8ー2
早く入場時間にならないだろうか。
スクリーンに映し出されている近日公開予定の映画予告を見ている美姫。
それを見ていると、いくつか観てみたいものがあった。
また来よう。
美姫がそう思っていると、入場のアナウンスが鳴った。
早歩きで入場口へ向かう美姫。
周りは親子連れが大半で、他は何人かの男性がいるだけであった。
同年代の女子は周りに見受けられなかった。
そんなわけないか。
よく考えれば、同年代の女子が観るようなものではない。
シアター内へ向かう廊下で、入場口で貰った入場特典をバッグの中にしまう。
そして、自身の購入した座席に腰かける美姫。
本編前に、今後上映予定の映画の広告が流れる。
先ほど観たものなので、美姫はあまり真剣に観ていなかった。
周りはやはり親子連れと少数の男性のみだ。
「……あっ。」
斜め前に一人で座っている人を見つけ、美姫は思わず声を上げてしまった。
後姿しか見えない。
しかし、そのシルエットの雰囲気から、その人は女性ではないかと思えた。
どこかで見たような後姿。
しかし、本編が始まると、そんなことどうでもよくなったのだった。
「良かった……本当に良かった。」
目にうっすら涙を浮かべている美姫。
スタッフロールが終わり、余韻に浸っていた彼女が最初に発した言葉であった。
彼女以外はシアター内に残っていなかった。