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世界墓場―ワールドグレイブヤード―  作者: 秋坂行志
第四章:駆け出し冒険者の奮闘
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7:ゴブリン砦の戦い



 慧介達は森の木陰に隠れるようにして息を潜めていた。



 先頭を行く討伐隊長のジェイドが斥候らしきゴブリン三匹組を発見したためである。



 駆け出しのブロンズパーティーが固唾をのんで見守る中、アイアンランクの冒険者パーティーの一人、〈メイジ〉のルーが木陰から【スリープ・クラウド】の魔法を唱える。


 獣道を騒々しく歩いていたゴブリン達の頭を包み込むように灰色の雲が現れると、あっという間に三匹のゴブリンは昏倒して大地に倒れ伏した。



 敢えて仕留めずに眠らせたのはこの世界ならではの理由がある。



 神と契約中の冒険者が魔物を倒すとそれは自動的に神への供物として捧げられてしまう。その際、魔物からは光の柱が空に向かって立ち上る。光の柱はせいぜい数メートル程度で消えるし、昼間はあまり目立たない。しかし、近辺にいるかもしれない敵に見つかることを警戒して、念のために眠らせるに留めおいたのである。



 ちなみに余談ではあるが、供物を捧げる行為を手動で行うスキルも存在する。自動的に魔物を捧げないようにする契約も一応可能なのだ。


 敬虔値稼ぎよりも魔物から回収できる素材を主眼に置いている冒険者にはそういう契約を結んでいる者が多い。



 ジェイドがそこで待てというジェスチャーをして、一人で先へ進んでいく。


 足音どころか草ずれの音すらなく、ジェイドは獣道の先へと消えていった。



 ややあって、ジェイドが戻ってくる。



 全員を一箇所に集めると簡単な状況説明に入る。



「報告の通り、この先にゴブリンの集落ができつつある。今、砦を築いてる真っ最中だ。ざっと見た限りゴブリンの数は三十二匹。これは表に出ていた奴だけだ。一番奥の崖には小さな洞穴がある。ただの倉庫とも取れるが油断は禁物だ。もしかしたら中に大勢のゴブリンが潜んでいる可能性もある」



 ジェイドは口早に説明しながら地面にゴブリンの集落の見取り図を書き記していく。



「洞穴のことを考えると敵戦力の詳細は不明だ。……が、予定通り討伐を開始する。まず初撃で一斉に魔法攻撃をたたき込んで敵の数を減らす。敵の中にはクロスボウを装備する奴や魔法を扱うシャーマンもいるから反撃を喰らわないように気をつけろ。ここまでで何か質問は?」



 ジェイドが尋ねるも全員が一様に否定の意を表す。



「よし。それでは各チームの配置と行動を説明する。自分の役割をよく聞いて覚えておけよ――」





 ジェイドが作戦の詳細を説明した後、いよいよゴブリン討伐作戦が開始された。



 まず〈メイジ〉は全員ルーの元に集まる。魔法で敵に先制攻撃を仕掛けるためだ。



 慧介は他のパーティーの〈ナイト〉二人と共に〈メイジ〉の護衛に入った。



 ゴブリンが築いている砦には既に物見櫓が二つできており、高さはそれほどないものの、クロスボウを装備したゴブリンが計四匹警戒にあたっている。



 未だ建設途中の砦を囲む柵は背も低いし隙間だらけだ。門になる予定らしき開口部は扉もなくがら空きである。今なら守りを固めて籠城されるような心配もなさそうだ。



 砦周辺の木は砦の材料にするため伐採されており、視界は開けている。


 飛び出していけばすぐに発見されてしまうだろう。



 慧介は森の陰から作戦開始の合図を待っていた。


 左手に持った盾を硬く握りしめる。


 緊張のせいか、手のひらが汗でじっとりと湿っている。


 汗を拭って盾を持ち直す。



 と、突然砦の一角で小さな爆発が起こった。



 次いでジェイドが単騎で風のように駆けて行くのが見えた。


 ゴブリン達が一斉にジェイドを見て、櫓からクロスボウの矢が放たれる。



「行きますよ!」



 櫓のゴブリンが全員矢を放ったのを見たルーが叫び、総計五名からなる〈メイジ〉達が杖に魔法の力を込めたまま飛び出していく。


 当然、慧介はその前方を走る。敵の遠距離攻撃をいつでも防げるように。



 魔法の射程距離まで詰め寄った〈メイジ〉達が一斉に魔法を放つ。


 ルーが放った風の刃は狙い違わず櫓の上のゴブリンを両断する。


 若手の〈メイジ〉達は地上を走るゴブリンに向けて風の刃、土塊の弾、雷の弾を飛ばす。


 森の中にある木製の砦である。火に巻かれればゴブリン共々全滅の憂き目にあうことも考えられる。炎を使うことは極力控えるように注意されていた。


 手に棍棒や鉈、手斧、ショートソードを携えて駆け寄ってきたゴブリンが次々と魔法を喰らって倒れていく。



 慧介は魔法を打ち終わった〈メイジ〉を守るように立って周囲を警戒していた。魔法使い達は現在次の魔法を撃つための準備中である。



 ここまでは予定通り、とても順調だった。



 気がつけばもう一つの物見櫓の上にいたゴブリンも既に消えている。


 単騎駆けしたジェイドが走りながらも矢を放ち射ち落としたのだ。



 ジェイドは弓の扱いに長ける〈ハンター〉であり、この討伐隊の中でも一番レベルが高い。


 ジェイドはそのまま敵の注意を引きつけて攪乱するように走っていた。



 それでも大半のゴブリンは慧介達のいるところに向かって殺到してくる。



 そこに、砦の側面をつくように残りの〈ファイター〉達が一塊になって突っ込んでいく。


 ゴブリンの一部と乱戦になる。



「気をつけろっ!」



〈ナイト〉の一人が叫んだ。


 カンッと硬質な音を立てて、投げられた手斧が盾に弾かれた。



 慧介も盾で正面から飛んできたこぶし大の石を弾く。次々と飛んでくる石礫から〈メイジ〉達を守る。



「【大竜巻】!」



 その時、ルーの魔法が完成した。正面から一塊になって突撃してきていたゴブリン十匹程度が荒れ狂う竜巻に飲まれて渦を巻きながら空へと浮き上がっていく。



 だが、こちらに近すぎて射程に捉えられなかったゴブリンが二匹、斧を振り上げて突進して来ていた。


 慧介と他二人の〈ナイト〉が前に飛び出して受け止める。



 慧介が【シールド・バッシュ】を喰らわせて吹き飛んだゴブリンに、メラニーとサンディが放った【ウィンド・カッター】が直撃。光の柱を立ち上らせて消える。



 竜巻によって巻き上げられていたゴブリンが次々と地に落ちてきて、魔法の追撃、剣の一撃を喰らって消えていく。



 正面からやって来たゴブリンはほぼ壊滅状態になっていた。



「さぁ! 合流しましょうっ!」



 ルーの一声によって慧介達は砦の中へ。中でゴブリンと戦っていた〈ファイター〉達と合流、そのまま本来の小パーティーに別れて殲滅戦に入る。



 アレックス達と合流した慧介はそのまま後ろに追随していたサンディとメラニーの護衛をしながら砦内に残るゴブリンを各個撃破していく。


 既に敵の数はこちらより少なくなっているため、前方はアレックスとマルセイエフの二人に任せて後方の警戒に当たる。アシュリーは〈メイジ〉二人の側でサポートを。



 一度だけ、建物の陰から飛び出してきたゴブリンを慧介が足止めする場面もあったが、それ以外には特に危険なこともなかった。



 ほどなく、砦の戦いは討伐隊の一方的な勝利に終わった。


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