表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/109

80 黒煙

 翌朝早く、ニニンドはハヤッタの部屋に行った。

「カヌン兄弟からの報告は届きましたか」

「いや、まだですが、そろそろ届くころです」

「帳簿はいかがでしたか」

「数字の上では、おかしなところはないのですが、実際の国庫と照らし合わせる必要があります。しかし、そちらの管理はマグナカリ殿下がなさっておられるので、……」

「はい。どのようにして、頼むかということですよね」

「とても難しいお方ですから、慎重に進めなければなりません」

「私が頼んでみましょうか」

「ありがたいのですが、それはちょっと待ってください。ことがもっとややこしくなるかもしれませんから」


 十時を過ぎた頃、黒い煙が見えたとの報告があった。いくつの師団を経て、カヌンからの伝言が届いたのだ。

 白い煙なら、国境の師団にジェットはいる。黒い煙なら、いない。上がったのは、黒煙だった。


「ジェットくんは駐屯地にはいない……」

 ハヤッタの声が心なしか震えていた。

「やはり姫といたのはリクイのお兄さんのようですね。何があったというのでしょうか」

「行って、訊いてくるしかない」

「現地に行って訊く、という意味ですか」

「そうです」

「その役目は、私にやらせてください。行かせてください」

「殿下はここにいてください」


 ハヤッタは自らが国境の第七師団まで行くことを決め、部下を呼んで、馬車の準備を命令した。

「私も行きます。馬は得意です」

「いいや」

 今度も、ハヤッタは首を振った。


「殿下はここに残り、鬼ヶ岳捜索のほうの指揮をとってください」

「わかりました。でも、殿下ではなくて、ニニンドと呼んでください」

「それはできません。ニニンド様はもう王太子なのですから、殿下と呼ばせていただきます」

「わかりました。では、指示をお願いします」


 ニニンドはハヤッタの判断力、決断力、そして優秀な部下を育て抱えていることをそばで見て、学ぶことばかりである。

 ニニンドは国王から王太子になってほしいと懇願されているが、実のところ、何をどうすればよいのかわからない。

 しかし、ハヤッタの行動を見ていると、自分の混沌としている意識に、たとえばどんよりしている池に、石が投げられ、その石が水面の水苔を引き連れて沈み、澄んだ水になったような感じがするのだった。

 彼を指針にすればよいのだ。自分も、彼のようになりたい。ならなくてはならないのだ。はたして、できるのだろうか。 

 

 リクイが報告を聞いて、部屋にやって来た。いつもよりも小さく見える。

リクイも兄の駐屯地に行きたいのだが、言い出すことができない。リクイは昨日も、崖から二度も滑り落ちて、捜索の手足まといになったことを恥じていた。


「リクイくん、きみは私と来るんだ」

 とハヤッタが肩に手を置いた。

「いいえ。馬は得意ではないですから、ぼくはここで待ちます。鬼ヶ岳で、兄さんが見つかるかもしれませんから」

「そのことは殿下にまかせるんだ。兄さんが二年間過ごした場所を見たくはないのかい。馬で行くわけではない。馬車で行くのだから、心配はいらない」

「その場所は見たいです。ぜひ連れて行ってください」


「ハヤッタ様は全然、休んでおられません。大丈夫なのですか」 

 とニニンドが言った。 

「馬車の中で眠っていくから、私の心配はいらない。これはどうしても、私がやらなければならないことなのだから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ