6ー2
「何時間にするー?」
「どのパックがお得かな?」
「フリーで良くない?」
雨乃の聞き慣れない言葉が飛び交う。
「姫川さんはそれで良い?」
「う、うん。それで良い……で、です。」
「じゃあ、四人フリーでお願いします。」
カラオケ店へ到着した。
キョロキョロと慣れていない雨乃が周りを見渡していた。
その間も、他の者達が慣れたもんだと言わんばかりの様子で進める。
「よし、じゃあ姫川さん行こう?」
その言葉にピクリと反応する雨乃。
そして、おっかなびっくり彼女らの後ろをついて歩いて行った。
全体的に薄暗い廊下を歩いていく。
きちんとした手順を踏み、進んでいる。
それにも関わらず、雨乃はなぜだかいけないことをしているような気持ちになった。
雨乃が初めて目の当たりにする独特な雰囲気のする光景。
そこをズンズンと進む、普段雨乃のことを恐れている女子生徒。
その一方で、目がキョロキョロとして不審な動きをしている雨乃。
いつもとは真逆であった。
「ここだね。」
指差した部屋へクラスメイト達が入っていく。
周りを見ていて出遅れた雨乃。
彼女は一歩遅れて入室した。
「お、お邪魔しまーす……。」
雨乃がそう言うと、既に座っていたクラスメイト達は爆笑した。
「姫川さんお邪魔しますって。」
「面白ーい。」
雨乃の発言と行動を、おどけてみせたと思ったクラスメイト達。
「え?え?可笑しかったかな?」
何か変なことを言ってしまったのだろうか。
おろおろする雨乃。
「姫川さんも早く来てよー。」
雨乃はそう促され、言われるがまま着席した。
その後、順番を決め、歌うこととなった。
雨乃の人生初のカラオケ。
彼女がマイクを受けとると、両手でしっかりとその場で握り立ち上がる。
スクリーンに出された曲名。
それは、少し前に放送していた有名な子供向けアニメの曲であった。
ドキドキと心臓がうるさい。
今部屋の中の注目は自身に向いている。
雨乃は、緊張と恥ずかしさでリズムがずれ、高音で声が裏返り、音を外したりと散々だった。
しかし、先ほどとは違い、それを笑う者はいなかった。
手拍子をとる者や、タンバリンを叩く者、身体を揺らしてリズムに乗る者。
この時の雨乃以外の気持ちは、皆同じであった。
音痴で流行の曲を知らない雨乃は可愛い。
我々で彼女を保護して育てなければならない。
その後も、何時間も連続で歌っていた。
その為、彼女らは少し休憩することとなった。
「ちょっと喉痛いな。飲み物取ってこよっかな。」
一人が言う。
「なら私も行こっかな。コップ空になっちゃったし……。」
それにつられ、もう一人。
なら私も、と雨乃以外が部屋を出ようとした。
「なら、私歌っても良いかな?楽しくなってきちゃった……へへっ。」
雨乃が、席を立った皆に言った。
わくわくが隠しきれず、声が弾んでいる。
「えっ、じゃあもうちょっと後にしよっと。」
「奇遇だね、私もその方が良いと思ったとこだよ。」
彼女らは、雨乃の言葉を聞いた。
すると、スッと元の位置へと戻った。
女神の歌声。
聖なる音痴が再び聴ける。
ここから出るなど彼女らにとっては愚行であった。
次章
6ー3
2018年12月15日
投稿予定。




