#08
前回に引き続き、ブラブル様の『フォーブリッジの街へ』からユウマ君の名前をお借りしています。
──〈オウウ地方〉、〈アラヤ大平原〉。
──進行方向に居た邪魔者の〈緑小鬼〉を思い切り蹴り飛ばして退かしながら…夜櫻達は〈アラヤ大平原〉にある小高い丘を目指して、未だに移動を続けている。
夜櫻は…〈緑小鬼〉と戦う上で見晴らしの良い小高い丘に簡易の安全地帯を形成して、そこを休息地点にするつもりだった。
しばらく走り続けていた夜櫻は…自分が考えている条件に合った丁度良い感じの小高い丘を発見し、そこに居た五匹位の〈緑小鬼〉を…本来は挑発で使用する〈飯綱斬り〉で文字通りに吹き飛ばした(※なお…〈飯綱斬り〉を食らった〈緑小鬼〉達は、そのまま死亡している)。
夜櫻が使用した遠距離攻撃により、丘の周辺がしばらくの間〈緑小鬼〉のいない空白地帯となる。
──しばらくすれば…〈オウウ地方〉全域から〈緑小鬼〉が、この場所を目指して続々と集まってくるだろう。
それまでの間に僅かに出来た猶予時間を利用して、夜櫻は素早く〈四神の護り石〉を配置して簡易の安全地帯を設置する。
安全地帯を確保した上で夜櫻は一旦、安全地帯内へと入ってから、来るべき激戦に備える為に装備の手入れを始める。
スズカとアオバの二人も、夜櫻の行動を倣うかの様に安全地帯へと足を踏み入れ、自分達の装備の手入れを始めた。
──しばらくの間、三人は装備の手入れに集中していた為に無言の状態が続いていた。
だが、その長い沈黙は…夜櫻が〈魔法の鞄〉から、美味しそうなサンドイッチの入ったバスケットを取り出した事で終了する事となった。
「軽くでもいいから、今の内に何かお腹に入れておいた方がいいよ。
これから先は…HPが危なくなったり、疲労が蓄積したりで継続戦闘を行う事が難しい状態にならない限りは休む暇は無いと思った方がいいからね」
「分かりました」
「じゃあ、早速戴きますね」
三人は『戴きます』という食前の挨拶を済ませてから、バスケット一杯に入っていたサンドイッチを食べ始める。
サンドイッチの具材は、卵とマヨネーズを和えたものやハム・レタス・トマトを挟んだもの、マヨネーズを塗ってから炙った鮭を挟んだもの、ベヒモスの肉をカツにしてソースを塗って刻みキャベツと一緒に挟んだもの等…多種多様の具材を挟んだサンドイッチを…スズカとアオバの二人は、美味しそうに頬張っている。
それを微笑ましく眺めながらも、夜櫻自身も美味しくサンドイッチを食べている。
──しばらくの間、のどかな平原の風景を眺めつつ、のんびりとした雰囲気の中で食事を取っていた夜櫻達だったが…遠くから「ギギギッ!!」という〈緑小鬼〉の怒りに満ちた鳴き声が聞こえてきた事で、ゆったりとした休息の時間を終える事になった。
三人は各々の得物を手に取り、臨戦体勢へと入る。
「スズカちゃん、アオバ君。
……どうやら、敵の第一陣がやって来たみたいだよ。準備はいい?」
「はい。私は、いつでも戦える状態です」
「俺の方も、いつでもいけるぜ!」
「……じゃあ、戦闘開始だよ!!」
「はい!」
「了解!」
──お互いに声を掛け合いながら、夜櫻達は迫り来る〈緑小鬼〉の大軍に向けて駆け出して行った……。
◇◇◇
──〈アラヤ大平原〉へと戦場を移してから、十日程の時間が経っただろうか……
戦闘の最中…そう思考していたスズカは、目の前の〈緑小鬼〉を素早く振るった〈神刀・大通連〉にて一刀両断に切り捨てる。
〈オウウ地方〉全域に拡がる〈魅惑の香〉によって発生する赤色の霧は、二日に一度程で消失するのだが…定期的に瑞穂が散布している為、すぐに周囲には赤色の霧が発生してくる。
そして、新たな赤色の霧が発生すると夜櫻が(いつの間にか、レベルのチェックをしていたらしい…)一番レベルの高い〈緑小鬼〉の個体を一撃で仕留めてしまう。
そうすると、倒された個体は断末魔の叫び声を上げ…その叫び声が周辺に鳴り響くと、周囲の〈緑小鬼〉達が怒りの鳴き声を上げながら夜櫻に向けて進軍してくる。
──その後は、疲労が蓄積して休息を取る必要が出てくるまで、ひたすら〈緑小鬼〉を狩り続ける…という循環過程の繰り返しだった……。
次の〈緑小鬼〉を袈裟斬りに切り捨てながら…スズカは夜櫻の事を考えていた。
(夜櫻殿は、本当に凄い〈冒険者〉だ。
〈緑小鬼〉の大軍との連戦の最中でも、自身や私達の状態を正しく把握し…決して無理はさせないで、休息を取るべき頃合いで休息を取る様に的確に指示を出してくる。
それに…戦闘と休息の時への意識の切り替えが素早い。休むべき時にはきちんと休息を取り、戦うべき時は戦闘での己の役割を熟知して行動している……。
後、戦況を読み解き…先を見る能力にも長けている。〈緑小鬼〉の大軍との激しい連戦が続く事を想定して、〈極光の歌姫達〉という光の精霊を呼んで継続戦闘が出来る様に配慮している……本当に凄い人だ)
戦闘中や休息中の折りに見せる夜櫻の『先を見る能力』の高さや聡明さを理解し、スズカは内心で感心していた。
◇◇◇
──今も夜櫻の指示で、八人いる〈極光の歌姫達〉の内の二人が鈍足の呪歌を斉唱をして〈緑小鬼〉の進行速度を遅くしている。
二人が攻撃力上昇の援護歌を二重唱で…一人が防御力上昇の援護歌を独唱で歌い、残り三人はMP回復の、HP回復の、特技の再使用規制時間の短縮の援護歌を各々が歌い上げて援護を行っている。
それを視界の端で捉えながら…夜櫻は、〈神刀・迦具土〉で複数の〈緑小鬼〉を〈飯綱斬り〉の横一閃で斬り飛ばしていた。
(あれから、十日程の日数が経ったけど…未だに〈緑小鬼〉の大軍のおかわりが止まないねぇ~。
いつになったら…〈円卓会議〉が〈オウウ地方〉の為に動いてくれるんだろうね)
そう考えていると…夜櫻の耳に聞き覚えのある念話の呼び出し音が鳴り始める。
(……ん?誰かな?)
素早くメニューを呼び出し、〈フレンドリスト〉の欄を開くと…念話を掛けてきた相手は、今現在も〈大地人〉の避難誘導と〈緑小鬼〉の排除に動いている土方歳三からだった。
夜櫻はすぐに念話を繋ぐ為に、『土方歳三』の名前を押した。
「土方君、いきなり念話なんて…一体、どうしたの?」
『すみません、所長。ただ、喜ばしい報告がありまして…急ぎ連絡しようかと思いまして…』
「“喜ばしい報告”?一体、何なのかな?」
夜櫻の問い掛けに、土方はそのまま話を続ける。
『先程、〈ホネスティ〉の幹部である菜穂美さんから念話がありまして…『〈円卓会議〉が駆け出しや中堅の〈冒険者〉に向けて、ヤマト東北地方の村落巡回及びはぐれ〈緑小鬼〉の討伐クエストを大量発布した』という話です。
しばらくすれば…〈オウウ地方〉にも沢山の〈冒険者〉がやって来て、我々の活動もやり易くなる筈です』
土方の言葉に、夜櫻が嬉しそうに笑う。
「なら〈オウウ地方〉防衛も、もうひと踏ん張りだね。
土方君達は〈冒険者〉の到着を確認したら、彼らに引き続きの情報交換を行ってから〈自由都市イワフネ〉に帰還するんだよ?
後、この事をフェイディットやユウマ君達にも伝えてね。彼らもきっと、今現在〈オウウ地方〉防衛に奮戦中だろうから」
『分かりました。所長も、もう少しだけ頑張って下さい。所長の奮戦の事も、必ず〈冒険者〉達に伝えますから』
「了解。じゃあね」
『はい。所長の健闘を祈っていますね』
お互いに挨拶を済ませると、夜櫻はそのまま念話を終了する。
フーッ…と軽く息を吐くと、夜櫻はスズカとアオバへと声を掛ける。
「スズカちゃん、アオバ君。実は、さっき土方君から念話があってね…〈アキバの街〉から、沢山の〈冒険者〉が〈オウウ地方〉に向けてやって来ているらしいんだ。
だから…後もうちょっとだけ頑張ろうよ!!」
夜櫻のその言葉に、スズカとアオバが笑みを浮かべる。
「はい!もう少しの辛抱なのですね」
「俺は、まだまだ充分頑張れるぜ!」
二人にまだ充分なやる気がある事を嬉しく思いながら、夜櫻は〈迦具土〉を真っ直ぐに構える。
──そのまま三人は、攻勢を仕掛ける為に〈緑小鬼〉の大軍へと駆け出して行った。
◇◇◇
──〈円卓会議〉から大量発布された〈オウウ地方〉関連のクエストは…〈緑小鬼〉の脅威に晒されていた〈大地人〉達の窮地を救い、孤軍奮闘していた夜櫻達の活動を大いに助けた。
また…クエストを受注した沢山の〈冒険者〉が〈緑小鬼〉討伐に活躍する姿は、〈大地人〉達に『〈冒険者〉の復活』を大いに宣伝する事にも繋がった。
──こうして、『ザントリーフ戦役』の裏側で繰り広げられた『オウウ防衛戦線』は…夜櫻達やユウマ達…少数の〈冒険者〉有志の活躍により、少なからず〈大地人〉の犠牲者は出したものの…より多くの〈大地人〉の生命を守り抜く事が出来たのであった……。
〈極光の歌姫達〉
上位の光の精霊の一種で、八人の愛らしい小さな少女の姿をしている。各々の髪と服の色が別々になっていて…赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、白の八色に分かれている。従者としての能力は、〈吟遊詩人〉と同じ様に歌による支援型となる。ゲーム時代は、八人を半分ずつに分けて2曲までなら同時に歌う事が出来ていたが…〈大災害〉以降は、一人ずつに細かい指示が出せる様になっている。