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勇者、修羅場になる

さてこの状況にレントはどう出るでしょうか。

やはりここは一度邪魔者を追い出して仕切り直しというのがいい策だと私は思いますが。


「俺は本気です! 本気でハルさんのことが好きなんです!」


まさか自分の名前が挙げられるとは思ってもいなかったために慌てているハルの目をじっと見つめ、レントの表情には冗談の欠片も感じられない。

第三者から見ても体感気温が3度ほど上がるのではないかという恥かしい言葉。

ハルはそんなレントの真剣な眼差しと言葉に、よくやく少し落ち着きを取り戻した。

あぁ、レントもハルもリュウの登場はなかったことにするわけですね?

ノーカウントってことですか。

うん、でもいくらこのタイミングで入ってきたリュウが悪いとはいえ少しはリュウを見てあげないとリュウが泣きそうですよ。


「分かってるよ…。分かってさ…。戦士なんてレントと被ってる役職だから冒険中でも目立たないんだよな俺。そんな影の薄い存在だってのは分かってる。だけど、だけどせめて邪魔だくらいは言ってくれよ!?」


ほら、冒険中の悲しい裏話と共にリュウが怒っちゃったじゃないですか。

リュウは切実な想いをブチまけながらレントに訴えかける。

けれどそんなリュウはレントの視界に入っていない。

アウトオブ眼中だ。


「おっさんと魔王を倒せばハルさんに告白してもいいっていう約束をして、俺そのためにここまで来ました」


サッカー日本代表もびっくりのスルー。

完全にリュウの訴えという名のパスをスルーした。

当然、後ろには誰もいないので他に拾ってくれる人もいない。

あ〜あ。

リュウがいじけて店の隅で『の』の書き取り練習始めちゃいましたよ?

放置していいんですか?

……………はい、了解です。

ここまでくればもう通すんですね。

リュウは完全に無視する方針ですね。

リュウ、お疲れ様です。


「だから俺はそれくらい本気です! 俺と付き合ってください!」


頭を下げ、手をハルに差し出す。

しばしの沈黙。

リュウが入ってきた為に少しだけ開いている扉の隙間から聞こえる観衆の騒ぎ声以外に耳に入る音はない。

カウンターに座る男だけが目を凝らしてその差し出した手の行方を見つめ、ハルが手を動かした瞬間両手を額に当て天を仰いだ。

小さな手できゅっと優しく包まれるレントの手。

顔を上げるとその小さな手はハルのもの。

彼女は頬を桜色に染めながら恥ずかしそうにはにかんだ。


「私なんかでよければよろしくお願いします」

「っしゃあぁぁぁーーー!!」


ごく普通の一軒家に響く勇者の歓喜。

魔王を倒した時以上に喜んでいることにいじけているリュウは気がつかない。

ハルを抱きしめ、ハルもまたレントを抱きしめ。

今ここに一つのカップルが誕生した。

こらそこのおっさん、僻まないの。

あなたが許可したんでしょ。

娘さんの意思を尊重しなさい。


「やったぜリュウ! 俺告白に成功したよ!」


プチン


キレちゃった。

リュウの中で何かがキレちゃいましたよ。

レントの喜びの声と共に、リュウが書き取り練習を止めて立ち上がる。

そして有無を言わずレントの首根っこを引っ張り怒鳴った。


「俺の話は無視して自分だけ祝福か。いい身分だな。さてレント。さっきも言ったがさっさと城に行って王様に報告するぞ。ついてこい」

「俺も行くのか!? ここに残りたいのに!」

「断る。俺が許さない。お前だけ残って幸せを噛みしめるなんて誰が許すかっての」

「ちょっ! リュウ! 首締まるから! また後でくるからね!」


自業自得とでも言おうか。

最後の最後でリュウの逆鱗に触れた(上手いこと言ったと自分でも思う)レントは愛しの彼女と引き離され、去り際に再開を誓って扉の向こうへと消えていった。


「リュウさんって意外と怒ると恐いんだね……」

「あれだけ無視された挙句あの仕打ちだ。誰だって怒るさ」


よかったね、リュウ。

最後に印象付けて去ることができたじゃないか!











修羅場。

誰もが経験したくないのにも関わらず、突如発生してしまう空間。

そして関わりのない人間までもがその場にいることによって凄まじい空気に圧迫されてしまう。

ある意味それは魔王よりも恐ろしいとか。


「ゆ、勇者よ。お主には既に誓い合った仲の者がいると……?」

「はいっ! 」

「ハキハキ言うなバカ! 状況考えろやコラ!」

「へぇ……? あたしの知らない間にレントって女の子いたんだ……?」

「落ち着きましょうミウさん。短剣を抜こうとしないでください」


だが残念なことに今ここはそんな恐るべき修羅場と化し、王室の温度を絶対零度まで下げている。

この状況を作ったのは当然レントだ。

魔王討伐の報告を行い、その名誉を讃えられた後、王に自分の三人娘の内一人と結婚しないかと勧められた時事件は起こった。

普通であれば急な話なので少し考えさせてください云々で場を切り抜ければよかったのに。

なのにレントはわざわざ自分には既に彼女がいますと言ってしまったのだ。

イケメンレントを狙っていた三姉妹は勿論、共に冒険をし、ずっとレントに好意を寄せていたミウはそれを聞いて愕然。

こうして修羅場が誕生したのである。

えぇ、レントはバカですよ。

幸せボケで何も考えてないです。

仕方ないので魔導師のタイガさん、再登場剣士のリュウさん、この修羅場よろしくお願いしますね。




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