9ー3
「……姫っ!……美……美姫っ!」
美姫を呼ぶ声がする。
気がつくと、美姫は教室に戻っていた。
彼女は自身の席に腰掛けていたが、昼からの記憶がまるでない。
「……美姫やっぱ今日変だよ。どうしたの?」
心配そうに美姫の顔を覗きこむ優香。
先ほど美姫を呼んでいたのは彼女の声であった。
「あ、いや……なんでもないよ……。」
そうだ。
思い出した。
紅葉におかしなことを言われたのであった。
「……そう。なら良いよ。」
優香はそう言うと、悲しそうに視線をそらす。
「お大事に……。」
そのまま彼女は教室を出ていってしまった。
一人取り残された美姫。
「……私が代わりになる……か。」
紅葉から言われた言葉を呟く。
そんなこといけない。
自身の為にも、ましてや優香の為にもならない。
何よりそれは紅葉に失礼なことだ。
「私にとって優香ちゃんて何なんだろ……。」
クラスメイト?
友達?
親友?
それとも、ただ甘やかしてくれる存在?
そんな都合の良い存在なのだろうか?
結局、答えは出なかった。
「……知らなかった……。」
真っ暗な部屋。
その中で紅葉がぽつりと呟いた。
彼女の自宅。
その中の自室だ。
携帯電話を取り、今まで撮ってきた写真を見ていく。
そして、とある写真に辿り着いた時、手を止めた。
美姫の写真であった。
目線も合わず、誰かと話している時のものだ。
急いで撮った為か、手ブレで写りが悪い。
それでも彼女にとっては宝物であった。
「それでも、今日知れた……。」
「これから天江さんのことをもっと知っていけば良い。」
「……大丈夫だよ、天江さん。私は雨井さんと違って貴女しか見ないし、貴女しか甘やかさないから……。」
美姫の写真を愛おしげに見る彼女の瞳は虚ろで危うさがあった。




