7ー2
紅葉は入学式の会場である体育館へ向かっていた。
廊下を歩いていると、前に高身長な女子生徒が目に入った。
「綺麗な人……モデルとかやってるのかな?」
思わず呟いてしまった。
後ろ姿しか見ていないにも関わらず、紅葉は言葉と同じことを思っていた。
彼女の後ろ姿に見惚れていると、突如視界から消えてしまった。
それは、一瞬の出来事であった為、紅葉は驚いて声をあげてしまった。
しかし、決して彼女が幽霊でも特殊能力者でもあるわけでもない。
それがすぐに紅葉に分かった。
ただ躓いただけだったのだ。
「だ、大丈夫ですか?」
思わず駆け寄る紅葉。
そして、手を伸ばしながら正面へ向かう。
その時紅葉が受けた衝撃は、数ヵ月経った後でも鮮明に思い出すことが出きる。
美しい。
それ以外の思考機能が停止してしまった。
「あはは……ごめんなさい、転けちゃいました……。」
苦笑いする少女。
紅葉の手を掴み、起き上がろうとする。
その美貌でお転婆とは、最強の組み合わせではないだろうか。
未だ、じっと彼女を見ている紅葉。
スッと立ち上がる少女。
自身の臀部を軽く叩き、埃を払う。
「ありがとうございました。え、えーっと……。」
ずっと紅葉に見られているへ向けられた少女の言葉。
眉を垂らしたその顔は、困っているように見えた。
「あ、そ、空宮です。空宮紅葉って言います。」
「え?あ、名前……。天江美姫……です。その、ありがとうございました。」
あぁ、声も綺麗だ。
うっとりとする紅葉。
「じゃ、じゃあ私行きますね。」
その彼女の声は、紅葉の耳には届かなかった。
凄く綺麗な人だった。
自分みたいな人間には無縁な人なんだろうな。
紅葉が、そんな卑屈なことを思い歩いていると、体育館へ辿り着いた。
紅葉は、会場入口の指示に従い、自身が座る場所を探した。
すぐに見つけ、並べられたパイプ椅子に座る。
そして、辺りをキョロキョロと見回していた。
それは、先ほどの女子生徒を探す為だ。
彼女の身長も、女子にしては少し高めであったが、制服は更に大きいサイズであった。
それは、恐らく彼女が入学した時に今後のことを考えての行動だったのだろう。
あの色気は同い年では出せないはずだ。
先ほど見た彼女の姿を思い出す。
間違いない、あれは新一年生が出せるフェロモンではない。
準備等で駆り出されている数人いる上級生達。
紅葉は、彼らが座っている方を見ていた。
「いないなぁ……。」
しょんぼりと項垂れる紅葉。
そうこうしているうちに入学式が始まった。
校長の話の内容は、紅葉の頭には全く入っていない。
しかし、それは恐らく彼女だけではないだろう。
彼女の視線の先。
上級生達も聴いているわけがない。
「それでは新入生代表挨拶です。天江さん、よろしくお願いします。」
その声に、紅葉の二つ前の席に座っている女子生徒が反応した。
スッと立ち上がると、そのまま壇上へ歩いて行った。
次章
7ー3
2019年1月19日
投稿予定。




