16ー3
キリキリ。
ギリギリ。
イチャイチャ。
胃の痛み。
歯軋りの音。
甘ったるい空間。
様々な思い。
依然として混沌の中、昼休みの終わりを迎えようとしていた。
「そろそろお昼休み終わるし優香ちゃん行こう?空宮さんも行こう?」
「うん!」
元気良く返事をする優香。
「……うん。」
しょんぼりと項垂れる紅葉。
可哀想に。
彼女らの背中を見つめ、自身の教室に戻ることしか出来ない雨乃であった。
教室に戻った雨乃。
授業中も、クラスメイト達と談笑中も、頭の片隅には紅葉がいた。
悲しげな目。
力なく内側に曲がる背中。
その姿は、雨に打たれる捨て犬のようであった。
三人の中では、紅葉がどことなく疎外感のあるように見えた。
それは、雨乃には以前の自分と少し重なる部分があるように思えた。
ほっとけない。
雨乃はそう思った。
授業が終わり、席を立つ雨乃。
その表情は険しく、最近仲良くなっていたクラスメイト達も話せるような状態ではなかった。
ズンズンと教室内を歩く雨乃。
彼女の行く先にいる生徒達は、モーゼの十戒で海が割れるように左右へと寄った。
「姫川さん遊びに誘おうと思ったけど誘えなかった……。」
「だね。てか姫川さん恐かったね……。」
「そうだね……。」
「……でも凛々しくて素敵……。」
「分かる。」
雨乃のいなくなった教室。
クラスメイト達が彼女の背中を見ながら呟いていた。
バチン!
「よし、気合い入れて行くぞっ!」
自身の両頬を、両手で力強く叩く。
目指すは美姫達の教室。
会うのは紅葉。
話すことは決めていない。
それでも、雨乃は紅葉と話さなければならないと思った。