ある世界のエピローグ
あぁ、終わったのか。
真っ白な光に包まれて、自分の肉体が砂のように崩れて行くのが分かる。
もう転生を重ねて彼此百八回。
煩悩の数かよと突っ込みを入れながら、目の前にちょこんと座り込んだ、少女だか少年だか中世的な子供が俺に話しかける。
「すみませんね。ウチの暴君がご迷惑をお掛けしました」
「本当だよ…まったく…それで、俺はこのまま死ぬのか?」
初めての転生は、本当に最悪だった。
呪いは掛けられるわ、ロリ娘には転生毎にストーキングされるわ、それでも、この世界は面白かった。
その諸悪の根源も、目の前の新たな神様が倒したようなので、もう心残りは無い。
とはいえ、素直に死ぬのも何だか勿体無いと思っていた。
「死ぬ前に、お願いは無いですか?あまり難しい物は叶えられませんが…先代の神の呪いは、完全に解けています。ですので、次は記憶の引継ぎも無い、本当に最後の人生です。ささやかではありますが、転生先と、その後の職業など、人生に困らないように、加護をお付けしましょう。さぁ、どこが良いですか?」
「そんなの、決まってる」
サラサラと零れていく手を上に突き上げて、ぎゅっと握り込む。
「元の世界に帰してくれ。そして…あぁでも、こっちの世界の飯が食えなくなるのは、寂しいな」
「元の世界に戻す事なんて、造作も無いですよ。…こちらの料理ですか…それでは、こういうのはいかがでしょうか?」
そっと、悪戯っ子のように耳打ちすると、神様は綺麗な笑顔で俺に別れの言葉を口にした。
「次こそは、貴方に幸多き人生でありますように」
こうして、数千年続いた魔族と人間の戦いは、勇者の死と共に終わりを告げた。
勇者の死は、いつも傍にいた神官と、その神官を遣わせた新たな神だけが知っており、その後の歴史書には、この暗黒時代を終わらせた勇者こそが神になったのだと言われている。
しかして、その真実を知る者は、もうこの世界にはたった一人しかいない。
その一人も、この世界に対して、さして興味は無いようで、たまに貿易会社を作っては別の世界を観察している。
これは、勇者が元の世界に帰った、その後の物語である。