#05
今回の話の内容を書くに当たり…千原昌泰様の『二人と一頭の旅』から、〈自由都市イワフネ〉の設定や〈折剣傭兵団〉の名前並びにボーメさんご本人とディーノさんのお名前を…
読んでいるだけの人様の『ある毒使いの死』から、〈魔法の鞄〉の容量に関する設定をお借りしています。
──夜櫻達は、野営していた森から〈自由都市イワフネ〉に向けて…早朝の早い時間帯に街道沿いをまるで沿う様に馬を懸命に走らせていた。
しばらくの間、夜櫻達は無言のままで馬を走らせていたが、〈自由都市イワフネ〉の城壁が見えてくると…馬を走らせていた速度を徐々に落としていく。
大門の近くへと辿り着く頃には、馬の走る速度は人の急ぎ足程の速さにまで落ちていた。
──早朝ではあったものの…大門の前には、既に商隊の幌馬車や商人達による長い行列が出来ていて…入門検査が開始されるのを…まだかまだかと、待っている姿が見受けられる。
夜櫻達は馬から降りると、慣れた様に旅人等用の小門へと向かう。
小門にも、多少の人の列が出来ていたが…門の側にある役人の詰所的な小屋から入門検査の為にゆっくりと出てきたベテラン兵士らしき人物が夜櫻達の姿を確認し、その表情を見た瞬間…『何かしらの異常事態が発生したのだろう』と素早く判断したらしい…夜櫻達へと急ぎ、駆け寄ってくる。
「……何かあったのですか?」
以前の入門検査で、夜櫻達の身分が〈冒険者〉である事を知っていたベテラン兵士は…硬い表情で、夜櫻に声を掛けてくる。
その兵士に、夜櫻は周りの人達に聞かれない様に注意しながら小声で話をする。
「……緊急事態が発生しました」
「……ッ!?」
夜櫻の一言に、兵士の表情が強張る。その様子を見ながらも、夜櫻は話を続ける。
「事は、急を要します。〈自由都市イワフネ〉の領主であるスナガ男爵に直接連絡を取れる人物と〈折剣傭兵団〉の団長の両名に『〈冒険者〉から話がある』と急ぎ連絡をお願いします。
アタシ達は、すぐにでも動ける様に宿屋で準備をしようと思っていますので…連絡はそちらにお願いします」
「……分かりました。ならば、急ぎ街中へお入り下さい」
ベテラン兵士が夜櫻の要望を承諾し、また早急に街中へ入る様に促され…緊急事態による特別措置として、夜櫻達は入門検査を受けずにそのまま〈自由都市イワフネ〉の中へと入る事が出来た。
街中に入ると、夜櫻達は拠点として利用していた宿屋へと…そのまま駆け足で移動を始める(※レベル50を越えたばかりの新人達がいるので、ある程度は彼等のペースに合わせている)。
しばらくして…宿屋へと到着すると、夜櫻は宿屋の主人に「もしかすると、スナガ男爵の遣いの人物が来るかもしれない。その際に、場合によっては、この宿屋で話をする事になるかもしれないので…来賓用の特別部屋を使用させてもらいたい」という旨を伝えた。それを聞いた宿屋の主人は、これを快く了承する。
宿屋の主人の了承の返事を聞くと、夜櫻達はそのまま宿泊している部屋へと戻る。
部屋へと辿り着き…中に入ると、夜櫻達は各々に〈緑小鬼〉対策に動く為の準備を始める。
夜櫻は、スナガ男爵の遣いが来た際の正装用としての青地に白桜の花柄の留袖の和服一式に着替えている。
フェイディット達…ベテラン組は、〈HP回復薬〉等の回復薬や消耗品の所有数や武器や装備の耐久値をお互いに確認し合っている。
そんな彼等の前に、夜櫻が〈ダザネッグの魔法の鞄〉から複数の〈魔法の帯革用小鞄〉を取り出し始める。
夜櫻の唐突な行動に、訝しげな表情を見せているフェイディットだったが…夜櫻が〈魔法の帯革用小鞄〉から〈HP回復薬〉、〈万能薬〉、〈MP回復薬〉、〈蘇生薬〉を取り出し始めた辺りで、驚愕の表情へと変わる。
「……所長、これは一体どういう事ですか?」
明らかに〈魔法の鞄〉の容量を超える量のポーション系アイテムが、次々と〈魔法の帯革用小鞄〉から出てくる状況に…フェイディットが、呆れ混じりに問い掛けてくる。
「フッフッフ。〈魔法の帯革用小鞄〉は、〈魔法の鞄〉に仕舞っても“アイテム一つ分の容量”しか使用しないんだよ。
そして…〈魔法の帯革用小鞄〉に仕舞ったアイテムは、〈魔法の鞄〉の使用容量には全く反映されないんだよ。つまり!〈魔法の帯革用小鞄〉に仕舞ってしまえば、〈魔法の鞄〉の容量を圧迫しないのだ!!
……要は、これも発想の転換だよ!」
夜櫻のその返答に対して、フェイディットが額に手を当てて呆れた表情を見せながら深い溜め息を漏らしている。
だが…すぐに気持ちを切り替えて、フェイディットは夜櫻へと問い掛ける。
「……で?これをわざわざ取り出した意図は?」
「所有数が減ってるであろう回復アイテムの提供だよ」
「……そうでしょうね。それ以外の目的で、わざわざ取り出す事はありませんしね」
フーッ…と、軽く溜め息を漏らしてから…フェイディットは、回復アイテムの分配を始める。
「〈HP回復薬〉、〈MP回復薬〉、〈万能薬〉は、皆に均等に分配した方がいいでしょうね」
「〈蘇生薬〉は、必ず回復職の三人に持たせてね」
夜櫻のその一言で、フェイディットはすぐに夜櫻の意図を悟る。
「蘇生魔法である〈ネイチャーリバイブ〉と〈ソウルリヴァイヴ〉の再使用規制時間中に、もし蘇生措置が必要になった際に代用として使用させる為…ですか?」
フェイディットの言葉に、夜櫻はニコリと笑みを浮かべる。
「正解だよ。流石はフェイ君!
幾ら、蘇生魔法の特技の等級を秘伝まで上げてあったとしても…再使用規制時間の短縮には限界があるからね。必ず何処かで、蘇生魔法を使用出来ない空白時間が発生してしまう可能性がある。
そういう事態が絶対に避けられないなら…それを補う為の手段を用意するのは当然でしょ?」
「確かに。所長のその判断は妥当ですね。ならば、〈蘇生薬〉は三人に均等に分配した方がいいでしょうか?」
「回復職以外のメンバーで、〈蘇生薬〉を所持していない人がいたら、1個か2個位は渡しといて。多少の余裕が出来る程度には量を持ってきているつもりだから」
「分かりました。早速分配しますね」
夜櫻の指示に従い、フェイディットが〈蘇生薬〉等ポーション系アイテムの分配を行っている。
──その様子を眺めながら…スズカは、夜櫻達の間にある確かな信頼関係と、上下関係を全く感じさせない…とても親しげな雰囲気を正直、羨ましいという思いで見ていた。
アイテムの分配を終え…宿屋の主人から、来客が来た旨を知らせる連絡をもらい…夜櫻が対応に向かおうとした時、スズカとアオバが揃って声を掛けた。
「あの……」
「すみません……」
「ん?何かな?」
夜櫻に声を掛けられ…同時に、お互いに何か言おうとしていた事に驚きつつも…まずは、スズカから伝えたい事を話し始めた。
「突然、すみません。実は…話し合いの席に、私も同席してもいいでしょうか?」
「えっ?スズカも?俺も、同じ事をお願いしようとしていたところなんだ」
「えっ?アオバも?」
二人が、お互いに同じ事を考えていた事に驚いている様子を見て…内心微笑ましく思いながらも、夜櫻は返事を返す。
「同席の件は、別段構わないよ。
ただ…同席する際の服装は、〈イズモ騎士団〉としての正装だけはやめておいた方がいいかもね。
……貴女達としても、〈イズモ騎士団〉の現状を話したくはないでしょ?」
夜櫻のその言葉に対して、二人は複雑な表情を見せながらも黙って頷く。
二人が頷いたのを確認した夜櫻は、〈魔法の鞄〉から正装風の巫女服一式と、黒系統色の狩衣一式を取り出して二人に手渡す。
「……という訳で、この服に着替えてね」
夜櫻から渡された服を受け取ったスズカとアオバは、思わず苦笑いを浮かべたのであった……。
◇◇◇
──宿屋の主人の案内で…夜櫻とスズカとアオバの三人は、スナガ男爵の遣いの者と〈折剣傭兵団〉から話を聞きに来た人物が通されている賓客用の特別室へとやって来ていた。
室内へと入ると、そこにはスナガ男爵の側近であるクチハ準男爵と…〈折剣傭兵団〉の番頭であるボーメの両名が各々にソファーに腰掛けていた。
二人の姿を確認した夜櫻は、軽く自己紹介をする事にした。
「初めてお会いしますね、お二方。
アタシは、〈冒険者〉の夜櫻と言います。一緒にいるのは、この〈オウウ地方〉で新たに加わった仲間のスズカとアオバと言います」
全く気負った感じも無く…だが、相手への最低限の礼儀を尽くしながら話している夜櫻に対して…スズカとアオバは、緊張した面持ちをしている。
クチハ準男爵とボーメの二人は、夜櫻の自己紹介に対して自らの自己紹介を軽く行う。
「スナガ男爵様の側近を務めさせていただいているクチハと申します。
領主スナガ男爵様は〈領主会議〉により不在の為、今回は私が代理として参りました」
「〈折剣傭兵団〉のボーメです。以後、お見知りおきを」
お互いに軽く自己紹介が終わると、夜櫻はすぐに話の本題へと入る。
「……早速ですが、お二方をお呼びした本題へと入ります。
実は昨日…アタシ達は〈闇の森〉近くの森で、〈冒険者〉に成り立ての者達の戦闘訓練を行っていました。
その最中に、〈緑小鬼〉と異常な程に遭遇する事に気が付き、仲間の一人に〈闇の森〉へと偵察に行ってもらいました。
そこで…〈七つ滝城塞〉で、〈緑小鬼〉族が警備を行っている姿を目撃しています。
そこから推察するに…この〈オウウ地方〉全体に〈緑小鬼〉の脅威が差し迫っている事が判明し、その事を急ぎお知らせすべく…こうしてお呼び立てしたのです」
夜櫻から告げられた衝撃の内容に…クチハ準男爵とボーメの両名の顔が一気に青ざめる。
──当然であろう。この〈自由都市イワフネ〉を含め…〈オウウ地方〉全体に〈緑小鬼〉の脅威が迫っていると告げられたのだ。
しかも、他ならぬ〈冒険者〉の口から直接語られたのだ。
その衝撃は如何程だろうか……。
最初に衝撃から立ち直ったのは、クチハ準男爵の方だった。
「……お話は分かりました。急ぎ、領主であるスナガ男爵様にこの事をお伝え致します」
「そうされた方がいいです。
アタシ達の所での言葉に、『兵は、神速を尊ぶ』という言葉があります。
〈緑小鬼〉を迎え撃つにしても、防衛に備えるにしても…迅速に行動した方がいいですから」
夜櫻はそう言って、クチハ準男爵がすぐにでも動く事を奨める。
夜櫻のその言葉に、クチハ準男爵は頷き…夜櫻は、未だに無言のままのボーメへと声を掛ける。
「〈折剣傭兵団〉としては、この事態…どう動かれますか?」
夜櫻に話を振られたボーメは、しばし考え込んでから答える。
「……団長と話をしてから決めたいと思います」
「……そうですか。では、それまではアタシ達はアタシ達なりに動こうかと思います」
「お待ちください!!」
夜櫻のその言葉に、クチハ準男爵が待ったをかける。
夜櫻は、その事に嫌な顔などせずににこやかな表情で先を促す。
「……何でしょうか?」
「これから、貴女方独自で動かれる訳ですか?
今現在、〈円卓会議〉はスナガ男爵様の参加されている〈領主会議〉にて、〈自由都市同盟イースタル〉への参入と貴族の位を戴く為に参加されていると聞いております。
……でしたら、我々の指揮下にある騎士団と共に──」
「……アタシから、幾つか言っておく事が御座います」
クチハ準男爵の言葉を遮ってから、夜櫻は…波紋の無い静かな湖面の様な表情で言葉を続ける。
「一つ。アタシ達は“〈円卓会議〉の意向”で、この〈オウウ地方〉へ訪れた訳ではありません。なので、アタシ達の行動指針はアタシ達自身で決めます。そこに、貴殿方貴族の意向や思惑を挟まないで下さい。
一つ。アタシ達が今回の事態に対して自分達なりに動こうと思ったり、この情報を急ぎ貴殿方に伝えようと考えたのは…この〈オウウ地方〉に住む〈大地人〉の方々に少なからずお世話になり、その事に対する恩返しの意味もあります。だからこそ、多少の協力は致しますが…貴殿方の指揮下には入りません。
一つ。〈冒険者〉は、自由です。アタシ達がどう考え、どう思い、どう動くかは自分達で決めます。
そして…アタシ達は、貴殿方を守る為の存在でも、貴殿方に仕える騎士団でも、ましてや…貴殿方の奴隷でもありません。
『アタシ達の意思を無視した行為を行えば、それは貴殿方を襲う刃となって返ってくる』…と、忠告しておきます。
……此処まで伝えた上で、まだ何か言いたい事は御座いますか?」
夜櫻の伝えてきた言葉に…クチハ準男爵は、思わず口を閉ざした。
──彼女が、敢えてこの言葉を伝えてきたのには…意味がある。
クチハ準男爵の元にも、報告として挙がっていたが…『彼女達に対して、地方貴族の者達が自らの元に取り込む為に遣いの者を差し向けていた』という話があった。
──先程の彼女の言葉には、その事に対しての明確な答えも含まれていると見られた。
(どうやら、他の地方貴族達の取った行動は…かの〈冒険者〉の方の心証を著しく損なった様ですね)
そこまで思考した上で、クチハ準男爵は口を開く。
「……分かりました。我々は、我々なりに動こうかと思います。
そして、貴女方…〈冒険者〉の行動を制限する事はしない様に、他の地方貴族達にも通達しておきます」
「その様にして戴けると助かります」
「では早速、この事をスナガ男爵様に報告しに戻ります」
そう言ってクチハ準男爵は席を立ち上がると、そのまま部屋を後にした。
「先程の貴女の言葉…我々も充分に理解した上で、我々〈折剣傭兵団〉の行動指針を決めますね。それまでは、宿屋で待機して戴けると助かります」
「分かりました。とりあえず、しばらくは…今日一日は、準備に費やそうと考えてますから…待機しておきますね」
今まで黙っていたボーメは、そう言って席を立ち上がり…夜櫻の返事を聞くと、そのまま部屋を去って行った。
両名を見送った後、夜櫻はスズカとアオバを連れて宿泊している部屋へと戻る為に移動する。その最中、スズカが問い掛けてくる。
「……何故、あの様に仰ったのですか?」
スズカの問い掛けに、夜櫻はすんなりと答える。
「……簡単だよ。今後は、アタシ達以外の〈冒険者〉がこの〈オウウ地方〉を訪れる様になる。
そうなった時、地方貴族の人達が〈冒険者〉を取り込もうと画策する可能性がある。今回のあの発言は、それを牽制する狙いもあったんだよ」
「成程。自分達の為ではなく、後に来る事となる他の〈冒険者〉の為…ですか」
夜櫻の説明に、スズカは納得した表情を見せる。そんなスズカに、夜櫻はサラリとこう述べる。
「……とは言え。〈古来種〉だからとか〈冒険者〉だからとか難しく気にしなくていいんじゃない?
『そこに、困っている人がいるのなら助ける!!』
物事は、単純明快なんだよ!そんなに難しく考える必要は無いと思うよ?」
夜櫻がサラリと述べた言葉に、スズカは目を見開いて驚いていた。
(この方にとって…人を助ける理由は、“困っているから”で十分なのですね。
……“使命だから”とか、“役目だから”とか、“力を持っているからだ”とか、“〈冒険者〉や〈古来種〉だから”とか…夜櫻殿には、そんな事は些末なものなのですね。
そして、純粋な善意と厚意から行動を起こしている……
そんな人柄を持つ夜櫻殿だからこそ…多くの〈古来種〉達が彼女を尊敬し、畏敬の念を込めて“〈桜の騎士〉”という特別な呼び名を付けた訳ですね)
そう思考したスズカは、ニコリと微笑んで夜櫻に返事をする。
「確かに。人助けに難しい理由は必要ありませんね」
「でしょ?さぁ!アタシ達も、〈オウウ地方〉の為に動くよ~!!」
夜櫻のその言葉に、スズカとアオバは思わず笑みを溢した。
◇◇◇
──部屋へと戻ってきた夜櫻達に、フェイディットが問い掛けてくる。
「所長、話の結果は…?」
「とりあえず、今日一日は出撃準備をしながらつつ待機…だね。
それから、ついでに地方貴族への牽制はしておいたよ」
夜櫻からの報告を聞いて、フェイディット達は納得すると…各々に準備作業を再開させる。
蒲公英は、皆から預かった耐久値が減っている装備等の耐久値の回復の為に、〈自由都市イワフネ〉内にある鍛冶施設を借りる事にしたらしい…そのままそちらへと向かって出て行った。
瑞穂とガブリエルとフルートの三人は、〈イワフネ〉の街中の範囲内で消耗品等の補充の為の買い物へと向かう。
土方とアルセントとシークの三人は、新人組の戦闘技術を少しでも向上させる為に、〈イワフネ〉の外に出て…近隣のフィールドで戦闘訓練を行う為に新人組を連れて出て行く。
残ったメンバーは、今後の行動指針とパーティーの編成の話し合いを行う事にした。話し合いの冒頭は、フェイディットが口を開いた。
「……まずは、〈自由都市イワフネ〉防衛組ですね。
新人達は、まだ過酷な連戦には慣れていません。そこで、彼らは〈イワフネ〉防衛に回したいと思います」
「……それが妥当だろうね。新人の子らに、あまり無理はさせられないしね」
夜櫻のその言葉に、皆が頷く。
「その補佐役として、所長と瑞穂とシークさん…後は、スズカさんとアオバさんを残したいと思います。異論は?」
「何故、私とアオバも防衛組に?」
問い掛けるスズカに答えたのは、フェイディットではなく夜櫻だった。
「アミちゃん達は、戦闘技術がまだまだ未熟だからね。
その手助けに回る為には、きちんとした戦闘技術を身に付けたメンバーを揃える必要がある。
そして…いざ、こちらから打って出るって事になった時…スズカちゃんとアオバ君の戦闘能力は、そこで活かしたい訳。……分かった?」
「分かりました」
夜櫻の説明に、スズカは理解を示す。フェイディットは、そのまま話を続ける。
「次に、〈オウウ地方〉全体の〈大地人〉の村等への避難誘導並びに村等を襲撃している〈緑小鬼〉の討伐担当班は、二つに分けたいと思います。
第一班は…〈暗殺者〉のアルセントと〈狙撃手〉持ちのホークさん、回復役の〈森呪遣い〉の蒲公英、そして支援職の〈付与術師〉の私で構成します。
第二班は…〈盗剣士〉の土方とガブリエルさん、〈召喚術師〉の北斗さん、回復役の〈施療神官〉のアイシアさん、支援職の〈吟遊詩人〉のフルートで構成します」
「うん。その構成で宜しくね」
夜櫻から承諾の言葉をもらい…フェイディット達は、明日の二班の進路等の細かい動きについての入念な打ち合わせを続けている。
夜櫻は、スズカ達へと声を掛ける。
「スズカちゃん達は、装備の方は大丈夫?」
「はい。きちんと手入れは怠っていません」
「夜櫻さんが提供してくれた水薬で、充分補充は出来てます」
二人の返事に、夜櫻はニコリと微笑む。
「……そう。ならいいんだよ。明日は、あまり無茶はしたら駄目だからね」
夜櫻のその言葉に、二人は自分達を思いやる夜櫻の気持ちを嬉しく思いながら頷いていた。
◇◇◇
──その夜、密かに宿屋を訪れたディーノから「〈自由都市イワフネ〉を〈緑小鬼〉達から守る為に協力して欲しい」と強く懇願され…元々〈オウウ地方〉に住む〈大地人〉達への恩返しも兼ねて動くつもりだった夜櫻は、これを快く承諾したのだった……。