10ー1
美姫の目の下にくっきりと隈が見える。
布団に潜り込み、何度も寝ようとした。
しかし、それは叶わず、気がつくとカーテン越しにでも分かるくらい、外は明るくなっていた。
昨晩一睡も出来なかった美姫。
ふらふらする足取りで校舎を目指す。
昨日紅葉に言われたことが脳内でリフレインし、家の中でも休むことが出来なかった。
その為、少しでも気を抜けば倒れてしまう危険がある。
「おはよう!」
「天江さんおはよう!」
「あー……おはよ……。」
なんとか教室まで辿り着いた美姫。
クラスメイト達と挨拶を交わすと、そのまま彼女の席に座った。
そして、そのたま机に突っ伏すのであった。
普段の彼女からは想像もつかないような態度。
そんな彼女ににわかにざわつく教室。
そこからは早かった。
教室の喧騒に包まれながら目を瞑る。
意識がなくなり、すぐに眠りについた。
美姫は、誰かに肩を叩かれたことで目を覚ました。
寝起きでボーッとする頭。
顔だけあげ、肩に触れた者の顔を確認しようとする。
紅葉であった。
普段ならありえないことに、驚きを隠せない美姫。
「おはよう、天江さん。……調子悪いの?」
「あ、いやぁ……そのぉ……だ、大丈夫だよ。」
まごつく美姫。
視界の縁に優香を捉える。
いつもなら恐らく彼女が起こしてくれるはずだ。
しかし、昨日の一件がある為、美姫に近づきにくいのだろう。
現に、優香は彼女達をチラチラと見ている。
美姫と紅葉が気になるのだろう。
それでも言葉をかけないのは、彼女も気まずさを感じているからだろう。
「そうなんだ。でも無理しないでね?」
微笑む紅葉。
「うん、ありがとう。」
なぜ紅葉は、ここまで優しくしてくれるのだろう。
少ししか話たことがない。
それなのに、自身を犠牲にしかけないような提案もしている。
美姫が彼女を頼った理由。
それは、二つあった。
一つは、他の生徒と、紅葉では、美姫に対する接し方が違うからだ。
それは、優香にも言えることなのだが、彼女ら二人は美姫自身を見て話していた。
他の生徒は舞い上がってしまい、黄色い歓声を上げたり、話をきちんと聞かなかったりする。
美姫はそれらが苦手であった。
そして、もう一つ。
それは、紅葉が優香に並ぶ成績上位者だからだ。
今回のように、自身では解決出来ないようなことでは美姫よりも賢い者で、客観的に考えることが出来る。
そう考えたのだ。
彼女の善意を利用している。
罪悪感に、美姫の胸がチクリと痛む。
「良かったらまたお昼一緒に食べない?」
紅葉からの提案。
どうするべきか。
もし、紅葉とともに昼を過ごすとする。
その場合、彼女の性格上、優香も一緒に過ごすということはありえないだろう。
二日連続で優香と昼をともにしなかったことなど、滅多になかった。
本当にこれで良いのだろうか。
考えている間に、紅葉が美姫の耳に自身の口を寄せる。
そして、美姫の脳が溶けてる錯覚を起こす妖艶な囁き声を出す。
「……良いよ?」
「え?」
「……私のこと……利用しても……良いよ?」




