12ー1
「悪いけど美姫に用事があるからつれてくね。」
先手を打ったのは、優香だった。
ずいっと美姫に近づく。
そして、そのまま彼女の腕を掴む。
「痛っ、あ、ちょっと……。」
力強く掴まれた腕。
小柄な優香の握力とは思えないほどの力強さ。
その痛みに、咄嗟に目を瞑ってしまう美姫。
「止めろ!美姫が嫌がってるだろ!」
紅葉が無理矢理優香と美姫を引き剥がそうとする。
「お前は美姫に馴れ馴れしくするな!」
何がどうなっている。
立ち尽くす雨乃。
なぜこんなことになったのか。
なぜこんなことに巻き込まれてしまったのか。
確実に物事が悪い方へ向かっている。
もしかしたらこれは夢なのではないか?
そんなわけがないのは分かっている。
しかし、雨乃に、この状況をどうにか出来る力は持ち合わせていなかった。
人生経験が壊滅的に少なかったのだ。
「い、痛いよ二人とも。や、止めて……。」
いつの間にか両腕を二人に引っ張られていた美姫。
そのか細い声は、彼女らの耳には届かない。
困惑からか、それとも腕の痛みからか。
美姫は、涙目になっていた。
現実逃避している場合ではない。
流石にこれは見過ごせない。
すーっ。
深く息を吸う雨乃。
「いい加減にして!」
少し声を出すつもりであった。
しかし、彼女自身思うよりも大きな声が出てしまった。
中庭の隅々まで響き渡るその声。
当然彼女らの耳にも届く。
静寂。
やってしまった。
後悔する雨乃。
しかし、後戻り出来ない。
「とにかく落ち着いて。まずは二人とも天江さんを離して。痛がってるの分かんないの?」
雨乃のその声に、二人はハッとした。
そして、すぐに美姫から手を離した。
そうだ。
自分がこの場では年長なんだ。
自分がなんとかしなくてはならない。
そんな決意を胸に、雨乃が彼女らの仲を取り持とうとした。