12ー3
「惚けないでって言われても……。」
美姫の言葉にただただ困惑する雨乃。
皆目検討もつかない。
「先輩が殴ったりして脅したんでしょ!?」
勢い余ってタメ口になる美姫。
「ちょ、ちょっと待って!私姫川先輩に脅されてなんか……。」
「優香ちゃんは黙ってて!」
優香の言葉を遮る美姫。
力技過ぎる。
呆れる雨乃。
そんな彼女の後頭部には、人のことを言えないという、見えないブーメランが突き刺さっていた。
「まぁ、良いや。天江さん続けて?」
「……いや、以上です。」
勢いがなくなり、尻窄みになる美姫。
脅して彼女と一緒にいる。
そんなことを思われていたのか。
雨乃がチラリと紅葉の方を見る。
彼女の視線に気づいた紅葉。
サッと視線を逸らし俯く。
あぁ、そうだ。
そういえば、そうだった。
すっかり忘れていた。
雨乃は思い出したのだった。
優香や、一部のクラスメイト達。
彼女らと普通に接していたことで忘れていた。
自身が周囲からどのような目で見られていたのか。
何もしていないのに怖がられていた。
彼女達も、本当は他の生徒達同様に自分のことを恐がっていたのだろう。
「違うよ……違うよ、美姫!」
立ち上り、声を張り上げる優香。
「ゆ、優香ちゃん……?」
「確かに姫川先輩見た目不良だけど可愛いんだよ!?脅されてなんかいないよ!」
それでも不良だとは思わわれていたのか。
喜んで良いのか、悲しむべきなのか。
「う、……そう……なんだ。」
優香の勢いにたじろぐ美姫。
もしかしたら雨乃に脅されて、言わされているのかもしれない。
そんな考えが美姫の脳裏に一瞬過る。
しかし、彼女の顔は、雨乃に怯えているようには見えない。
本当のことを必死に訴えかけているようだ。
「そんなこと、そんなこと言ったら美姫だってそうじゃん!」
「わ、私っ!?」
「そうだよ!この前から空宮さんとずっと一緒にいるじゃん!?」
「そ……それはっ!優香ちゃんのことを相談してたんだよ!!」
今度は美姫が声を荒らげる。
「そうだ!美姫は悪くない!お前が悪い!」
美姫の言葉に同調する紅葉。
今まで空気のような存在であったのが嘘のようであった。
「美姫を馴れ馴れしく呼ぶな!」
これは、上手くいっているのだろうか。
雨乃には、彼女らが感情をただぶつけ合っているように見える。
もしかしたら、より拗れさせてしまったかもしれない。
「ど、どうしよう……。」
胃が痛む雨乃。
ポツリと呟いた。