9ー2
「ね、ねぇ、美姫?どうしたの?何かあったの?」
「何でもないって!本当に何でもないからっ!」
朝、ろくに追求することの出来なかった優香。
しかし、放課になる毎に美姫の元へ向かい、今朝の挙動不審であった理由を言わせようとしていた。
優香の焦りは、周囲には目に見えて分かった。
いつもならば、皆がいる日中の教室では美姫のことを名字で呼んでいる。
しかし、今日はそんなことに気が回っていない。
彼女のことをずっと名前で呼んでいたのだった。
それは、教室内にいた生徒達に衝撃だった。
いつからか美姫と優香は昼休みに一緒にいることが多くなった。
それは知っていたが、名前で呼ぶ仲になっていたのは知らなかったのだ。
たちまち二人にクラスメイト達が詰め寄る。
美姫には優香とどれほど仲が良いのかを、優香には、美姫とどうやって仲良くなったのかを皆が気になっていたのだ。
結局、彼らの行動のせいで、優香はこれ以上の追求が出来なかった。
昼休み。
今度こそ聞き出そう。
優香が美姫の元へ向かおうとする。
しかし、美姫は既に教室にいなかった。
「なんか話すの久しぶりだね。」
「そうだね……へへ。」
中庭のベンチに腰かけている美姫と紅葉。
どう切り出そうかと困る美姫とはにかむ紅葉。
隣に座っていて両者の様子は反対なものであった。
「えっと、良いかな?」
「あー……うん、雨井さんのことだよね?いいよ。」
なんとも言えない顔をする紅葉。
一番話したい相手から、最も聞きたくない者の話を聞く。
紅葉の心には、渦が巻かれていた。
美姫は、紅葉に優香との関係と、雨乃のことを話した。
「……そう……なんだ。」
紅葉が、うーんと困ったように頬をかく。
そもそも、紅葉は二人がそこまで親密な関係になっていることを知らなかった。
それだけではなく、優香が、校内一の不良である雨乃と距離を縮めている。
それに対し、美姫は嫉妬しているという。
どこまで苛つかせる存在なのだろう。
紅葉の腸が煮える感覚がした。
「それって……。」
「うん。」
「そ、それってさ……。」
「……うん。」
言いずらそうな紅葉。
美姫は、そんか彼女が何を言いたいのか気になった。
しかし、急かせば、より話しずらくなると思った。
その為、紅葉のペースに任せた。
「私じゃ……駄目……かな?」
「……え?」
「……だから、雨井さんの代わり。……私があの子の代わりに天江さんを甘やかすのじゃ……駄目?」




