6ー1
一人屋上前に取り残された雨乃。
授業を受ける為、彼女も教室に戻った。
周囲の彼女を見る目がどことなく変化した気がした。
どうしたのだろうか。
雨乃は疑問に思ったが、授業開始直前であった為、何も出来なかった。
「ひ、姫川さん!」
授業が終わり、次の授業の準備をしていた雨乃。
そんな彼女を呼ぶ声がした。
声のした方へ向くと、何人かのクラスメイトがそこにいた。
普段一切話さない女子生徒達だ。
珍しい。
休み時間に声をかけられるなど滅多になかった。
それが、急に何人もの生徒に呼ばれている。
調度良い。
先ほどから少し雰囲気が変化していたことを彼女達に聞いてみよう。
雨乃はそう考えた。
「な、何かな?」
なるべく視線を合わせないようにしていた。
昼休みに、初対面の美姫に失礼がないようにと、目を合わせ話した。
しかし、そのせいなのか、なぜか怖がられていた気がした。
自分の目つきのせいで周りを恐がらせているのかもしれない。
「その、良かったら今日放課後遊ばない?」
「んへ?」
素頓狂な声が出てしまった。
そして、その声とともに、クラスメイト達の方を見てしまった。
しまった、やってしまったぞ。
焦り再び視線を逸らす雨乃。
「その、駄目かな?」
一瞬合わせ、逸らした視線と聞き返した雨乃。
そんな彼女の反応から、拒否されたと思ったクラスメイトの一人が言った。
「だ、嫌……じゃない……です。嬉しい……でしゅ、です。」
俯き答える雨乃。
プルプルと小刻みに揺れる身体と、それに比例して揺れる声。
極度の緊張と恥ずかしさから耳まで真っ赤になった顔。
その姿は、従来の彼女の噂を上塗りし、打ち消すに至るには十二分に足りた。
可愛過ぎたのだ。
最早彼女は校内一の不良ではなかった。
三次元に生きる萌えの伝道師と化したのだった。
「本当!?嬉しい!」
皆が大喜びする。
彼女らにつられてふふ、と微笑んだ雨乃。
こんなに幸せで良いのだろうか。
少し心配であったが、それ以上に今の状況に混乱しつつも楽しんでいた。
その後の授業は、いつにもまして長く感じた。
それは、後に楽しみがあるからだろうか。
心地良い緊張感に心拍数が上がる。
雨乃の心は有頂天であった。
「じゃあ行こっか?」
授業が終わり、生徒達が教室から出ていっている。
そんな中、先ほど雨乃に声をかけてきた女子生徒達が彼女の机を囲むように集まって来た。
「うん!」
支度を済ませた雨乃が先ほどと違い、元気一杯にそう応える。
「それで何する?」
「取り敢えずカラオケでも行く?」
校内から出て、現在は通学路。
雨乃を中心に挟むように、三人のクラスメイト達が適当に話ながら歩いている。
「姫川さんはどうしたい?」
話題が雨乃に振られた。
頭を抱えてしまう。
雨乃は、学校帰りに誰かと遊んだことがない。
それどころか、友達と遊びに行くこと自体が初めてだったのだ。
「み、皆が行きたいとこで良いよ。」
雨乃は、こう言う他なかった。
「そっかー、ならカラオケにしよっか。」
こうして、雨乃は、人生初のカラオケを、これまた人生初の学校帰りに遊びに行くことで体験することとなった。
次章
6ー2
2018年12月8日
投稿予定。