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甘え嬢ズ  作者: あさまる
16/88

5ー3

「そうだ、雨井さん。昨日のお礼で作ってきたんだけど……。」

弁当箱を開けた雨乃が言った。

そして、それを優香に見えるように彼女の方へ向ける。


「そんな、お礼だなんで……。私も先輩とご飯食べれて嬉しかったですし……。」

自身の弁当を食べ始めていた優香。

彼女のその言葉は、嘘偽りのないものだった。


少し失敗してしまった。

それでも一一生懸命作った物だ。

彼女は気に入ってくれるだろうか。

雨乃の心臓が、騒がしくなり始めた。


大丈夫だ。

大丈夫なはずだ。

自身の中で言い聞かせるように反復して呟く雨乃。


「その、気持ちだから……。駄目……かな?」


「そんな!駄目なんかじゃないですよ!嬉しいです!」


優香の反応に、ムッとする美姫。

昨日はクラスメイト達に囲まれ彼女と昼をともにしていない。

その為、彼女らに何かあったのかは知らない。

自分の分からない優香の話題。

不愉快で堪らなかった。


それでも、自分には何も出来ない。

美姫には、二人を見ていることしか出来なかった。


「その……久しぶりに作ったから下手っぴだけど……。」


ピンクの小さな弁当箱。

可愛らしく、雨乃には少々似合わない物だ。

そこには、形の崩れた人参のソテーに、少し焦げてぼろぼろなハンバーグ、全体的に少し茶色な玉子焼きなどが詰められていた。


どれも不格好な物である。

それでも優香は嬉しかった。

歳上の先輩で、学校一の不良と噂される雨乃である。

それでも自分の前では可愛らしい姿を見せてくれる。

そんな彼女とも仲良くなれたのだ。


「よし、じゃあ玉子焼き頂きますね。」

そう言うと、優香は雨乃の弁当箱から玉子焼きを摘まもうとする。


「うん、分かった。」

ひょいと自身の弁当箱を自分の方へ寄せる。


それに対応できなかった優香の箸が空を切る。

言っていることと行動が異なっている。

どういうことだろうか。

優香の頭上に疑問符が浮かぶ。


「はい、あーん。」

雨乃が当然のように自身の箸で玉子焼きを優香の方へと持っていく。


「え、えっと……。」

狼狽える優香。


一昨日の自分の行動がふと脳裏を過る。


「食べます?……はい、あーん。」


同じことを彼女にしている。


無自覚に雨乃に羞恥をおしつけてしまっていた。

まさかここまで恥ずかしいとは思わなかった。


仕方がない。

相手にしてしまったことだ。

甘んじて受けよう。


「あ、あーん。」

声が震え、上ずる優香。

そして、その顔は、恥ずかしさから真っ赤になっている。


優香がパクリと掴まれていた玉子焼きを口に入れる。

それを満足げに見つめる雨乃。


「なっ!?」

思わず立ち上がる美姫。


「おっととと……!」


「ちょっ!?美姫?」

急に立ち上がった美姫に驚いた優香。

彼女に押されたのと驚きで雨乃の方に思いきりもたれかかってしまった。


うぐっ、と短い悲鳴とともに潰れる雨乃。

幸い弁当箱と中身は無事だった。

しかし、優香が無事ではなかった。

持っていた弁当箱をぶちまけてしまったのだ。


「あ、あぁ……。」

階段にこぼれた中身を見て落胆する優香。


なんてことをしてしまったのだろう。

顔面蒼白になる美姫。


嫌われてしまう。

どうしよう。

美姫の脳裏に何度もこれらが過っては消え、又過るを繰り返している。


「あ、雨井さん大丈夫?」

心配そうに優香を見つめる雨乃。


「え、あ、は、はい。……大丈夫なんですけど、その、ご飯が……。」


「な、なら私の食べる?」


「いや、そんな申し訳ないです!」


「大丈夫だよ!今からなら私購買でパン買いに行っても間に合うから。」


「そんな!なら私が行きますよ!」


思考がぐるぐると回り何も出来ずに立っている美姫をよそに、二人が揉めている。


「なら一緒に……。」


どちらが言ったのか。

それとも両者が言ったことなのか。

上の空であった美姫には、分からない。

しかし、それが自身にとって最悪な結末をもたらすこととなることは理解出来た。


それだけは阻止しなくてはならない。

その為に、今自分が出来ることは一つ。


「わ、私のを食べてっ!」


大声を出すことだった。

次章

5ー4

2018年11月24日

投稿予定。


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