5ー1
こんなに清清しい気持ちで朝を迎えるのは、何年ぶりだろう。
雨乃はすっと起床することが出来た。
いつもなら目が覚めてもなかなか布団から起き上がることが出来ない。
しかし、今日は違った。
「……よしっ。」
気合いを入れる雨乃。
いつもなら、近所のコンビニで惣菜パンや菓子パンを買って登校する。
そして、それを昼に食べている。
しかし、この日は弁当を作ろうと思いたったのである。
「……雨井さん、どんなのが好きなんだろ。」
ポツリと呟いた。
久しぶりに作った弁当。
少し焦げていたり、見た目が不恰好な物になってしまった。
それでも作り直す時間がなかった為、それらを弁当箱に詰めた。
「し、仕方ない、仕方ない……。」
そうこうしているうちに登校時間となってしまった。
慌てて支度する雨乃。
「いってきまーす。」
ドタドタと大きな音を立てて家を出た。
「雨乃、今日は弁当なんだな。」
「そうね、何かあったのかしら?」
雨乃の家にいた雨乃の両親。
のんびりとした口調で彼らが雨乃の出ていった後話している。
スキップ交じりに登校する雨乃。
普段の彼女からは想像つかないような行動である。
教室に入る雨乃。
既に何人かの生徒がいる。
彼女の姿を見ると、彼らはにわかにざわつき始めた。
自身の席に座る雨乃。
いそいそとスクールバッグ内の教科書などを机の中へ移す。
足をパタパタと動かし、周囲に機嫌が良いことを暗に知らせていた。
「早くお昼にならないかなぁ……。」
窓の外の雲を見つめる。
そして、ポツリと呟いた。
彼女のギャップに、周囲は衝撃を受けていた。
いつもムスッとしている雨乃。
しかし、今日は違ったのだ。
真顔を保てずに、何度もふにゃふにゃと崩れた笑みを周囲に晒していたのだ。
いつもと違い、今日の雨乃は可愛い。
教室内にいる全ての人物が思っていた。
それは、授業を行った教師達も例外ではなかった。
「な、なんか今日雰囲気違う……ち、違います……ね。」
昼を待つ雨乃。
そんな彼女がふと声をかけられた。
横を向くと、クラクメイトの女子生徒が立っていた。
「えっと、そのそ、そう……かな?」
久しぶりに声をかけられた気がする。
雨乃は緊張気味に応えた。
「そうだよ……で、ですよ!す、凄くね、その……か、可愛いです!」
「え、えへへ、そうかな?ありがとう。」
高校に進学してから初めて言われた。
その嬉しさに、照れながら笑う雨乃。
その笑顔に、教室内の生徒達は雷を受けたような衝撃を受けた。
「ひ、姫川さん!私達とお昼食べよう!?」
「姫川!良かったら俺らと!」
「ご、ごめんなさい。その、今日はその、一緒に食べる子がいて……。」
雨乃の待ちに待った昼休み。
今朝から行われている雨乃の無意識なギャップ攻撃。
その被害者の生徒達が次々に彼女と昼をともにしたいと群がって来た。
しかし、何よりも優香との約束を楽しみにしていた彼女がそれらに靡くわけがない。
「じゃ、じゃあ明日はどう?」
周囲の生徒達の一人の声。
その言葉に雨乃は驚いた。
優香以外からこんなことを言われたことがなかったからだ。
優香と出会ったことで、一年以上均衡していた事態が崩れた。
好転したのだ。
学校にいるのが楽しい。
雨乃には、こんなこと初めてであった。
「……雨井さんのおかげだ。」
雨乃は駆け足で屋上前を目指した。
次章
5ー2
2018年11月10日
投稿予定。




