#04
──先頭を歩く夜櫻に案内される形で、その後ろから追従する様に歩いていたアオバとスズカは…しばらくして、森の中の拓けた場所へと辿り着く。
そこでは、十六人の〈冒険者〉の集団が焚き火を囲う様に腰掛けている姿があった。
その内六人は、他の〈冒険者〉達より装備の質が低い事から…まだ、〈冒険者〉になってから日が浅いのだろうと判断出来る。
残りの十人は、おそらく…自分達を此処へと誘った“夜櫻”という名の〈冒険者〉と同じ様な手練れの〈冒険者〉達なのだろう……。
その装備が充分に厳選されたものである事が…スズカ達にも、見ていて薄々ながら理解出来た。
夜櫻は、その集団の腰掛けている場所の中で空いている位置にやって来ると、二人を手招きして誘う。
スズカとアオバは、その手招きに従って夜櫻の傍へとやって来ると「此処に腰掛けるといいよ」と夜櫻に勧められるままに、その場にゆっくりと腰掛ける。
二人が腰掛けた事を確認した夜櫻は、仲間へと声を掛ける。
「多分、気が付いている人もいるだろうけど…彼女達は、〈古来種〉だよ」
夜櫻のその言葉に、六人の〈冒険者〉は首を傾げ…残りの十人の反応は、夜櫻の発言に驚いていたり、「やはり…」と何処か納得していたり、額に手を当てて「やれやれ」と首を振って溜め息を漏らしていたり、腕を組んだままの状態で無言の無表情を貫いていたり、ニコニコと優しい笑顔を浮かべていたりと…十人十色の反応を見せている。
そんな…多種多様な反応を見せる〈冒険者〉達に、スズカとアオバの二人は戸惑った様な表情を見せていた。
そんな中、アオバが思いきって夜櫻に問い掛けてみる。
「……いつ、気が付いていたんですか?」
「君達に最初に出会った…あの時にね」
「……そうですか」
〈冒険者〉に正体を見抜かれる可能性がある事は…この〈オウウ地方〉を目指している道中に、ヴァミリオン達から指摘されていたから分かっていたが…夜櫻に出会ったあの時に、既に見抜かれていた事に…スズカとアオバは内心、大きく動揺している。
戸惑う気持ちを隠せずにいる二人に対して、夜櫻は穏やかな微笑みを浮かべながら「大丈夫だよ」と声を掛けてくる。
その言葉で、二人の表情が安心しているものへと変わった事を確認した夜櫻は…そのまま話を再開させる。
「ミユキちゃん達六人を除いた…皆は、事前の情報共有で聞いているとは思うけど…〈大地人〉貴族達も、〈円卓会議〉と〈Plnat hwyaden〉のどちらも、朝霧の独自の情報網を駆使しても…〈イズモ騎士団〉の現状を把握している所は何処も無かった」
夜櫻のその発言に、スズカとアオバの二人が顔を強張らせる。
二人のそんな様子を見ながら…夜櫻は話を続ける。
「本来、スズカちゃんとアオバ君の二人は〈イズモ騎士団〉の本拠地である〈イズモの街〉にいるべきなのに…遠い〈オウウ地方〉にまでやって来ていた。その上、アタシが助けた時には…二人は複数の〈緑小鬼〉に襲撃され、スズカちゃんに至っては…精神的に危うい状態だった。
本来なら有り得ない筈の事態が発生していた…そこを鑑みるに、『〈イズモ騎士団〉に何等かの不測の事態が発生した』…と考えられる。
そこで…アタシは、スズカちゃんとアオバ君の二人を〈アキバの街〉で保護したいと思うの。
……アタシの考えに対して、何か意見や異論はある?」
夜櫻の発言を聞いていた〈冒険者〉達の中の一人…眼鏡を掛けた男性エルフの〈付与術師〉─フェイディット=アーデンハルトが口を開く。
「所長。二人を〈アキバの街〉で保護する事は、別段反対しませんが…もし、二人の存在を他の者達に知られたならば…〈円卓会議〉や〈Plnat hwyaden〉、〈自由都市同盟イースタル〉や〈神聖皇国ウェストランデ〉といった各所が黙っていないと思われます。
……最悪、彼女達を政治的に利用しようと画策する者達の思惑に巻き込まれる危険性があります。その事を、充分考慮するべきです」
フェイディットの意見に対し、何名かの〈冒険者〉が同意する。
スズカとアオバの二人は、不安げな表情で夜櫻を見ている。
フェイディットの意見に、夜櫻はニコリと笑みを浮かべたままで言葉を続けた。
「勿論。アタシだって、その事を全く考えていない訳じゃないよ。
二人を保護するに当たって…アタシは、二人の存在を〈円卓〉にも報告せずに秘匿しておくつもりだからね」
夜櫻が告げた爆弾発言に、この場にいる大半の〈冒険者〉が苦笑いを浮かべている。
そんな中、冷静沈着な狼牙族の女性〈召喚術師〉─瑞穂が一つの指摘をする。
「しかし、所長。我々〈冒険者〉は、“相手のステータスを読む能力”を所持しています。その事を決して忘れてはいけません」
瑞穂の指摘に対して…夜櫻は笑みを崩さずに、〈ダザネッグの魔法の鞄〉から二つの腕輪を取り出す。
「それについては問題無いよ。〈放蕩者の記録〉の変人組の一人が発明したこの腕輪…〈偽装の腕輪〉を使えば、万事解決だよ!」
夜櫻の取り出したその腕輪を見て…フェイディットを含めた常識人達は、深い溜め息を漏らした。
ニコニコと笑みを浮かべながら、夜櫻は〈偽装の腕輪〉の説明を始める。
「この腕輪、かなり便利だよ!アタシのサブ職の〈放浪者〉の“偽装を見破る特技”も完璧に誤魔化しちゃう程に優れた性能だからね。ちなみに、この腕輪の性能なんだけど…この腕輪を装備していると、事前に設定してあるステータス表示に偽装して相手がステータスを読んでも、表示されるステータスは偽装されたステータスのものに自動変換される様になっているんだよ!」
「開発者は…一体何を考えて、その腕輪を造ったんですか……」
額を押さえ…呆れながら発言するフェイディットに、夜櫻はキッパリとこう述べる。
「本人曰く、『これぞ、ロマン!!』…だって?」
夜櫻のその発言に、十人の〈冒険者〉達が一斉にずっこけていた……。
◇◇◇
──自分の発言に対して、ずっこけていた十人の〈冒険者〉達が全員気を取り直したのを確認してから….夜櫻は、話を再開させる。
「ギルド所属メンバー以外の…アタシ達は今、朝霧のギルドで世話になっている状態だから…二人の正体を伝えれば必然的に朝霧が〈雲隠れのマント〉の常備装備を義務付けてくると思うんだよね。
その上で、この〈偽装の腕輪〉を併用すれば…スズカちゃん達の正体に気付く者が大幅に減る筈だよ」
「成程。それならば、彼女達が政治的な思惑に利用される危険性は大幅に減りますね」
夜櫻の説明に納得した十人は、それ以上の反論はしなかった。
皆が、十分に納得してくれたと判断した夜櫻は…皆にこう提案する。
「さて、皆がスズカちゃん達を受け入れる体勢が整ったところで…お互いに自己紹介をしようと思うだけど…皆、それで構わないよね?」
夜櫻のその言葉に、反対する者は誰もいなかった。
「よしよし。誰も、自己紹介に関して反対は無い様だね。
それじゃあ、まずは言い出しっぺのアタシを最初に…ベテランの〈冒険者〉、新人〈冒険者〉、スズカちゃん達の順番で自己紹介する事にするからね。自己紹介の仕方は、今からするアタシの自己紹介を参考にしてね。
アタシの名前は、夜櫻。種族は、エルフ。メインの職業は〈武士〉、サブの職業は〈放浪者〉だよ。所属は無いよ!」
簡単に自己紹介に関しての説明を終えると、夜櫻は自己紹介を始める。
夜櫻の次に続いたのは、エルフの男性〈施療神官〉─シーク=エンスだった。
「私の名は、シーク=エンス。種族は、尊き森の民であるエルフ族。天より与えられし使命に従いて…衆生に救済を施す為の〈施療神官〉の役割と、咎人に審判を下す為の〈審判者〉の役割を与えられている」
シークの全くブレない演技っぷりに、六人の新人〈冒険者〉とスズカとアオバの二人、そして…彼の妻である夜櫻を除いた九人が一斉に苦笑いを浮かべていた。
シークの次に自己紹介を行ったのは、ハーフ・アルヴの女性〈盗剣士〉─ガブリエルだった。
「私の名前は、ガブリエル。種族はハーフ・アルヴ。メイン職業は〈盗剣士〉、サブ職業は〈ルーンナイト〉よ。所属はしていないわ」
ガブリエルの次は、人間の男性〈暗殺者〉─ホーク=レッドだった。
「俺の名は、ホーク=レッド。種族は人間。メイン職業は〈暗殺者〉、サブ職業は〈狙撃手〉だ。俺も所属無しだ」
ホークの次は、ハーフ・アルヴの女性〈施療神官〉─アイシアだった。
「ワタクシの名前は、アイシアと申します。種族はハーフ・アルヴ。メイン職業は〈施療神官〉、サブ職業は〈聖女〉となっていますわ。所属は、〈D.D.D〉になっていますの」
アイシアの次は、ハーフ・アルヴの女性〈召喚術師〉─北斗だった。
「僕の名は、北斗。種族は、ハーフ・アルヴ。メイン職業は〈召喚術師〉、サブ職業は〈刀剣使い〉です。所属はありません」
北斗の次は、フェイディットだった。
「私の名は、フェイディット=アーデンハルト。種族は、エルフ。メイン職業は〈付与術師〉、サブ職業は〈交渉人〉です。所属はしていません」
フェイディットの次は、人間の男性〈盗剣士〉─土方歳三だった。
「俺の名は、土方歳三。種族は、人間。メイン職業は〈盗剣士〉、サブ職業は〈指揮官〉だ。所属は、〈ホネスティ〉となっている」
土方歳三の次は、ハーフ・アルヴの女性〈森呪遣い〉─蒲公英だった。
「私の名前は、蒲公英です。種族は、ハーフ・アルヴ。メイン職業は〈森呪遣い〉、サブ職業は〈鍜冶屋〉です。所属は、〈海洋機構〉です」
蒲公英の次は、狐尾族の女性〈吟遊詩人〉─フルートだった。
「私の名前は~、フルートで~す。種族は~、狐尾族で~す。メイン職業は~〈吟遊詩人〉で~、サブ職業は~〈狩人〉で~す。所属は~、アイシアさんと同じ~〈D.D.D〉で~す」
何処か間延びした喋り方で独特の自己紹介を済ませたフルートの次は、瑞穂だった。
「私の名前は、瑞穂です。種族は、狼牙族。メイン職業は〈召喚術師〉、サブ職業は〈設計士〉です。所属は、〈第8商店街〉になります」
「本当は、後もう一人仲間がいるんだけど…今は偵察に行ってもらっているから、戻ってきたら本人に自己紹介してもらうね。
次の自己紹介は、新人の子達だよ!」
夜櫻から、ベテランの〈冒険者〉がもう一人いる事が伝えられた上で…新人の〈冒険者〉達に自己紹介を促した。
最初に自己紹介をしたのは、ハーフ・アルヴの少女〈施療神官〉─ミユキだった。
「ワタシの名前は、ミユキです。種族は、ハーフ・アルヴです。メイン職業は〈施療神官〉、サブ職業〈会計士〉です。所属は…ありません」
ミユキの次に自己紹介をしたのは、エルフの少女〈盗剣士〉─アミだった。
「私の名前は、アミです。種族は、エルフです。メイン職業は〈盗剣士〉、サブ職業は〈剣闘士〉です。所属は、無いです」
アミの次に自己紹介をしたのは、人間の少年〈妖術師〉─シュウだった。
「ボクの名前は、シュウです。種族は、人間になります。メイン職業は〈妖術師〉、サブ職業は〈錬金術師〉です。所属は、ありません」
シュウの次に自己紹介をしたのは、仲良し狼牙族三兄妹の兄である青年─タツヤだった。
「僕の名前は、タツヤ。種族は、狼牙族。メイン職業は〈守護戦士〉、サブ職業は〈勇者〉です。所属は、無いです」
タツヤの次に自己紹介をしたのは、狼牙族の少女〈森呪遣い〉─シズクだった。
「私の名前は、シズクです。種族は、狼牙族。メイン職業は〈森呪遣い〉、サブ職業は〈料理人〉です。所属は、ありません」
シズクの次に自己紹介したのは、狼牙族の少女〈吟遊詩人〉─マナミだった。
「私の名前は、マナミです。種族は、狼牙族です。メイン職業は〈吟遊詩人〉、サブ職業は〈遊牧民〉です。所属は、無いです」
「新人の子達の自己紹介が終わったから…次は、スズカちゃん達の自己紹介だよ」
夜櫻が、再び自己紹介を促す様に言葉を口にする。
夜櫻から促され、最初にスズカが自己紹介を行った。
「私の名は、スズカと言います。種族は、ハーフ・アルヴ。私の職業は、〈姫夜叉〉という特別な職業になります。所属は、〈イズモ騎士団〉ですね」
スズカに続いて、アオバが自己紹介を行う。
「俺の名は、アオバ。種族は、狐尾族。俺の職業も、〈天狐武者〉という特別な職業になっている。所属は、スズカと同じ〈イズモ騎士団〉だ」
アオバの自己紹介が終了した事で…一応、一通りの自己紹介が終わった事となる。
だが、スズカは…先程、夜櫻の言った“もう一人の仲間”と“偵察に行っている”という言葉がすごく気になったので尋ねてみた。
「すみません。先程…もう一人仲間がいらっしゃって、偵察に向かわれているとお聞きしたのですが……一体、何処へ?」
スズカの問い掛けに対して、夜櫻が反応する。
「ああ、“彼”の事だね。彼は、今はね──」
「所長。只今、偵察より戻りました」
答えようとした夜櫻の言葉に被せる様に…漆黒の風の様な存在が夜櫻の真横に舞い降りると同時に発言する。
突然夜櫻の真横に現れた存在に対して、スズカとアオバは目を見開いて驚いていたが…他の者達は、それが誰であるのかが分かっていた為に、あまり反応していなかった。
夜櫻は、自分の発言が中途半端なところで彼の出現と同時の発言によって打っ手切られた事に苦笑いを浮かべていたが…気を取り直して声を掛ける。
「お帰り、アルセント。悪いけど、偵察の結果報告の前に…新しく仲間になる二人に、簡単な自己紹介を済ませてくれないかな?」
夜櫻から声を掛けられ…新しい仲間─スズカとアオバ─が増えている事に気付いたアルセントは、姿勢を正してから自己紹介を行う。
「初めまして。俺は、アルセント。種族は人間、メインは〈暗殺者〉、サブは〈斥候〉で…〈黒剣騎士団〉の所属です。どうぞ、宜しくお願いします」
「わ、私は、スズカです」
「俺は、アオバだ」
人好きする様な優しい笑顔で、アルセントが行った丁寧な自己紹介に、スズカとアオバは慌てて頭を下げる。
その光景を微笑ましく眺めていた夜櫻だったが…保留していたアルセントからの報告を聞く為に、彼に声を掛けた。
「アルセント。そろそろ、偵察の結果報告をお願い出来るかな?」
夜櫻のその言葉に、アルセントは「はい!」と元気の良い返事をした後に報告を始めた。
「まず、〈闇の森〉の最深部にある〈七つ滝城塞〉のギリギリ近くまで偵察に行ってきましたが…悪い事態が判明しました」
「どういう事?」
「〈七つ滝城塞〉周辺に、普段は絶対に見ない筈の〈緑小鬼〉以外の…〈鉄躯緑鬼〉や〈緑小鬼の呪術師〉等の姿を見掛けたんです。
……これは、明らかに異常な事態が発生していると思われますが…所長は、どう思いますか?」
アルセントからの報告に、夜櫻は難しい顔をして考え込んでいる。
夜櫻のその様子に、ミユキ達…新人組は不安そうな顔をし、ベテラン組は険しい表情に変化し、スズカとアオバは悲痛そうな表情を見せている。
少しの間、考え込んでいた夜櫻が口を開く。
「……おそらく、『ゴブリン王の帰還』が発生し…〈ゴブリン王〉が〈七つ滝城塞〉での戴冠を済ませてしまったんだと思うよ」
「「「『ゴブリン王の帰還』だって!?」」」
「「「『ゴブリン王の帰還』ですって!?」」」
「「「『ゴブリン王の帰還』だと!?」」」
「……何ですか?それは」
ベテラン組が、同時に驚愕の声を上げる中…全く状況が理解出来ていない新人組の一人、タツヤが代表として尋ねる。
その質問に答えたのは、頼れる兄貴…土方歳三だった。
「『ゴブリン王の帰還』とは…〈オウウ地方〉にある〈闇の森〉と呼ばれる深い森の最深部にある〈七つ滝城塞〉と呼ばれる〈緑小鬼〉族の城があってな、ゲーム時代なら二ヶ月に一回…今の時間の流れなら二年に一回だな…そこで、〈緑小鬼〉の王が戴冠をするんだ。
本来だったら、〈冒険者〉がこぞって〈緑小鬼〉狩りをするから…〈ゴブリン王〉も大した強さを持つ事は無かったが……」
「討伐期間の一週間…つまり、一ヶ月の間に…〈七つ滝城塞〉への挑戦も、〈オウウ地方〉の〈緑小鬼〉関連の依頼消化も、行っていないからね~…そのせいで、現状の〈緑小鬼〉の大量発生が起こったんだと思うよ」
土方の簡単な説明をそのまま引き継ぐ様に、夜櫻が話を続ける。
夜櫻の説明を最後まで聞いて…ようやく危機的な状況である事を把握出来た新人組も、真っ青な顔色へと変化する。
新人組の表情の急激な変化に気付きつつも、夜櫻は硬い表情を見せながら話を続ける。
「『ゴブリン王の帰還』が発生した事で、〈緑小鬼〉が〈オウウ地方〉の各地に散っているとしたら……今、〈オウウ地方〉全体とそこに住む〈大地人〉達に〈緑小鬼〉の脅威が迫っている状況だろうね」
夜櫻のその言葉を最後に…場を重苦しい空気を纏った沈黙が支配する。
◇◇◇
──スズカは…先程までの会話の最中に何度か、『〈古来種〉として…〈オウウ地方〉やそこに住む〈大地人〉達に危機が迫っているなら、自分達はすぐにでも脅威を取り除く為に動く』と言おうとした。
だが…何故か、実際に言葉として発する事が出来なかった。
実は、この時のスズカは…〈言霊の典災〉ファルドルの“言霊を使った呪言”によって僅かばかりだが、心に悪影響を及ぼしており…その影響で、『〈古来種〉としての彼女の心』と『〈大地人〉としての彼女の心』との間に乖離が生じていた。その為に、彼女の〈古来種〉として行動しようとした時に心と身体に齟齬が起こったのである。
そんな…彼女の内なる異変に気付いた者は誰もいなかった。
◇◇◇
──場を支配していた重苦しい沈黙を破る為に、夜櫻がゆっくりと口を開く。
「今後の活動方針だけど…まず一度、イワフネに戻る事にするよ」
「夜櫻さん。何で、一度イワフネに戻るんですか?そのまま、〈緑小鬼〉退治に行った方が良いんじゃないですか?」
夜櫻が打ち出した方針に対して、疑問に思ったシュウが尋ねてくる。
質問してくるシュウに、夜櫻は嫌な顔は一切せずに優しく丁寧に答える。
「それはね…〈大地人〉の人達にも、〈オウウ地方〉に迫る危機に対して少しでも対処が出来る様に情報を伝える必要があるからだよ。
“知っている”のと“知らない”のでは…危機に対しての対応が大きく変化する事になるんだよ。
特に、生命の危機に関わる事態では、情報はとても重要になってくるの。だからこそ、〈大地人〉にも伝える必要があるんだよ」
夜櫻の説明に、シュウ達新人組は納得したのだろう…彼らから、これ以上の質問が挙がる事は無かった。
質問や反対意見が無い事を確認した夜櫻は、ニコリと笑みを浮かべると…こう言葉を口にする。
「イワフネに戻るよ!!」
「「「「「おー!!」」」」」
──夜櫻のその言葉を合図に、一同は〈自由都市イワフネ〉に向けて〈緑小鬼〉達が蠢く森を後にしたのだった……。