2ー2
昼休みになった。
互いの席をくっつけたりし、大半の生徒が何人かの塊を作る。
巾着と水筒を手に、雨乃が立ち上がる。
すると、彼女の動きに合わせ、騒がしかった教室が、静にになった。
そして、教室から出ていくと、再び喧騒が戻る。
ドラマや漫画などでは、屋上が生徒達に開放されている。
そして、生徒達が賑わっていることが多い。
しかし、実際にはそんなことはない。
雨乃は滅多に人のこない屋上へ繋がる階段に座り込み、おにぎりを食べ始めた。
「あっ……。」
雨乃がおにぎりを食べ終わり、水筒の蓋を開けた時、声が聞こえた。
見上げると、ブカブカの制服に身を包んだ女子生徒が立っていた。
彼女の手には、小さな保冷バックが下げられている。
恐らくここで昼食をとろうとしているのだろう。
「……えっと、隣良いですか?」
「え?」
何を言っている?
隣?
雨乃の理解が追いつかない。
今まで、自分の隣を避けるような者はいた。
しかし、今回のようなものは初めてだった。
「あ、お邪魔でしたか?すみません、空気読めなくて……。」
しゅんとする少女。
困惑し、無言だったのを拒絶したと思ったのだろう。
雨乃には、そんな彼女にあるはずのない犬のような耳と尻尾が見えた。
それは力なく垂れている。
「い、いや……駄目ってわけじゃ、ない……です。」
雨乃は慌てて、しどろもどろになってしまう。
こんなこと、高校進学して初めてだった。
誰かと昼食と一緒にとる。
久々の感覚に、雨乃はどうすれば良いか分からなかった。
「なら、失礼しますね。」
少女はそう言うと、雨乃の
隣に腰かけた。
安心したのか、幻影の耳と尻尾がふわふわと動く。
彼女らの距離は、肩がぎりぎり当たらないくらいであった。
ふわりと優しく、甘酸っぱい香りが雨乃の鼻孔をくすぐる。
恐らく彼女の髪の匂いなのだろう。
心臓の音がうるさい。
隣の女子生徒に聞かれていないだろうか心配であった。
「良い匂い……。」
「え?」
聞き返す女子生徒。
しまった。
思っていたことが口に出てしまった。
「あ、いやその……。」
雨乃は、何か言わなければと必死に考える。
「食べます?……はい、あーん。」
箸で卵焼きをつかむ。
そしてそれを、微笑みながら雨乃の口元へゆっくりと近づけた。
何らかの抗いがたい誘惑が、雨乃の思考を停止させた。
ゆっくりと口を広げ、目の前の卵焼きを口内へ入れた。
卵のしっとりとした食感と、砂糖の甘さが口の中いっぱいに広がる。
「お、美味しい。」
「ふふ、良かったです。」
優しい頬笑み。
それは、雨乃が今まで見たことないような慈愛に満ちたものだった。
友達になりたい。
諦めていた、捨てたはずの気持ちがふつふつと沸き上がる。
しかし、雨乃には何が出来るでもなかった。
そうこうしている内に、少女が弁当を食べ終えてしまった。
そして、手際よく弁当を片付け始める。
「じゃあ、私行きますね。」
すくっと立ち上がった。
「あ、あのっ!」
雨乃が口を開いた。
心臓の音がうるさい。
彼女のことを、咄嗟に呼び止めてしまったが、何を言おうか考えていなかった。
頭が真白だ。
「……今日は楽しかったです。ありがとうございました。」
「う、うん。」
恐らく後輩なのだろう。
小柄でブカブカな制服を着た彼女は、そのまま雨乃の前から去った。
今度はいつ会えるだろう。
雨乃は登校するのが、少しだけ楽しみになった。
「あ、名前聞くの忘れてた……。」
次章3ー1
2018年 8月 25日
投稿予定。