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世界墓場―ワールドグレイブヤード―  作者: 秋坂行志
第三章:再来のダンジョン
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6:森の中のはぐれコボルト 1/3

 ボールスライムにリベンジを果たした明くる日、慧介はグラウス草原を越えて森林地帯へとやって来ていた。


 今回、傍らにいるのはティティスのみである。


「こっちだ、ケイ。ちょうど良さそうなのがいるよ」


 ティティスは森に住まう精霊と語らいながら先へ進む。


 今日は二人でレベル上げである。


 効率を考えた結果、キアは単独で自分のレベルにあわせたクエストを受注することにした。これで、ある程度お金を稼ぎながら、安全に慧介のレベル上げができるという寸法である。


 頑張って初心者仲間を探してみるという慧介の主張に、キアが最後まで抵抗した結果であった。


 森の中をしばらく進むと、小高い丘にたどりついた。

 丘には木が疎らにしか生えておらず見通しがいい。


 その丘の中腹の辺りに、ぽっかりと小さな横穴が口を開いている。


 しばらく様子を窺っていると、中から這うようにして犬が出てきた。


 ――と思ったら、ひょいと後ろ足で立ち上がって歩き出す。


「えっ、何ですかあれ?」

「あれはコボルトだよ。狗頭の亜人の一種だ。人間のように武器を使うこともできるし、それなりに知恵も働く。だが、強さとしてはたいしたことはない。一匹ならグラスウルフよりも弱いぐらいだ」

「あれをやっつければいいんですか?」

「うん。練習相手としてはちょうどいい。ケイは戦闘経験が全くなかったそうだからね。やはり人型の敵との戦闘には慣れていたほうが無難だ。巣穴の大きさから考えても数はかなり少ない。恐らく群れを離れたはぐれ者だ。これなら一対一で戦うこともできるだろう」


 そうこう言っている間にも、コボルトは周囲をキョロキョロ見回しながら丘を下り始めた。

 手には粗末な棍棒を握っており、腰にはぼろ布が巻き付けてある。


「森に入ったら戦いを挑もう。コボルトは弱い魔物だが、見かけによらず残酷だ。特に、自分より弱い者には容赦しない。決して弱腰になってはいけないよ」

「は、はい」


 慧介は緊張から生唾をゴクリと飲み込んだ。


「うん……そろそろだな。ケイがコボルトにある程度近づいたらケイ周辺の風向きの調整をやめる。恐らくすぐに気がつかれるはずだ。コボルトは鼻が利くからね」


 ティティスは現在、風の精霊を使って辺りの風向きをコントロールしていた。コボルトが臭いで異変に気がつくのを防ぐためである。


「よし! 今だ、ケイ!」

「はい! それじゃ行ってきます!」


 慧介は森に分け入っていくコボルトの背を追いかけた。

 近づきながら念のために鑑定する。


[ コボルト|LV8|スキル:クリティカル

 亜人の一種。犬の頭をした人型生物。体躯は人間の子供のように小柄だが力はそれよりも強い。性格は残虐で攻撃性が高い。特に、自分より弱い者には容赦がない。二足歩行で武器を扱う。廃坑や洞穴などに群れで住み着いていることが多い ]


 コボルトのレベルはなんと8。慧介の倍だった。


 しかもスキル持ちである。


(まじか……。種族としては弱いのかもしれないけど、これ大丈夫かな……?)


 周辺に柔らかく吹いていた風が止むと、途端にコボルトが鼻をヒクヒクさせてこちらを振り向いた。


「グルルルルル……」


 うなり声を上げるコボルトに返答するように、慧介はロングソード、”グアダーナ”に手をかけた。


「ガァッ!!」

「!?」


 コボルトは慧介が剣を抜くのを待つことなく飛びかかってきた。


 振り下ろされた棍棒を盾で受け止める。


 コボルトは狂ったように棍棒を叩きつけてきた。

 まるで盾そのものを破壊しようとしているかのように、防がれても意に介せずメチャクチャに攻撃を繰り返す。

 大きく開いた口蓋から涎がだらりとこぼれ落ちた。


 その迫力に押されて、慧介は思わず【ソリッド・スタンス】を発動してしまう。グラスウルフより弱いとは聞いていたが、腕が自由に使える分、狼よりも手数は多いようだ。


 そのまま今度は【シールド・バッシュ】を発動する。


 ちなみに【ソリッド・スタンス】には防御系スキルにプラス補正を与える力もあるわけだが、【シールド・バッシュ】は防御スキルではなく攻撃・補助スキルなので補正はつかない。


 コボルトと慧介はかなり密着していたため、移動はできなくとも盾での一撃はコボルトに命中した。しかし、振りかぶっていた棍棒が間に入ったためにクリーンヒットというわけにもいかない。


 押し戻されたコボルトはうなり声を上げながら後ろに下がり、襲いかかるタイミングを測っている。

 スタン効果を与えることには失敗したようだ。


(くっそ、ちょっとびびった。あんなとこでスキルを無駄うちするとは……)


【ソリッド・スタンス】は消費が激しい。あまり使いすぎるとすぐに精神力切れで倒れてしまう。


 慧介もじりじりと足を動かしながらコボルトの隙を窺う。


 そこではたと気がついた。


 自分の得物は鋼鉄の剣。相手は木の棍棒。打ち合えばこちらが有利なのでは?


 敵の打ち込みから察するに、力もこちらの方が上だ。仮に剣が棍棒にめり込んだからといって、剣を奪われるような失態は犯さないだろう。


(やるか……!)


 慧介が意を決したのを待ち構えていたかのように、コボルトがけたたましい声で喚き散らしながら走り出した。


「おぉぉぉぉっ!」


 相手の気迫に負けないように、慧介も喉を震わせて雄叫びを上げる。

 敵の勢いに押されないよう、自らもコボルト目がけて走り出す。

 先ほどは気合いで負けて、コボルト相手に後れを取った。

 今度はそうはいかない。


 ところが、地を蹴って猛ダッシュしてきたコボルトは、すぐさま大きく振りかぶった棍棒をぶん投げてきた。


 突然顔面目がけて飛んできた棍棒に驚く慧介。


「――っ!?」


 まさか得物を投げてくるとは考えていなかった。

 慌てて盾でガードした結果、足も止まり、さらに自らの盾で視界が塞がれてしまう。

 ガツンと硬質な音が響き、盾に衝撃が走る。


 次の瞬間、四つ足で駆けてきたコボルトが慧介の右足に食らいついた。


 勢いよく飛びつかれたためにバランスを崩して尻餅をつく慧介。


「こいつっ!」


 慌てて剣を振るが、間合いが近すぎて上手く力が入らない。


 コボルトはバックステップで難なく躱した。

 ピョンピョンと跳ねるように後ろに下がったコボルトは、その手に再び棍棒を握りしめていた。


 その間に慧介も立ち上がる。


 噛みつかれた右足に一瞬、鋭い痛みが走る。


 ちらと見れば、分厚い革の脛当て(レザー・グリーヴ)には点々と穴があいている。


まじかよ。グラスウルフに噛みつかれても全然平気だったのに……。これがレベル差ってやつなのか? ――いや、そういやあのときは【ソリッド・スタンス】を使ってたのか……。くそっ! スキルを使うタイミングを完全に間違えた!)


 眼前でうなり声をあげるコボルトを睨み付ける。


 慧介の背中を、冷たい汗が流れ落ちていった。

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