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勇者、告白する

そこは少し古びた道具屋。

並んでいるのは上級者向けの漆黒に輝く太刀や見るからに軽そうな短い短剣。

隅には格安で初心者用の木の盾や、木の剣まで置かれていることから幅広い客層向けの店だということが分かる。

木造建築故にそれなりの年代と落ち着きを感じさせる雰囲気だが、それでいて埃っけ一つないのは衛生管理に充分に気をつけている証拠だ。

現在店内には立派な(あごひげ)を生やした男が一人、カウンターで腕を組み寝ているのみで、客がおらず静寂が漂っている。

遠くに聞こえる住民の騒ぎ声。

裏路地の奥にあるこの場所まで声が聞こえるということは余程の騒ぎだが珍しいことではない。

この辺りでは魔王が世を支配しはじめて以来よく騒ぎが起きるようになったのだから。

ただ、カウンターで寝ていた男は騒ぎ声とは別に聞こえる誰かがこの店に近づいてくる足音でパチリと目を覚ます。

その数秒後、錆びた扉の蝶番の軋む音、開いた扉の影響でボリュームが増量されて聞こえてくる騒ぎ声と一緒に一人の少年が店内に入ってきた。

壁際に置いてある漆黒の剣とほぼ同じ大きさの剣を背中に背負い、動きやすい軽装の少年は男を見るなりニヤッと顔を綻ばせグッと親指を立てた。


「やったぞおっさん。魔王を倒したぜ」

「そうか。お前ならやると思ってたよレント」

「そりゃ半分このために頑張ってきたみたいなもんだからよ」

「そんなにいいか。お前ほどの容姿ならもっといいのがいるだろ」

「バカ言え。他なんて考えられるかよ」

「だったら好きにしろ。ただし断られたらお前も諦めろよ」

「分かってるって」


普通の人間なら魔王を倒したと知ればお祭り騒ぎで騒ぎ立てるはずだ。

事実、それを知った住民が外で騒いでいるのだから。

にも関わらず、ここにいる少年と男はそんなお祭り騒ぎなど感じさせず少年ーーレントに限っては表情が緊張している。

男は大きく溜息を吐き、面倒そうに店の奥に声をかけた。


「おいハル! ちょっと来てくれ!」

「お父さん何? 今棚を整理してたのに……。あれ? レントさん…?」


奥からはレントと同い年くらいの少女がポーションを数本手に抱えたまま出てきた。

少女はレントという思わぬ来客に少し驚きつつ、手持ちのポーションを男の前のカウンターに全て置く。


「えっと…どうしたんですか? 確か最後のダンジョンに行ったと聞いたんですが……」

「もう終わったよ。最後のダンジョン攻略も、魔王討伐も、全部ね」

「ほ、本当ですか!? 魔王を倒したんですか! レントさん凄いです!」


ハルの純粋な褒め言葉にレントは顔は耳まで熟したトマトのように赤く染め上がった。

純情ですね。ピュアですね。

しかし男の、我が娘にデレるレントを睨みつける鋭い眼光に気がつき頭を振って火照る顔をクールダウンさせる。

幾度か深呼吸を行い、今日初めてハルを真っ直ぐと見つめたレント。

レントの胸辺りほどしかない150cmほどの身長。

背の中ほどまでにまっすぐ伸びた輝く銀髪。

細い線の輪郭が織りなすレントの片手ほどの大きさの小顔。

すっと高く伸びた鼻に、長く整った睫毛と細く濃い眉。

それらをより際立てるきめ細かい白い肌。

何より見つめられるだけでドキッとしてしまう蒼い瞳は見ているだけで吸いこまれそうなくらい純粋で濁り一つ感じられず、そんな少女の存在だけでレントにとってはこの古びた道具屋が煌びやかに彩られる。


「悪かったな古びた道具屋で」


いや、今のツッこまなくて結構でしたよ?

これナレーターですから。

…………それとさっきのはレントの心境ですからね?

私の思ったことではないんで。

だからその怖い目つきはやめてください。

コホン、では気を取り直して。


そんなレントにとっては神々しくさえ思えるハルを見つめ、またも目を反らしそうになるがなんとか堪える。

今日はやると決めたんだ。

ただその一心で。


「じゃあもうレントさんは英雄かぁ…。何だか寂しいです。レントさんが強いっていうのは知ってたのにいざこうして強い者として英雄になると違う世界の人みたいで遠く感じます」

「そ、そんなことないです! 俺今度からもここに来ますから!」


レントはハルの言葉を強く否定するように大声で言い張る。

突然レントが大声を出し驚いた表情でレントをしばらく見つめたハルはクスクスと手を口元に当て小さく笑った。


「ありがとうございますレントさん。まさかそこまで言ってくれるなんて」

「いや、あの……その…」


自分の言ったことの恥ずかしさに、先程とは別の意味で顔が熱く感じる。

けれど次は視線を感じる前にそれらを振り払い、真剣な表情を作った。


「ハルさん。俺、魔王を倒したら絶対にやろうって決めてたことがあるんです」

「決めてたこと…?」

「はい。全てが終わったからこそ、やろうって」

「それって何なんですか…?」

「告白です」

「告白…!?」


まだ純粋無垢なハルには早かったのか今度はハルが顔を赤くする番だった。

肌が白い分、余計に赤くなっているのが目立ち、レントが内心テンパっていなければ気がついていただろう。


「それってミウさんですか…?」

「ミウ? 何でここでミウが…?」


恥ずかしそうに尋ねるハルに対し、レントは頭に?を浮かべて聞き返す。

ミウはレントの冒険仲間。

いつもなら他の仲間とも一緒に店にくるためハルがそう思うのも無理はないだろう。


「ミウさんじゃないなら……誰でしょうか……?」

「そ、それは……」


一瞬言葉に詰まるも、流石は勇者、覚悟を決めて頬をほんのり紅く染めて言い放った。


「俺はハルさんのことが好きです! よければ俺と付き合ってください!」

「へっ!? わわわ、私ですか!?」

「お〜いレント。早く城に行って王様に報告しよう………ってあら? もしかして俺、邪魔だったかな……?」


何というバット(個人的にはグッド)タイミングなのだろうか。

レントが告白したそのタイミングで店にレントがいなくなったことに気がついた仲間、リュウがやってきた。

こういう展開は嫌いじゃないですよ。



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