおバカさんだと思ってて、免許の試験なんて出来ないだろうって思っていたのにぃ~」
「考えが甘いんだよ。ていうか、時間さえかければ普通に合格する試験だからな、原付や自動車の学科試験なんて。ただ、全くの無知スタートから3日で合格圏内にいるのが普通に凄いだけで。また今度、コイツに何か資格試験を受けさせてみるか」
「じゃあミルチーが事前にそう言ってよ! あたし馬鹿だから無理だと思ったんだもん! 自動車の学科試験で3回も落ちたんだもん! 無理だと思うじゃん!」
「そういえば、お前も合格できなくて泣きついてきたよな。懐かしい」
「……ミルチー、今タバコ吸ってるよね」
「ん? そうだが」
「タバコのニコチンを煮込んだら、いい感じな毒物ができるらしいよ」
「……それをしてどうしろと」
「コーヒーに混ぜよ。あたしも協力するから」
「お前、ナチュラルにクズなこと言うよな。てか、なんでそんなに会いたくないんだよ」
「だって、普通に暗殺しようとした相手に会いたくないよ」
確かに、と道雄さんは納得しました。
「そうだ。こっちに来るとき、もちろんミルチーがレヴィを連れてくるんだよね? なら、ミルチーのST250でレヴィの原付を高速まで誘導してよ!」
「またまた恐ろしいことを考えるなぁ」
ちなみに、ST250というのは道雄の愛車のことです。クラシック系の250ccバイクなので、原付と違って高速も走れます。
「そういえば、原付で高速に乗ろうとした高校生の話が昔の2chにあったな」
「なにそれ」
「マグナキッドって言って、富士山でそばを食べるバイカーたちのオフ会に高校生がマグナ50というバイクで参加しようとしたんだ。
けど、マグナ50は原付だから、高速に乗れない。ただ見た目が厳ついハーレー系なだけ。バイカーたちに馬鹿にされて、泣く泣く家に帰って、オフ会のサイトを荒らしたらアク禁された、というオチだ」
「なんか可哀そうだね」
「でも実際、コピペを読むと笑えるんだよな。なんか青臭い馬鹿って感じで。ちなみに、続編? で実際に高速に入ったらしい」
「どうなったの?」
「抜かされまくったが、のろのろとしてた軽自動車を抜いた。軽自動車の排気量は660cc。つまり、マグナ50は排気量の600ccのCBR600RRより速いことになる! って言ってたらサービスエリアで警察に補導されて、親父に殴られた」
「あっははははは! 馬鹿ねーっ!」
そのオチを聞いて、めぐりは大笑いをしました。道雄も思い出し笑いからか、一緒に笑いあっています。
「それなら、ミルチーのST250よりも速くなっちゃうね」
「ばーか。速さなんて、最低速度を守っていれば、さして重要じゃない。バイクで大事なのは、乗ることを楽しむこと。もちろん、速さを求めてバイクを改良することを悪くは言わないが、俺はのんびりしてでも辺りの景色を見るとか、ゆったりしているのが好きだ」
「まぁ、後ろに乗せてもらう側としては、速いと怖いからいいケドネ」
道雄とめぐりは2人旅をするとき、ST250の後ろにめぐりを乗せるようにしているらしいですね。微笑ましいですが、排気量に対して2人乗りかつ高速を走るとしたら、少し不安ですね。
「それで? アイツが原付免許を取って、名古屋に来た日には、ちゃんと迎えてやるのか?」
「まぁ、しょうがないよね。名駅にでも集まりましょっか。ランチとかの予定は任せるから」
「普通は名古屋に住んでる奴に任せるべきだよな」
「ありがとうミルチー!」
適当な奴だ、と呆れつつ、道雄はそれに従います。
2人はその後も、適当な雑談をした後、めぐりの方が夕ご飯を食べに行く、ということになったので、お開きになります。
「じゃあな」
「またね」
道雄は少し寂しそうに別れを告げます。
「で、調子はどうだ?」
「道雄……!」
レヴィは顔をブルブルと震えていました。そして、表情は驚いたまま接着剤で固めたように動きません。
道雄は何だ何だと思いつつ、レヴィの視線の先にあるPC画面の方を向くと、そこには『点数92点 合格』と書かれたページがあります。
おやおや、ちょっと腕試しに挑戦したら、まさか合格してしまったようですね。
「……嘘だろ?」
道雄くん、疑心暗鬼です。そろそろとは思っていましたが、やはり、模擬テストでも合格し始めればそれ相応の実力が証明されたもの。うれしいですよね。
「やったぁ!」
レヴィはまるで幼い声でに喜びを表現し、つい道雄に抱き着きました。ぎゅーっと締め付ける力は騎士だったからか力強く、道雄は女性の肉感に悦びを得ると同時に、首を絞められたことによって酸素が不足し、顔が真っ青になります。
「は、離せ……」
死にかけのセミみたいに弱弱しい声で道雄はレヴィに命令します。少し遅れて、レヴィは男性に抱き着いた気恥ずかしさが襲ってきます。道雄は、それどころじゃなくて、とにかくゲホゲホと咳をしています。
「まぁ、1回の合格で油断したらいかん。とりあえず、別のテストを5つは合格して見せろ。そうすれば、やっと本番だ」
「感謝……感謝するぞ、道雄! 正直に言えば、最初こそ不安でいっぱいだった。未知の世界のルール……信号や標識すら知らない脳筋ゴリラが、試験に合格できるのだろかって……。でも、そんな時に道雄がゆーちゅーぶのバイクのとか車の動画を見せてくれたりして、励まされたんだ。今では、勉強が楽しくて仕方がない!」
「そ、そうですか。それは良かったです」
興奮のあまり、大げさに言っているレヴィに対し、道雄は若干引いてよそよそしく対応します。それに、声が大きいと威圧的で委縮してしまうのでしょうね。
「ああ、それと、道雄はいつもカップラーメンだけれど、それ、体に悪いんだろう?」
「え、まぁ……どこからそんなのを聞いてくるんだ」
ニートなのに、と言いかけましたが、あまりに非情な言葉だと思って制止します。
「その、だな。以前から、パソコンを使わせてもらっているだろう?」
「え、ああ。うん」
「一応、色々調べてな、料理とかも。だから、ごく潰しの身としては、少しくらい家事全般はさせていただこう」
「え、ああ、はい。どうぞ」
道雄がそう答えた後、彼とレヴィは買い物に行きました。
そして、オムライスを作ることになりましたが、結局のところ、ほとんど道雄が作ることになりました。レヴィは不器用だったのです。しかし、諦めるつもりはないようなので、将来に期待ですね。
そして、夕ご飯を食べ終わり、片付けが終わってすぐのことです。
レヴィはさっそく、次々と模擬テストで合格をたたき出します。
次回は、ついに試験の話ですね。




