26ー1
ざわざわ……。
廊下が騒がしい。
放課後で、帰宅しようとしていた生徒達。
また、これから部活へと向かおうとしていた者達の視線が一点へと注がれている。
その中心には、雨乃と美姫がいた。
またこうなってしまったか。
頭が痛い。
いつもそうだ。
自分へ向けられる視線が嫌になる。
雨乃は不意に、手を握られる感触がした。
視線を落とすと、それは姫菜の手であった。
「大丈夫です。私がついてますから。」
フンス。
鼻息荒く、自信満々な表情を見せる美姫。
彼女の人気、そして自身の悪評でこのような視線に晒されている。
それなのに、その一端を担っている彼女からそんな言葉が出た。
おかしなものだ。
雨乃は本当に大丈夫な気がしてきた。
「ふふ、ありがとう。」
「……。」
雨乃の微笑みを見て、目を真ん丸に見開く姫菜。
「……ど、どうしたの?」
姫菜の様子がおかしかった為、心配になった雨乃が言った。
「い、いえ、先輩笑うと優香ちゃんほどではないですけどその……か、可愛いですね……。」
突然雨乃の耳に届く美姫の言葉。
それを理解するや否や、彼女の顔はゆでダコのようになった。
「は、はあっ!?なに言ってるの!?」
突然の廊下に響く雨乃の大声。
「うおっ!?びっくりした!いきなり大きな声出さないで下さいよ!」
ビクッと跳ね上がる美姫。
只でさえ注目されていた二人。
この騒ぎでより多くの生徒が彼女らを見るようになってしまった。
「あー、もうっ!」
自身の頭をガシガシと乱暴にかく雨乃。
「……せ、先輩?」
「こっち!」
腕を掴み、美姫を連れていく。
「天江さん連れてかれちゃったね。」
「うん、あの不良の先輩でしょ?大丈夫かな?」
「……大丈夫じゃない?なんか仲良さそうだったし……。」
「……確かに。でも意外だよね。」
「……そう?雨井さん達もだけど綺麗な子ばっかで違和感なかったよ。」