11ー2
時既に遅し。
雨乃は後悔した。
そんな彼女の横には、既に優香がにいた。
タラリ。
嫌な汗が背中を伝う。
じっと中庭を見下ろす優香。
その目は今まで一度も見たことがないほど冷たいものであった。
彼女と会ってから、数日しか経っていない。
しかし、この豹変は予想できなかった。
雨乃の背筋が凍る。
怪談や、恐怖体験を聞いた時と似たような感覚であった。
「……姫川先輩、ついてきてくれますか?」
「は、はいぃ……。」
自然と口から出た言葉。
あぁ、これは恐ろしいことになってしまう。
願わくば、どうか穏便に済ませてほしい。
叶わない願いをする雨乃。
ゆっくりと歩を進める。
心臓がうるさい。
優香の背中を見ながら寒気に襲われる雨乃。
後姿が禍禍しい。
聖母のような微笑を見せていた優香。
彼女の姿はそこにはもうなかった。
あぁ、空が青くて綺麗だな。
雲一つない快晴だ。
あ、蝶々だ。
雨乃の、そんな現実逃避も虚しく彼女らは、美姫と紅葉の元へ辿り着いた。
正確には、辿り着いてしまったのだった。
「天江さんは雨井さんからは普段何て呼ばれてるの?やっぱこの前みたいに美姫って呼ばれてるの?」
紅葉が美姫へ詰め寄っている。
もう雨乃には、優香を見ることが出来ない。
「え、そう……だけど……。」
「なら私もそう呼んで良い?美姫も私のこと紅葉って呼んで?」
……止めろ。
止めろ!
止めろ!!
美姫はわたしのだぞ!?
怒りで手が震える優香。
ここが彼女達から距離があるところで良かった。
そうでなければ、優香は紅葉を殴っていたかもしれない。
「美姫っ!」
優香の声。
後ろに立っていた雨乃がビクッと驚く。
こんな大声、雨乃の人生で初めてだった。
しかし、二人はそんな声にすら無反応だった。
「美姫っ!」
再びの大声。
更に大きなそれに、雨乃が再びビクッと震える。
今度は気づいてくれ。
必死に願う雨乃。
その願いが届いたのか、美姫が振り向く。
そして、隣にいる少女にも、その声は届いていたようだった。
「……雨井っ……!」
親の仇でも見るかのような鋭い目つき。
なるほど。
これが修羅場か。
また一つ大人になった雨乃だった。
「えっ……優香ちゃん……?」
渦中の美姫が言う。
自身が原因なのに呑気なものだな。
最早俯瞰して物事を見ている雨乃であった。