3ー2
「昨日傘忘れちゃったからずぶ濡れだったよー。もう濡れ煎餅だよー。」
美姫が笑いながら話している。
「あはは、なんか最近天江さん変わったよね。」
美姫につられてニコニコと笑う女子生徒。
「そ、そうかな?えへへ……。」
「うんうん!前のカリスマ感凄かった時も好きだけど、今の皆のマスコットみたいな天江さんも好きだよ!」
その声に、周囲も同調する。
ある日の朝の教室。
それは、美姫と優香の接触から数日後のことだった。
相変わらずクラスメイト達に囲まれる美姫の姿があった。
しかし、以前と少し変わり、美姫の笑顔と自発的な発言が増えた。
それには、理由があった。
あっという間に放課後になった。
教室には、そわそわと落ち着かなず、椅子から立ち上がったり再び座ったりする美姫。
そして、それとは対照的に本を読み物静かに座っている優香がいた。
「……さて。」
読んでいた本をパタンと閉じた優香。
その様子を見ていた美姫が彼女の元へ駆け寄る。
目を輝かせ、わくわくと何かを期待しているのが容易に分かる。
そんな美姫の姿は、さながら母犬に甘える子犬のようであった。
「良いよ、おいで。」
そう言うと、優香はスッと立ち上がった。
「わーい!」
その言葉を待っていたと言わんばかりに優香の胸元へ飛び付く美姫。
憧れの優香に抱きつくことが出来た。
幸せに、表情が緩んでしまう。
そこに、彼女に憧れている者達に見せているような姿はなかった。
「今日ね!お友達といっぱい喋ったよ!」
美姫が、その見た目にそぐわない言い方をする。
「そっか、良かったね。」
優香が頭を撫でる。
美姫は、彼女の手を受けいれ、目を細める。
その幸せそうな表情は、見た者も幸せにするようなものであった。
数日前の美姫からは想像もつかない姿。
それには、美姫自身驚いていた。
こんな幸せを自分一人で独占していても良いのだろうか。
「皆と仲良く出来て偉いね。」
優香が頬笑む。
その声に、脳が溶かされるような気がした。
何も考えられない。
この快楽に溺れていたい。
美姫は、ゆっくりと目を閉じた。
「……おやすみ。」
美姫が再び目を開けると、夕方になっていた。
汗をかき、少し身体が少し冷えている。
優香はというと、未だに頭を撫でながらじっと美姫を見つめていた。
「ふふ、おはよう。」
優香の言葉。
二人の目が合う。
数秒の幸福感の後、心臓が飛び出してしまうような衝撃。
美姫は慌てて彼女の胸元から離れた。
「あ、ご、ごめんなさいっ!」
謝る美姫。
その時、彼女は気がついてしまった。
とんでもない過ちを犯してしまった。
美姫の口から透明の糸が雪の胸元まで繋がっている。
そして、その終着点である彼女のそこは、液体が染みていた。
美姫にはすぐにそれが分かった。
「ご、ごめん!洗濯しないと!」
慌てて離れた。
勢い良く離れた為、尻もちをついてしまった。
しかし、彼女にとってそんな些末なことはどうでも良かった。
嫌われたくない。
その一心だった。
「大丈夫だよ、気にしないで。」
スッと美姫の顔に自身の顔を近づける優香。
「ま、待って、今起きたばっかでその……。」
美姫はそう言うと、両手で自身の口を覆う。
「口より隠さなきゃいけないとこあるんじゃない?」
クスクスと妖艶な笑みを見せる優香。
彼女の目線は、大きく広げられた美姫の両足により、捲れ上がったスカートへ行っていた。
「あ!ちょっ!?」
急いでスカートを直し、足を閉じる。
「ふふ、大丈夫大丈夫。気にしないよ。」
いつの間にか距離を詰めていた優香。
再び捕まってしまった美姫。
両手で頭を固定され、逃げることが出来ない。
「あ、あの、雨井さん?」
目をあちらこちらにキョロキョロと動かす美姫。
目を合わせれば、このまま彼女の虜になってしまう。
優香に頭をがっちりと捕まれた彼女が出来る精一杯の抵抗であった。
美姫が手で払えば良かったのだが、万が一彼女を傷つけてしまう恐れがある。
又、彼女はそもそも優香から離れる気がなかった。
形式上の抵抗であった。
時すでに遅し。
もう彼女の虜であった。
「大丈夫。」
「……大丈夫?」
「そう、大丈夫。」
「……うん……大丈夫……。」
起きたばかりだからだろうか。
意識がはっきりしない。
脳に直接語りかけるような優香の声。
美姫は、その声には抗えなかった。
「優香。」
「……優香?」
「そう。優香って呼んで、美姫。」
「……うん、優香……ちゃん。」
先ほどよりも曖昧になる美姫の意識。
ふわふわと宙を浮かぶような不思議な感覚。
美姫の思考は停滞していた。
「ふふ、良くできました。」
再び美姫の頭を撫でる優香。
「ふあぁ……。」
この少女には逆らえない。
彼女を写す美姫の目は、蕩けて焦点が合ってなかった。
次章3ー3
2018年 9月 8日
投稿予定。