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鬼姫夜叉奇譚  作者: 櫻華
第一部 絶望の使者《典災》と希望の導き手《冒険者》【5月~9月頃】
3/12

#02

──〈イズモの街〉から〈オウウ地方〉に向けて出立したスズカ達は…旅の道中では普段の戦闘装束では無く、簡単な旅装束へと着替え…道中の移動手段も、本来の〈イズモ騎士団〉の行軍時に利用する〈駿足の神馬〉では無く…普段の移動手段に用いる〈疾風の汗血馬〉を使う様にして〈大地人〉達に正体を気付かれない様に細心の注意を払っていた。


但し、〈イズモ騎士団〉の証とも言える〈イズモの神鏡〉を所定の左側の腰に提げる事だけはやめなかった……。






──〈オウウ地方〉への旅の道中は、実にのんびりとしたものだった。



〈クマノ古森林〉を始めとする深い森林地帯、〈レッドストーン山地〉や〈ボクスルト山岳砦〉等の山道や峠道、広大な〈ニオの水海〉等の大自然の中をゆっくりと移動しながら、大自然のその壮大さに深く感銘を受けた。

特に、〈イズモの街〉からあまり出る事の無かったスズカとアオバが大興奮しながら感動していた様子をヴァミリオン達は、微笑ましい気持ちで眺めていた。


旅の途中で、〈オーディアの街〉等の〈大地人〉達の街や村に立ち寄り…旅に入り用の物資の補充を行ったり、しっかりと休息を取る為に一泊する事もあった。


旅の最中で、そこに困っている〈大地人〉がいれば、スズカ達は…時に手を貸し、時にモンスター退治を引き受け、時に街道を移動する際の護衛を請け負ったりした。




──ただ、自分達の正体を見破りかねない〈冒険者〉達のいる街…〈ミナミの街〉、〈シブヤの街〉、〈アキバの街〉へは一切立ち入らなかった。



〈冒険者〉に正体を見破られ…自分達の正体を〈大地人〉達が知れば、いらぬ不安を抱かせかねない。その可能性を避ける意味もあった。




◇◇◇




──八月に入り…からっとした暑さの気候へと変化し、〈オウウ地方〉へと到着してからも、未だにゆっくりとした旅路だったが…スズカ達は、自分達の倒すべき敵─〈言霊の典災〉ファルドルの現在位置の確認と闘う為の事前準備を怠る事は無かった。



その日も…八月の気候で暑かった日中と違い、太陽が西の地平線へと傾き始めた事で気温が徐々に涼しくなってきた頃合いに…スズカは、この旅路の中で日課となりつつあった〈神刀・顕明連〉の特殊能力による“ファルドル”の現在の所在確認の作業を行っていた。


〈顕明連〉を夕陽の光にかざし、倒すべき宿敵…ファルドルの姿を思い浮かべる。


しばらくして、〈顕明連〉の刀身に妖しい笑みを浮かべているファルドルの姿が映し出される。それと同時に、スズカの頭の中には…ファルドルの現在位置に関する大量の情報が一気に流れ込んでくる。

その結果…ファルドルが今現在も、〈イズモの街〉を旅立った時から変わる事無く〈オウウ地方〉の深い森の中に留まり続けている事が判明する。


確認作業を終えたスズカは、〈典災ファルドル〉による厄災が〈オウウ地方〉にまだ及んでいない事と…そこに住む〈大地人〉達の命がまだおびやかされていない事に、軽く安堵の溜め息を漏らし…そこで一瞬、アリシャートやエリアス達、他の場所の〈古来種〉達の現在の状態も確認しようかと思案する。

だが、その考えを首を横に振る事で振り払う。



もし、あの日と同じ様な反応を〈顕明連〉が示したら…


もし、あの日とは全く違う反応を…〈顕明連〉が全く反応を示さなかったら…




──そう思ってしまったら、スズカは心の底から怖くなり…〈顕明連〉の力でその事を確かめる事が出来なくなった。




確認作業を終えたスズカは〈神刀・顕明連〉を鞘に納めると、そのまま自分達の今日の野営地へと戻って来る。


野営地へと戻って来ると、アオバが近付いて来ながら心配そうに尋ねてくる。


「スズカ、何か悪い結果でも出たのか?」


アオバの問い掛けに、スズカは首を軽く横に振る。


「……違うの。ただ、アリシャートさん達の現在の状況を確かめようかと思ったんだけど…つい、悪い想像をしてしまって怖くなっただけだから。……本当になんでもないよ」

「ならいいけど……」


そうは言っているものの…アオバの表情は、『全然納得していない』といった感じだった。


「スズカ。我々の討伐目的は、移動していたか?」


樹に背中を預けて立っているクロガネの問い掛けに、スズカは首を軽く横に振る。


「……いいえ。〈イズモの街〉を出る前に確認した際に居た森の中(場所)から、一歩も動いていません」


スズカから受けた報告に…焚き火近くに腰掛けているヴァミリオンが、深刻そうに考え込む様な仕草を見せる。


「リオン、どうかしたの?」


ヴァミリオンの愛称である“リオン”呼びをしながら…焚き火で調理を行っていたエメルラが問い掛ける。


「……妙だなと思いまして」

「どういう事だ?」


先程まで背中を預けていた樹から離れ…ヴァミリオンの傍へと歩み寄ってくるクロガネに、ヴァミリオンが答える。


「〈典災ジーニアス〉は“厄災の使者”です。

この世界セルデシアに“究極の破滅をもたらす存在”だとして、〈全界十三騎士団〉は〈典災ジーニアス〉の本拠地である〈終末の大要塞〉へと乗り込んで、これを征伐する作戦を立てた訳ですから。

それなのに、全く何の行動を起こさないのは何かおかしい……」

「……リオン?」


話していたヴァミリオンが突如、動かしていた口を止めて…その顔が、みるみる青ざめていく様子を見たエメルラが訝しそうな表情をする。


ヴァミリオンは、〈典災ファルドル〉がその場に留まり続ける理由に何か思い当たる節があったのだろう…突然、スズカへと声を掛ける。


「スズカ、〈典災〉の現在地に関する情報を得ていましたよね…?」

「はい。〈顕明連〉の特殊能力で、〈典災〉の現在位置とその場所に関する情報を詳しく知る事が出来ますが……それが、どうかしましたか?」


不思議そうに問い掛けてくるスズカに、ヴァミリオンは険しい表情で言葉を続ける。


「もし、私の推察が正しければ…その〈典災ジーニアス〉が今いるのは、おそらく…〈闇の森ブラック・フォレスト〉。

そして…もし、何かしらの干渉を行っているとしたら…それは、〈七つ滝城塞セブンスフォール〉に居る可能性のある〈緑小鬼ゴブリン〉族に対してでしょう。

この〈オウウ地方〉に近付くにつれて、〈大地人〉から〈緑小鬼ゴブリン〉の退治依頼が急激に増加していました。

……それはつまり、〈典災ジーニアス〉が〈緑小鬼ゴブリン〉族を使って〈オウウ〉の地に厄災を振り撒くつもりだからです」


ヴァミリオンが告げた衝撃の内容に、スズカ達の表情も青ざめていく。


「ま、待って下さい!もし仮に、〈緑小鬼ゴブリン〉の件が本当だとしたら…〈冒険者〉達が動いてくれる筈です!!」


慌ててそう言葉を口にしたアオバに対して…ヴァミリオンは、変わらず険しい表情のままで言葉を続ける。


「では、聞きますがアオバ…貴方は、この旅の道中で活動している〈冒険者〉の姿を見掛けましたか?

また、正体を隠していたとはいえ…何故、旅人である私達に〈大地人〉達はモンスター退治を依頼してきたのですか?

そして…何故、この〈オウウ地方〉で多くの〈緑小鬼ゴブリン〉を見掛ける様になったのですか?」

「……それは……」


ヴァミリオンの言葉に…色々と思い当たる節があったアオバはそれ以上、言葉を口にする事が出来なくなる。


「旅の最中、それとなく〈大地人〉に話を聞いてみましたが…『五月以降、〈冒険者〉の姿を見なくなった』と、誰もが口を揃えて言っていました。

この事をかんがみても、“〈冒険者〉達は頼りに出来ない”と判断せざろう得ないと思います。

いざという時は、私達五人だけで〈七つ滝城塞セブンスフォール〉にいるであろう〈ゴブリン王〉を討ちに行く必要があるでしょう」


ヴァミリオンのその言葉に、異を唱える者はいなかった。



──当然だろう。



正体を隠しているとはいえ、彼らは〈イズモ騎士団(古来種)〉。ヤマトの大地や〈大地人〉の命を守る義務がある。


それに…いくら、自分達が〈冒険者〉の街を極力避けていたとはいえ…『五月以前の様に見掛けなくなった』という話が挙がっている時点で、『彼らを頼りに出来ない』と判断を下すのは仕方がない事だ。


そして…動くのかがハッキリしない〈冒険者(存在)〉を頼みにするのは危険性リスクが高過ぎる。


だからこそ、ヴァミリオンの下した判断は“妥当な判断”だと認めざるを得なかった。




「とりあえず…明日あすは、〈典災ジーニアス〉がいる〈闇の森ブラック・フォレスト〉へ出来るだけ早く到達する為に、早めに移動を開始します。

皆、今日は出来る限り早めに就寝する様に心掛けて下さい」


ヴァミリオンの言葉に、スズカ達は顔を強張らせたままで無言で頷く。











──その後…夕食の間も、夕食後から就寝前までの間も、誰一人たりとも口を開く事は無かった……。

【データベース】

駿足の神馬しゅんそくのしんめ

〈イズモ騎士団〉に所属する〈古来種〉達に与えられる神馬。〈亜人間デミヒューマン〉達の大規模侵攻等の緊急対応が必要な事案で行軍する際に、主に用いられる。その移動速度は、風を追い越す程と言われている。


疾風の汗血馬はやてのかんけつば

〈イズモ騎士団〉の〈古来種〉達が普段の移動手段として活用している汗血馬。移動速度は、〈駿足の神馬〉にこそ劣るものの…〈大地人〉の騎士団が持つ軍馬に比べれば、馬の基本能力には雲泥の差と言える程の明確な性能差が存在する。


イズモの神鏡いずものしんきょう

挿絵(By みてみん)

〈イズモ騎士団〉に所属する〈古来種〉達が所持している掌大の神鏡。主に、離れている仲間同士の連絡手段として用いられる事が多い。通信する際は、鏡部分に通信相手の顔が映り…相手の声が頭に直接届く様になっている(※〈冒険者〉の念話に近い感じ)。神鏡の背面は、白銀色の神鉄製で…中央部に桜の大樹があり、その右側に太陽、左側に三日月の意匠が施されている。なお…〈イズモ騎士団〉の〈古来種〉達は、常に神鏡を左側の腰に提げている。


イズモ霊布の外套イズモれいふのがいとう〉、〈イズモ霊布れいふのローブマント〉

挿絵(By みてみん)

〈イズモ騎士団〉に所属する〈古来種〉達が所持している外套やローブマント。

主に、〈イズモ騎士団〉の正装時や大規模な行軍の際に着用している。

外套やローブマントのカラーリングは、統一の群青色。

これは、初代の〈イズモ騎士団〉達が『この世に、絶対に明けぬ夜明けは無い』という意味合いを兼ねる“夜明けの空の色”である群青色をあえて選んだのだと言われている。

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