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甘え嬢ズ  作者: あさまる
2/88

1ー2

どうにかして彼女に近づきたい。

美姫が、優香に対して抱いている思いの中で、最も大きな物がこれであった。

そして、あわよくば友達になりたい。

その為には、どうすべきなのだろうか?


声をかける。

これは無理だ。

まず、入学して一ヶ月ほどしてしまった今、話を切り出すきっかけがないのだ。

仮に彼女に急に話しかけ、不信に思われてしまっては、目も当てられない。

翌日からと言わず、その場で帰宅しそのまま不登校になってしまう。


「お、おはよう天江さん!」


「天江さん!おはよう!」


「う、うん。おはよう、皆。」

美姫が苦笑いで言う。


彼女のこの一言だけで、周りは女子の黄色い歓声と、男子の野太い雄叫びが起きてしまう。

常に注目の的である美姫にとって、彼女の一言はとても大きな意味を成していた。

これでは落ち着いて雪と話をするなど夢のまた夢だ。


そして、これが最大の問題と言えるだろう。

果たして、この美の集大成とも言える優香に接触し、彼女を自身で汚してしまっても良いのだろうか?

自分という無駄な物が加わることで、彼女の美しさを損ねてしまうかもしれない。

友達になりたい。

しかし、そんなおこがましいことを考えても良いのだろうか?


「あ、でもそれはそれで……。」


「えっ?天江さん?」


「あ、いや、なんでもない。」

危ない。

思わず妄想が爆発してしまいそうだった。


美姫がチラリと優香の方を見る。

可愛い。

教室の喧騒など気にせず未だ目の前の本に夢中だ。

美しい。

万が一聞かれてしまっては引かれるどころか嫌われてしまうかもしれない。

綺麗。

なんとか今の呟きを聞かれずに済んだようだった。

間一髪だ。

それしても見目麗しい。


周りと談笑をしつつも、優香を見るのを忘れない美姫。

周囲はもちろんだが、雪にもチラチラと見ているのを気がつかれてはいけない。

そう思い、鏡を見ながら前髪を直すふりをしたり、わざと消しゴムを落として拾うついでになんとか優香を見ようとしていた。


そうこうしていると、始業のチャイムが鳴った。


チャイムの音を聞き、皆が席へと向かう。

授業が始まった。

美姫の好きな科目である、現代文の授業だ。

しかし、授業内容自体を好きなわけではない。

彼女がこの授業を好きな理由は別にある。


「では、教科書20ページを……雨井さん、お願いします。」

教師が言う。


来た、これだ。

これを待ち望んでいた。

美姫がこの日一番楽しみにしていた瞬間が来た。

この教師には、教科書を読ませる生徒を当てる際にある法則がある。

そして、その法則に従うと、今日は優香が指名される日だったのだ。


優香は、言われた通りに席から立ち上がった。

そして、教科書の該当箇所の朗読を始める。


すかさず美姫は目を閉じる。

余計な情報をなくす為だ。

神経を研ぎ澄ませ、優香の声に集中する。


クラシックや、オペラなどは、美姫にとってまるで分からない物であった。

しかし、今の彼女には、それらを好んで聴く彼らの気持ちが理解出来た気がした。

聴くだけで心が洗われる。

自分の中の汚れが全て浄化されていくような気がしていた。


「……ブラヴォー。」

美姫が呟く。

イタリアの文化も、言語もからっきしであった。

そんな彼女から、なぜこの言葉が出たのかは本人にも不明だった。


これで、現代文での楽しみはなくなり、美姫の好きな科目から脱落した。



授業が全て終わり、放課後になった。

美姫の周りには人集りが出来る。

これは、もう皆が慣れた光景だ。


美姫は部活をやっていない、所謂帰宅部だ。

その為、放課後に遊びに誘ったり、今後の予定を聞く者が多数いる。

美姫が周囲の対応をしている間に、優香はいなくなってしまう。


高望みなのかもしれない。

それでも、美姫は一度だけでも優香と接したい。

しかし、どうすることも出来ない。


なにか対策を考えなくてはならない。

何人もの生徒の群れを無意識に引き連れながら帰宅する美姫であった。

次章1ー3

2018年 7月 21日

投稿予定。

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