10ー2
「えっと……。」
「無理に話さなくて良いよ。話したくなければ話さなくて良いし……天江さんが気分が楽なように過ごして。」
中庭のベンチ。
昨日と同じ場所だ。
人気のない静かな場所だ。
「ふふ……。」
「ど、どうしたの?」
突如笑いだす紅葉に問う美姫。
「いや、嬉しくって……今まで雨井さんが独り占めしてた天江さんを……私だけが……ふひひ……。」
「あ、あぁ……。」
何も言えない美姫。
絞り出したのは、言葉にならない弱々しい声だった。
美姫は激しく後悔した。
とんでもない人間に自分の弱味を晒してしまった。
満面の笑みで彼女を見つめる紅葉。
そんな彼女を見て、そして、見られながら、自業自得ではあるが、悔やんでも悔やみきれなかった。
「私もっと天江さんと仲良くなりたいなぁ……。」
「そ、そう?あはは……嬉しいなぁ……。」
声が震え、上擦る。
「一つ聞いて良い?」
無理に話さなくても良いとは何だったのだろうか。
美姫に対し、ガンガン話しかける紅葉。
「何……?」
「天江さんは雨井さんからは普段何て呼ばれてるの?やっぱこの前みたいに美姫って呼ばれてるの?」
「え、そう……だけど……。」
「なら私もそう呼んで良い?美姫も私のこと紅葉って呼んで?」
紅葉の顔は仄かに紅潮している。
そして、その瞳は、美姫を写している。
その小さな自分が、彼女の瞳の中に囚われているようだった。
その自分が怯えている。
怖い。
優香といる時に感じたことのないものだ。
油断すると、震えてしまう。
「美姫っ!」
美姫の耳に、最も信頼する者の声がする。
幻聴だろうか。
「美姫っ!」
また聴こえる。
それが幻聴ではないのが、美姫にはすぐに分かった。
「……雨井っ……!」
敬称を忘れるほど焦りと怒りが見える。
それは、美姫とは違う震える理由であった。
「えっ……優香ちゃん……?」