5ー4
美姫の思いもよらぬ大声で優香と雨乃が会話を止めた。
「……み、美姫?」
「え?……なに?」
困惑する二人。
美姫が突如立ちあがり、大声を上げたのだ。
誰でも困惑するだろう。
「わ、私のを食べてっ!」
再度言う。
「あ、う、うん。」
勢いに負け拒否することの出来なかった優香。
「え、えぇ……なにこの子……。」
苦笑いする雨乃。
そして、こう小声で呟いた。
もう目の前の不良の先輩の好き勝手させるわけにはいかない。
ここで引いたら負けだ。
優香を取られてしまう。
そんなことさせてはならない。
美姫の目にメラメラと火が宿る。
「ひ、姫川先輩!」
「うん?なに?」
今度は自分か。
半ば呆れ気味の雨乃が美姫を見て応える。
彼女にとっては、ただ見ただけであった。
しかし、美姫には、睨み付けるように見えてしまった。
恐い。
しかし、引くわけにはいかない。
「しょ、勝負ですっ!」
ビシッと雨乃を指差す美姫。
その声は、恐怖に押し潰されそうになる自身を奮い立たせるような再びの大声であった。
「勝負……?」
「はい。優香ちゃんは渡しません!」
「え?え?……どういうこと?」
困惑する雨乃。
優香を渡さないとはどういうことだろうか。
それになぜここまで彼女が敵意を示しているのだろうか。
まるで分からない雨乃であった。
「とっ、とにかくっ!そういうことなのでっ!」
そう言うと、美姫はその場を後にした。
というわけではなく、その場に再び座り、昼食を続けた。
格好がつかない。
それは、この場にいる皆が思っていた。
当の本人である美姫にいたっては、耳が真っ赤になっていた。
自分の弁当を分けるのではなかったのだろうか。
予鈴のチャイムが鳴る。
それは、間もなく昼休みの終了を知らせる物だ。
「今日はありがとう。……良かったらまた明日も……。」
「優香ちゃんは明日は私と教室で食べますっ!」
雨乃の、優香への言葉に代わりに答える美姫。
「ほら、行こうっ!」
美姫は、優香の手を引っ張り、駆けるように教室へと歩を進めた。
ずるずると引っ張られる雨乃。
呆気にとられる雨乃。
「私まだお昼全然食べてないよー!」
優香の声が遠くの方から木霊した。
「きょ、強烈な子だなぁ……。」
その場に一人取り残された雨乃。
ポツリと呟いた。
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6ー1
2018年12月1日
投稿予定。