3ー5
「なら、失礼しますね。」
こうなれば自棄だ。
やってやる。
優香がドカッと座る。
勢い良く行ってしまった為、隣に座る雨乃の肩とぶつかりそうになってしまう。
大丈夫。
いくら相手がもし、噂通りの極悪非道な不良少女だとしても、年下のこんなちんちくりんな女子を殴るはずがない。
せいぜい怒鳴られるだけだ。
根拠のない自信のもと、優香は行動に移したのだった。
心臓の音がうるさい。
当たり前だ。
隣にいるのが雨乃なのだ。
無理もない。
そう、仕方のないことなのだ。
「良い匂い……。」
ボソボソッと言った。
「え?」
聞き返す優香。
「あ、いやその……。」
何か言いずらそうな雨乃。
「食べます?……はい、あーん。」
そんな食いしん坊のキャラなわけがない。
まさかと思いながらも優香が言う。
箸で玉子焼きをつかむ。
口元が恐怖でヒクヒクと動いていないか心配であった優香。
差し出された卵焼き。
雨乃がゆっくりと口を広げる。
そして、遠慮ぎみにそれを口内へ入れた。
優香は、その様子に、胸がときめいてしまった。
まるで、美姫を甘やかして居るときのような感覚があった。
「お、美味しい。」
目を大きくし、驚く。
彼女の瞳はキラキラと輝いていた。
「ふふ、良かったです。」
今度は自然に溢れた頬笑みであった。
初対面で、こんな短時間で人の全てを分かるわけではない。
しかし、優香には、目の前にいる雨乃が、噂のような冷酷無慈悲な不良少女には思えなかった。
少し安心し始めた優香は、弁当を食べだした。
明日になれば、美姫は登校してくるだろうか。
そうであれば嬉しいことだ。
そんなことを思っていた。
数分後、全て食べ終えた優香。
「じゃあ、私行きますね。」
長居は無用だ。
教室に戻ろう。
この経験は自信になるだろう。
なにせ、何人も病院送りにした少女と初対面で昼食をともにしたのだ。
優香は、胸を張り、その場を後にしようとする。
「あ、あのっ!」
不意に、雨乃が口を開いた。
急に呼び止められた優香の心臓の音がうるさい。
なにかしでかしてしまったのだろうか。
何を言われるのだろうか。
数秒の無音。
「……今日は楽しかったです。ありがとうございました。」
何も言わない雨乃。
彼女が何か言い出す前にそう言った。
「う、うん。」
雨乃が言う。
何か言いたそうであったが、優香には予想も出来なかった。
「……気疲れした。……授業サボっちゃおうかな?」
再び廊下へ歩を進めた優香が独り言を言った。
もちろんそんな気は毛頭ない。
しかし、優香には、授業に出席しない生徒の気持ちが分かった気がした。
一方その頃、美姫はというと、自室で母に看病されていた。
「はぁ……優香ちゃんに会いたいな。」
「ほら、美姫口開けて。お粥溢しちゃうでしょ。」
差し出されたスプーンの上には湯気の漂う粥。
美姫は二回ほどふうふうと息を吹き掛け、冷ます。
そして、それをそのまま口へ運んだ。
「熱ちっ!……もー優香ちゃんにあーんってしてもらいたいよー!」
次章4ー1
2018年 10月 6日
投稿予定。