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とある伯爵令嬢の復讐事件簿〜妹に婚約者を奪われたので、浮気探偵はじめます〜  作者: 地野千塩


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4/5

とある伯爵令嬢の復讐事件(4)

「え、なんでうちの事、こんな詳しく調べてるの? お父様の浮気相手の素性や、ギャンブルや投資の負債、全部書いてる……」


 カミルからうちの家のファイルを読ませてもらった。読めば読むほど顔が青くなる。我が家の恥としか言えない情報ばかりだ。


 イザベルのことも書いてある。父の浮気相手の子供だ。この事情、極力隠していた。世間体が悪いからだ。一旦、イザベルを親戚の養子にしてわざわざ引き取ったが、その事もちゃんと記録されており、父がこのファイルを見たら、気絶するかもしれない。もっとも私や母については「典型的な血筋のいい貴族」というコメントしかなかったが。


 もはや猫のミルクの鳴き声が救いという状況だったが、顔をあげでカミルをまっすぐに見つめた。相手も同じように見つめてきたが、負けられない。


「このファイルは何? どうしてイザベルのこととか、父の黒歴史も記録されているのかしら。ジークの家のもそうなの?」


 だとしたら、ジーク家のファイルは見てはいけない。我が家のファイルもカミルにつっ返すが、彼は薄く笑っていた。


「実は俺の家、表向きは公爵家だが、母方の実家はスパイを生業にしてたんだ。母もスパイでな、父の弱みを握り、ハニートラップしていたんだが、ついに恋愛関係になったという。おお、俺はハニトラの息子か?」


 深刻な家の事情を笑って話すカミル。居心地悪い。思わず肩をすくめるが、猫のミルクはカミルが好きらしい。相変わらずカミルの膝の上にいた。


「おかげで貴族の事情は全部母の実家から知ってたな。探偵事務所を開いたのも、この血筋のおかげだ。父には反対されたが、血が騒いで仕方がないのだ」

「そんな薄ら笑いしながら言うことかしら……」


 事情はわかったが頭が痛い。カミルによると、こうした貴族の裏情報は内密に売買され、ちょいどいい時に切り札として使うという。


 私は腐っても貴族令嬢だ。貴族社会は一枚岩じゃない。父を恨んでいる人たちもいる。逆に父が憎んでいる人もいる。脚の引っ張り合いを隠れてやってる。そんなの常識だった。カミルの家の事情は全く驚かなかったけれど、次の提案には絶句してしまった。


「復讐しろよ。ジークやイザベラに踏みつけられたまんまでいいのか? ジークの家も色々と秘密を抱えてる。あっちの親父さん、薬物中毒らしいな。ま、貴族はストレス溜まるから薬でもやらないとやってられないんだろ」

「ちょ、ちょっと待って。そんな人の秘密を暴くようなことなんて……」


 カミルは私の戸惑いを無視した。


「お、息子のジーク、女関係がだらしない噂もあるね。噂の段階だが、がっつり証拠を見つけ出すぞ。イザベルともども復讐しろよ」

「そんな……。復讐なんて」


 そんなのはできない。死んだ母からは、悪意に悪意で返さないよう教育されていた。万が一無礼をされても、令嬢らしく、清く正しく背筋を伸ばすようにと言われていた。


「なあ、それって泣き寝入りとどこが違う? 俺はそういうの嫌い。泣いてばっかりの弱いやつって嫌いだ」


 カミルはそんな私の思考を読んだかのようだ。猫のミルクも床に降りて探検していた。一方、カミルは足を組み、実に偉そうに座ってる。変人と噂のカミルだが、それだけではなさそう。


「泣き寝入りじゃないわ」

「いいや、泣き寝入りだ。濡れ着、無礼、婚約破棄。全部まとめて七倍にしてお返しろ」

「そ、そんな簡単に言わないでよ。第一方法がないわ」

「馬鹿だな」


 カチンときた。初対面でもイライラさせられた男だったと思い出す。


「いじめと浮気の動かぬ証拠を探すんだ。で、大勢の前で公表するんだ。自分は無罪だって」

「そんなの無理」

「お前、本当に令嬢か? やる前から怖気づいているだけだろ? さっきも言ったが、俺は弱いやつが嫌いなんだよ。実にイライラするね」


 またカチンときたが、もしかしてこの人、発破をかけてる?


 そういえば、自分の置かれた状況について、こんな風に言う人はいない。マーサのように同情してくれる人はいる。でも、やり返せなんていう男、どこにいる?


 急に身体が熱くなってきた。手に汗も出てきた。


 カミルが言うように泣き寝入りしようとしていたのも事実だ。


 何か強い意思があるわけでもなく、黙って現状を受け入れていただけ。でもそれは、母が教育したかった令嬢の姿だろうか。母も父の不貞によく裁判を起こしていたではないか。結局、離婚は回避していたが慰謝料はたんまりと受け取っていた。


「こっちはプロだ。特に浮気と不貞関連は得意だ。どうだい? 俺が教えるから自力で証拠を見つけないか?」


 カミルは探偵事務所の求人チラシを持ってきた。


「ちょうどいい。お前が探偵助手になって反撃すればいい。泣き寝入りすんな。恐れるな。負けるなよ」


 目の前にチラシを突きつけられた。時給には惹かれる。自分が稼げば、マーサの時給があげられるかもしれない。猫のミルクのオモチャも買えるかもしれない。ふわふわな白いパンが食べられるかもしれない。新しいドレスだって着られるかも。


 正直、何だかわからない。令嬢として復讐とか仕返しとか、無縁と思っていたから。


 それでも、不幸な現状には負けたない。イザベルとかジークとかどうでもいいんだ。戦うべき敵は現状。それだけはわかる。カミルをまっすぐに見つめ、深く頷く。


「よくわからないけれど、この求人は惹かれる」

「おお、いいじゃんか。さて、さっそく調査計画を立てる。詳しい事情を説明したまえ」


 カミルって偉そう。実際、椅子にふんずりかえっていたが、ちょっとワクワクしてきた。成り行きでもいいか。自分では一切望んでも見なかった展開だが、そても悪くない気がする。


「ミャア!」


 猫のミルクの鳴き声が響く。この子が導いてくれたのかもしれない。


 そう思うと、余計に胸がワクワクしてきた。

 

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