16ー1
気がつくと、彼女を目で追いかけていた。
何度も止めようとしたが、無駄であった。
見れば見るほど底なし沼のようなものに沈んでいくような感覚。
それほど彼女は魅力的だったのだ。
それが恋愛感情なのか、一種の憧れなのかは自分自身にも分からなかった。
そんなモヤモヤする気持ちが嫌だった。
そして、急に彼女にすり寄り始めた存在がたまらなく目障りであった。
「あの、空宮さん……?」
それは、四人で昼食を食べた翌日のことであった。
昨日の美姫と優香を思いだし、嫉妬に怒り狂うのをなんとか押さえ込んでいた紅葉。
クラスメイトの一人が、彼女を呼んだのだ。
「え、え?なに?」
ハッとする紅葉。
切り替えが必要だ。
ちょうど良い。
一人でモヤモヤな気持ちのままにしておくより良いだろう。
彼女の話を聞き、気分転換しよう。
「何やらかしたの?」
そう言う彼女の顔色は悪かった。
廊下を指差す。
何かあったのだろうか?
そんな疑問があった紅葉。
しかし、彼女の疑問はすぐに消えることとなる。
そこには、雨乃がいた。
彼女のことを知らないクラスメイトからすれば、雨乃の存在は誤解されたままだ。
恐怖心を煽る着崩した制服と、派手な髪の色。
整った顔から鋭い目がギロリとのぞかせる。
美姫と優香に振り回されている彼女とは全く違う印象を持ってしまう。
これは恐がられてもしかたがない。
苦笑いでそう思う紅葉であった。
「どうも、姫川先輩……。」
ぺこり。
紅葉が軽く頭を下げる。
雨乃もそれにつられ、頭を下げた。
「えっと、今日の放課後時間あるかな?」
「私だけですか?……美姫とか雨井とか呼ばなくても大丈夫なんですか?」
タラリ。
頬を伝う汗。
「うん、空宮さんに用があるの。」
「……えっと……。」
紅葉の目が、キョロキョロと動く。
頬をかき、露骨に挙動不審になっていった。
「いや、大丈夫だよ。別に何かいちゃもんつけようとかじゃないよ。」
苦笑いする雨乃。
その言葉にため息が溢れる紅葉。
やはり、少なからずそのような類いのことを思っていたのか。
雨乃の胸がチクリと痛んだ。
「やっぱこの見た目って駄目なのかな……。」
自身の教室へ戻る中、雨乃がポツリと呟いた。




