17ー1
到着した。
緊張からか。
それとも、早歩きで移動した為か。
雨乃の心臓がうるさい。
何度か繰り返す深呼吸。
「ちょっと良いかな?」
廊下から、教室にいる女子生徒に声をかける。
「はい、何です……ひっ!?」
声をかけられ、振り向いた女子生徒。
声をかけた者を見るや否や、彼女は悲鳴をあげてしまった。
そこには、雨乃がいた。
最近の彼女の状況を知らない生徒なら、当たり前の反応であった。
「空宮さんいる?」
「そ、空宮さん……ですか?さ、探してきますね。」
女子生徒は、雨乃へ向けてそう言うと教室の奥へと消えていった。
彼女が紅葉を呼んでくる可能性はあまり高くはなさそうだ。
紅葉を連れてくるか。
それとも、雨乃の目を盗みそのまま教室から逃げていくか。
「すみません、わざわざ私の教室へ来て頂いて……。」
どうやら前者であったようだ。
紅葉が早足で雨乃の元へ来た。
「良いの、良いの。私が空宮さんとお話したかっただけだから。」
雨乃が、紅葉へ微笑みながら言った。
恐がらせないように雨乃が考えた精一杯の工夫だ。
「お話……。」
「うん、お話。」
「……ふふ。」
唐突に吹き出す紅葉。
「え、え?」
そんな彼女に困惑する雨乃。
「いえ、姫川先輩見た目に似合わず可愛い言葉遣いだなーって……ふふ、可愛い。」
雨乃の頬が染まる。
「もー、からかわないでよー。じゃ、行こうっか?」
「え?どこか行くんですか?」
「遊びに行こうよっ!」
そう言うと、雨乃は紅葉の腕を掴んで廊下を駆け出した。
仲良くなるのは、放課後に一緒に遊ぶのが一番だ。
雨乃が最近彼女のクラスメイト達から学んだことであった。
「ま、待ってくださいっ!」
「まぁまぁ。用事あるの?」
「いや、ないですけど……。」
「じゃあ行こうよ!カラオケ行かない?モヤモヤ晴れるよ?」
以前クラスメイト達と行ったカラオケが脳裏に浮かぶ。
その影響で、自然と雨乃の声が弾んだ。
「せめて私のカバン持たせて下さいっ!」
「……あ、ごめん。あはは……。」
我に帰る雨乃。
勢いに任せて紅葉を連れ出してしまった。
途端に恥ずかしさが込み上げてきた。
彼女の頬を染めた紅は、そのまま広がっていった。
腕を掴まれ後ろからついてきていた紅葉にも分かるほど雨乃の耳は赤くなっていた。




