19ー1
「どうぞ、上って下さい。」
「お邪魔しまーす……。」
雨乃が、キョロキョロしながらローファーを脱ぐ。
「大丈夫ですよ、私達しかいませんよ。」
笑いながら紅葉が言う。
現在二人は、紅葉の自宅へ来ていた。
それは、先ほど迷子になってから数十分のことである。
「そうなんだー。……ふふ。」
「どうしたんですか?」
「いや、ごめんね。お友達の家に遊びに来たの初めてだから……嬉しくって。」
えへへと笑う雨乃。
そこには、噂の不良娘の姿はなかった。
そこにいるのは、はにかんだ金髪の輝く美少女の姿があるだけであった。
「お、おぉ……分かりました。リビングで待ってて下さい。」
顔を直視できない。
その輝きを直で見てしまえば浄化されてしまうかもしれない。
紅葉は、そんなことを思っていた。
紅葉は、台所へ向かった。
自分の為。
そして、雨乃の為。
飲み物を準備する。
菓子も準備しようとする。
「姫川先輩ー!」
「はーい。」
すぐに返答が来る。
少し前なら、本当にあり得ないことだ。
自分の家に雨乃がいる。
そして、彼女を招いたのが、自分なのだ。
過去の自分に言ってみたとしても、絶対に信じないだろう。
「何か食べたいお菓子ありますかー?」
「ポテチー!」
満面の笑みを浮かべているのだろうなと分かるような声。
そんな声が紅葉の耳に届く。
ポテトチップスか。
普段食べない紅葉の家にストックはなかった。
買いに行くか。
紅葉は買い物へ行こうと思い、リビングへ向かった。
「先輩すみません。」
ヒョコッ。
廊下からリビングへ顔を出す紅葉。
「どうしたの?」
ちょこんとソファーに座っている雨乃。
「すみません、ポテチないので買って来ますね。」
「そんな、悪いよー。なければ全然大丈夫だよ。なんなら私買って来るよ。」
両手をぱたぱたと動かす雨乃。
「いや、それこそ悪いですよ。じゃあ言ってきますね。すみません、ちょっと待ってて下さいね。」
そう言うと、紅葉はいそいそと玄関から外へ飛び出して行った。
「あっ、ちょっ……どうしよう一人になっちゃった……。」
雨乃が急いで紅葉の後を追い、廊下へ出た。
しかし、その頃には紅葉は家の中にはいなくなっていた。




