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プロローグ

本格推理小説です。

犯人当てを目標にしています。

是非、謎解きに挑戦してみてください。

黒影十字軍

―殺人幕―

   

著者 五塔麻弓

 















 登場人物紹介


国貞健吾………劇団「黒影十字軍」二代目劇団長 キング、ジョーカー役(32)

由理かもめ……「黒影十字軍」男優 本名木本泰平 スペード役(27)

紅井武丸………同 本名木村勇樹 クローバー役(24)

水野麻莉亜……同女優 本名神崎ユイ 現役無し(24)

夢見カレン……同 本名塚原霧子 ダイア役(25)

牧野康明………脚本家 「私」 (30)

佐藤勇次………新入りのバイト君(18)

山本一郎………劇場「黒船」の管理人(71)

姫嶋美代子……劇場「黒船」で謎の自殺をした元ハート役(故人)

石川紗希………喫茶店「K」の店員(23)


プロローグ

2006年12月31日

* * * 

それは本当に一瞬の出来事だった。彼女は舞台へ上がり、二階に続く階段を素早く駆け上がった。そして二階の窓に身を乗り出した。

 彼女は目に涙を浮かべていた。何故こんな事になっていまったのか、まったく分からなかった。

「何故なの……なぜ? 私はただ真面目に頑張ってきただけじゃない……なのに」

 彼女は自分の自慢の衣装に手を触れた……衣装はビリビリに引き裂かれ、切れた衣装からは白い肌が露出していた。

 後ろの扉の奥からは、彼女を呼ぶ複数の人間の声が聞こえた。

 しかしそんな声は彼女には届かなかった。

 彼女は窓に座り、空を見た。すでに太陽が昇ろうとしていたが、風は冷たく彼女に吹き付ける。

 そして彼女は頭から地面に身を投げた。

* * *


2007年1月27日

 私は部屋の真ん中に座っていた。この一ヶ月の間、一日たりとも自由に休めたことは無かった。

 私は、ある劇団の脚本家をやらせてもらっている。一ヶ月……去年の十二月の話だ。2007年を翌日に控えた『十二月三十一日』に劇団員の一人が謎の自殺をした。

 不可解で理由も分からないまま、警察は単なる事故と判断したが、マスコミは黙っていなかった。毎日のように来る取材陣、雨のように掛かってくる電話。とてもじゃないが、体を休めることなど出来なかった。

 しかし一ヶ月もすれば、そのような輩も日に日に減っていき、ついには来なくなった。

 私はただ部屋に座っていた。疲れを通り越し、無気力になっていた。

 そんな私に一本の電話が掛かってきた。

 プルルルルル……何日ぶりかの電話に、私はビクッとした。またマスコミからの電話かと思ったからだ。しばらく無視をしていたが、コールが止まらないので私は仕方なく出た。

「はい牧野ですが」

「康明か! ……久しぶりだな、僕だ」

聞き覚えのある声に思えた。

「国貞だよ」

 電話の主は私が脚本家をしている劇団の団長、国貞健吾によるものだった。彼とは長年の付き合いがあり、プライベートでも親交があったので、この時の電話はとても嬉しかった。

「国貞か。確かに久しぶりだ、あの事件以来だもんな」

 私が真っ先に一ヶ月前の事を言ったので、国貞はたじろいだ。

「あ、あぁ、そうだな。君はこの一ヶ月何にも無かったのかい?」

「そんな事は無い、正直一ヶ月間大変だった。マスコミへの対応にね」

「君にもか、僕のほうも大変だったよ、団長としての責任がどうとかで……」

国貞は真面目に言っているようだったが、話を逸らそうとしている事に私はすぐに気が付いた。

「私の方から電話する事はあっても、国貞から電話してくる事なんて滅多に無い。何か大事な話があるんだね」

私は国貞とプライベートで会うときも、私から電話をかけている。国貞から電話を貰った事は恋愛相談の時ぐらいだ。

「あぁ、やっぱり気が付いた? 電話をかけるのは苦手でね」

「で、私に何のようだ?」

「あぁ、実は今回……また劇団を復活させようと思ってね」

「はぁ? 国貞、自分が何を言ってるか分かっているのか?」

私は国貞が言っている事が信じられなかった。たった一ヶ月前に自分の劇団で死者が出たというのに、この男はまだ舞台をやりたいというのか……

「僕は大真面目さ、だから脚本家である君に、真っ先に電話したのさ」

「そんな……私は反対だ、そんな事」

正直、これ以上変な事には関わりたくなかった。心が折れていた。しかし、国貞は

「いいかい? これは君にも良い話なんだよ?」

と言った。私は国貞が言わんとする事を分かりながら

「……どういう意味だ? 私になんのメリットがあるというのだ」

と言った。

「じゃあ聞くが、君はこれからどうやって食っていくんだい?」

やっぱりそこを突いてきたか。

「そ、そんなのはバイトしてでも……」

「なんの資格や免許を持ってない、三十の男がか?」

「ぐ……」

確かに普通の会社なら、こんな奴より若い学生を採用するだろう。

「良いかい? もう一回言う、これは君にも良い話だ……もう一度考えてみてくれ」

国貞はトーンを崩さずに、再度言った。

「ちょっと待ってくれ。いくら私と国貞が大丈夫だからって、他の劇団員はどうなんだ?」

「じゃあ君はもう決定なんだね?」

「仮に私が良いとしてもだ」

私は熱くなっている自分に気がつき、声を和らげた。

「それでもいいさ、君はとりあえず、そこにいて僕の電話を待っててくれ。他の劇団員に連絡してみるから」

「はぁ……」

「いいかい?」

「分かった。じゃあ、切るよ」

「あっ、待って」

受話器を置こうとした私を国貞が呼び止めた、そして

「電話のジャックは抜くなよ」

と言った。

「そんな事分かってるよ!」

私は受話器を荒々しく置いた。


「劇団の復活か……」

私は静まりかえった部屋の中で一人呟いた。こうしてみると先ほどの国貞との会話が、夢だったようにも思えてくる。

 劇団をもう一回やるなんて、考えても無かった。いや、考えてはいたが心の中でそんな事を考えてはいけないと、思っていたのかもしれない。

 国貞が言った事は確かだ。私には今、生きていく当てがない。一ヶ月間仕事も無く、貯金を下ろして生活するという事をしていた。

 しかし本当に復活などして良いのだろうか? 人が一人、それも身近な人間が一人死んだんだ。それも自殺。自殺の理由は分かっていないが、少なくとも私は自殺の原因になる事(自分では思う……)はしていない。

 ただ自殺の場所があそこだったのだから、きっと自殺の原因は劇団内にある。

「はぁ……」

胸の中が重くなり、ため息が出た。

 腕時計を見ると、午後二時を指していた。まだ日は落ちていない。

 国貞からの電話はいつになるだろうか。私はまったく眠気は無いものの、布団を敷いた。布団に横になり、私は一ヶ月前に自殺した劇団員、『姫嶋美代子』の自殺した日の事を思い出していた……



ご拝見ありがとうございます。


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